25話
こういうとき…他の人ならどうするだろう。やはり素早く台座を持ってきて背の低さをカバーするのだろうか。それとも肩車をして2人分の身長を利用して物をとるだろうか。
…まあどう考えてもぴょんぴょん飛び跳ねるよりかはその方が効率的に決まってるよね。俺もそれはわかってる。
だけど、ここで身長の低さがフランと同じだということを兄のプライドというのか、認めることができない俺はどうしてもその選択ができなかった。
本当にしょうもないプライドだってこともわかってる。頭の中ではわかっているんだけども、どうしても心の内側がそれを抵抗しているのだ。
「お兄ちゃん、いつまで飛び跳ねてるの…。もうそれじゃ届かないよ」
「まって!あと少し…あと少しだから」
「そう言ってかれこれ10分近く経ってるんだけど…」
フランはそう言うと俺の変わらず続けるこの行動に呆れたのか、はぁ…とため息を吐きながら何処かへと去っていった。
どうやら台を取りに行ったのだろう。食器は台を使えばフランでも届く位置に置いてある。
要するに、俺が食器に手を伸ばし続けていられるのも時間の問題だ。早急に食器を手に取らなければフランに兄のしょうもないプライドをズタズタにされてしまう…。
それだけはどうにかして避けないと…、でも俺の身長でこのままジャンプを続けたとして、急に身長が伸びでもしない限り食器を手にすることは不可能だ。
「でもさ、フランがいない今…どんなずるい手段を使ってもバレる心配はない…よね?」
うん、そうと決まれば実行するしかない!
俺はうんうんと頷きながら飛び跳ねるのを一旦中断すると、辺りを一通り見回した。
とりあえず台座が近くにないのはフランがリビングから出て行ったことからなんとなくわかるけど、ここで俺も同じように台座を探しに行ってしまうとフランと入れ違いになる可能性だってあるし、台座を使っているところを見られてしまう可能性だってある。
つまり台座を使うことはできない。
自分の手のリーチを伸ばすことができ、かつ素早く身に隠せるもの…。それが今俺が1番欲しいものなんだけど。そうなるとやっぱり棒とか俺の剣とかその辺になるよね。
ただしくじって食器を棚から落とす未来がはっきりと見える…。でも他に策を考えてる時間もないし…。
「もうこの手でいくしかない…か」
幸運にもソファーのすぐそばに俺の剣は立てかけられている。これで上手く鞘の部分を当てて食器をずらせば俺の手の元に落ちてくる、というなんともシンプルな作戦を俺は実行することにした。
というわけで、俺は早速剣を上に掲げて鞘の先を食器の方へと向ける。そして慎重に食器へと鞘を近づけていき、そっと触れ合わせた。
「ここで上手くズラして、俺がキャッチすれば…!!」
息を止め、最大限まで集中力を高めると、俺はそのまま鞘に触れている食器をぐいと押した。これで上手く外に出すつもりだったが、鞘で食器のど真ん中を押してしまったため、食器は鞘と一緒に奥の方まで入り込んでしまった。
「ってやらかしちゃった!!!」
押すだけじゃ中に入り込むなんてわかってたことじゃん…。引っ掻くようにして食器を回しながら外に出すならまだしも、普通に押しちゃうなんて…。
こうなるともう俺じゃとれない…。
「どうしよ…。もう剣じゃ届かない位置まで移動しちゃってるし、下からじゃ食器がどこにあるかも見えなくなっちゃったし…」
俺がどうするかと悩んでいたところ、不意に後ろから扉が開く音が聞こえてきた。
どうやらタイムリミットのようだ…、俺の努力は無駄に終わったんだ…。ごめんフランもっと取りにくくしただけだった…。
俺は人生の終わりを悟りながら地面に這いつくばった。もうお兄ちゃんなんて称号、誰かに譲ってもいい。こんなプライド…もういらない…。
「誰かと思ったらお前かよザック。なに人生の終わりーみてーな面してんだ」
ふと、上から聞こえてくる…明らかにフランの声ではない低音の声に反応し俺は上を向いた。
「あれ…、フラン…じゃなくてガレアだ。あ、あれ…ガレア家にいたっけ…」
「今帰ってきたとこだ。そしたらよ、ちっこいのが食器棚の前でぶっ倒れてんだから冷やっとしたぜ」
「ち…ちっこいのは余計だよ」
するとガレアは「なんだよこいつが取れなかったのかぁ?」とため息混じりに言いながら、今さっきまで俺が激闘していた食器をひょいとつまみ上げた。
そして俺の手の上にそっと乗せる。
「取れねーとこに置くとか馬鹿じゃねーのかお前」
「い、いや置いたのガレアでしょ…最近料理してるのガレアだしさ」
「あ?言われてみりゃそうかも。いやーわりぃわりぃ低いと取りにくいからよ」
今のセリフ軽く俺たち背の低い人のこと馬鹿にしたよね。絶対したよね。慎重低い人に向かって今のセリフは宣戦布告だと認識しちゃっていいんだよね…?
がるるるる…と今にも飛びかかりそうなくらいに威嚇をしながらガレアを睨むが、全くそれに気づかないガレアは「まあ頑張りたまえちっこいの〜」と最後まで小馬鹿にしながらどこかへ去っていった。
「俺だってまだ成長期なんだから、見てろよぉ〜…ガレアなんてすぐに追い越してやる」
だがしかし、俺のことを育ててくれたお婆ちゃん情報だと、俺の両親は2人とも背が低かったらしい。どうやら遺伝子的には期待できそうにないみたい。
まあ、そんなことはさておき、この食器をどうするか…それが問題だ。これ俺が取ったわけじゃないしね。それを取ったぞーってフランに自慢するのも気が乗らないし…。
ズルしてでも俺が取るのと誰かに取ってもらうのではまったく意味が違う。
「結局ちょっともお兄ちゃんっぽいところ見せられないのか…」
俺ははぁ…とため息を吐きながらその場に座り込むと、フランが戻ってくるのを待った。




