金曜日〜社食〜
「ーーところで」
彼の声にふと箸が止まる。
「何で最近丼もの食わないんすか?田中課長…」
「ああ…」
そう言われて気付いた。
ここのところ、朝食と夕食が卵かけご飯ばかりだからだろうか。
そうなるともう栄養もへったくれもなくなってきてるので、どうにか挽回したくなるのが人間の性だ。
昼が麺類やサラダに偏っているのはその為だろう。
「その、君に言われて……」
「へ?なんすか?」
「いや、君に言われて丼もの以外のものも食べたくなってな」
「そうなんすか」
危ない…
あやうく『君に言われて料理を始めてみたんだ!まだ卵かけご飯しか作れないけどね!』と言いそうになるなんて…
そんな事まさか口が裂けても言えん。言えんぞ!
俺のプライドに賭けて…!
「あれ?でも俺、麺類なんて薦めましたっけ?」
そう、山下くんが薦めたのは“定食”だ。
麺類は君が食べていたものだ!
「そう言えば山下くん」
俺は彼の言葉を遮った。
「君は自炊とやらをしているんだったな」
「え?ああ、はい。してますよ」
「例えばどんなものを作るのかね?」
「そっすねー…」
聞かれて彼は考える。
一体何を、作っていると言うのだ⁉︎
「まぁカレーとかっすね♪」
なにぃぃぃぃっ⁉︎
い、いきなりレベル8だと⁉︎
「あとは普通にチャーハンとかオムライスとか…」
ば、馬鹿なっっっ⁉︎
レベル5と6が同時に…!!!
しかも普通に、だと⁉︎
「まぁ男の手料理なんてこんなもんすよ」
「そ、そうなのか」
れ、レベルが違いすぎる。
俺なんぞ到底敵わん…
「でもいきなりどうしたんすか?急にそんなこと聞いてくるなんて」
「いや、前にその話しになった時、中途半端に終わった気がしてな」
「課長ってば真面目っすねー」
ケタケタと笑う彼の目を、俺は見る事が出来なかった。
そうか、これが料理男子というものか。
こうもあっさりと出来るアピールが出来るものなのか!
悔しい…
何故か悔しい…
だが俺はまだレベル1をクリアしたばかり。
まだまだ彼に辿り着くには程遠い道のりだ。
「はは、そうか?」
手元の塩ラーメンが、今日は一段と塩味が効いている…気がした。




