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第八話~新生活~

久々の更新! 数少ない読んでくださっている方々、大変お待たせいたしました!

「いやー、とんだ災難だったな、ジョー」


「うっせぇ……。大体お前、見てるだけで助けようともしなかっただろ……」


「うん、実に面白い物を見せてもらった」


 ニッコリと良い笑顔をするジン。攻撃を受けている俺よりも攻撃をしている生徒達の方が悲痛な叫びをあげているというカオスな状況の中、ジンはひたすらニヤニヤしながら見ているだけだった。……コイツがシリアスにそれを止めてる光景なんて想像できないが。


「リーダー大丈夫? 痛くない?」


 俺の心配をしてくれるのはアクアくらいだよ……。まぁ、元はといえばアクアが勝手に学校へ来たのが原因なのだが。


「ご、ごめんなさい……。寂しくって……」


「ヒュー、神山くんってば必要とされてるねぇ」


 ……アクアは可愛いんだけど、何かと誤解を招く発言や行動を平然とするという何処のラノベだよと突っ込みたくなるような特性を持っているらしい。俺はアンデッドだが、このままでは社会的な意味で死にかねない。


「うーん、今後は気をつけてね」


 アクアと社会的生命を天秤にかけたらアクアの方に傾きそうだったので、頭を振ってその考えを追い出す。ドラゴンになったとはいえ、俺だって思春期な男子生徒。楽しい青春を過ごすためにも、学校でのコミュニケーションは大切にしたいのだ。


「で、ジョーよ、一つ忘れている事は無いかい?」


「え?」


 アクアと二人してキョトンとする。


「……紹介しろよ」


「あ、そっか」


 あんなトラブルがあったせいで、アクアの紹介をまだしていないんだったな。さて、どうしたものか……。


 俺が悩んでいるのは、普通に彼女を“アクア”という名で紹介していいのか、という事だ。ハーフと言おうにも彼女は髪の色以外は一応日本人顔だから怪しまれかねないし……。


「私、アクアっていうの! よろしくね!」


「おう! アクアちゃんか。俺は桐谷仁だ、よろしくな!」


 杞憂だったようだ。というか、展開早ぇよ。


 そうこうしているうちに俺の家へ着いた。全く、今日は本当に色々と大変な一日だった……。ま、大変なのは今に始まった事でもないが。


「んじゃ、また明日なジョー。末永く……」


「そこから先は言わせない」


 全力で睨んだら苦笑して止めるジン。アクアはそんな俺とジンのやりとりを、不思議そうに眺めていた。



「……」


「どう?」


 日も暮れた午後七時頃。リビングには、眉間に皺を寄せる俺と、頬を上気させて真剣な顔でそんな俺を見るアクアがいた。


 暫しの沈黙が流れる。そして俺は口を開き……。


「……旨い! 合格!」


「やったぁー!」


 ピョンピョンと飛び跳ね、体全体で喜びを露わにするアクア。そんな彼女の姿を見ているだけで、思わず俺の口元も緩む。


 俺は改めて、目の前にある卵焼きを見つめる。アクアは料理が得意との事だったので、勝手に俺が判定してやろうと思ったのである。特に意味は無い、ノリだ。


 そこでお題として出したのが、シンプルながらも作る側の技量によって出来が変わる卵焼き。調味料の量の微妙な違い、卵を巻き始めるタイミングやその時の手の動き等、経験の違いによって出来に大きな違いが出るのがこの料理なのだ。


 結果、その卵焼きは素晴らしい美味しさだった。ふんわりと巻かれた卵は中の方が適度に半熟で、絶妙に織り交ぜられた調味料の香りが鼻孔を擽る。五つ星のレストランにでも出せるような、とんでもない卵焼きだったのだ。……五つ星レストランなんて行ったこと無いんだけどね。


「あっちの世界でも、私は料理担当だったんだ!」


 スカルはあちらの世界で毎日、こんなに美味しい料理を食べていたのか……って、そういえば。


「アクア達って、あっちの世界でも人間の姿で動いてたの?」


 スカルは俺に宿った事で人間の肉体、即ち俺の体を得た感じみたいだけど、そのスカルが召還したアクアは元より人間の姿を得ていた。髪の色とか色々見るに、誰かの体をよりしろにしているって訳でも無さそうだし、あっちの世界でもその姿だったのだろうか?


「うん。でも、こっちの世界に来た時にちょっぴり変わったみたい。こんな服着てなかったし、私こんなに胸おっきくなかったもん」


 下から持ち上げるような動作をしようとするアクアから目を逸らし、自分を誤魔化すように考察を開始する。


 成る程、そういう事ならこちらの世界で馴染み深いセーラー服なのも頷ける。……まぁ、向こうの世界にセーラー服があった可能性も否定できなかったんだが。とすると、スカルも以前は別に人間体を持っていたのだろう。魂の波長が近いと、やはり容姿も似るんだろうか? DNAと魂の関係あたり、今度スカルに聞いてみるとするか。


「うっし、そんじゃ今日は二人で料理すっか」


「えー、リーダーは待ってていいよー、私が作るからぁー」


「馬鹿言え、俺だって伊達に趣味は料理って言ってるわけじゃないんだぞ?」


 これからの生活、大変ではあるだろうけど、楽しみだ。



「んー! すっごい美味しい!」


「そりゃどうも。アクアのスープも良い味してるなぁ」


 いつもよりも沢山の料理で彩られた食卓。これまで一人寂しかったその場には、今日からこの家に住む事になった女の子のアクア。たったの二人とはいえ、我が家には実に久々の賑やかさが戻っていた。作った料理もいつも以上に美味しく感じる。


 俺は今まで趣味と言いつつも、料理を寂しさを紛らわせるための道具にしてしまっていたんだと思う。しかし今度はアクアという仲間が出来て、一緒に作る事で心から料理を楽しむ事ができたのだ。これまで俺の料理に足りなかった何かが、これで埋まった気がした。


「んー!」


 アクアの顔を見れば、俺の作ったハンバーグを本当に幸せそうに頬張っている。良いリアクションだ。ようやく、自分の作った料理を誰かに食べてもらいたいという俺の願いが叶ったのだ。……スカルには感謝しなけりゃな。


『続いて、先日の高潮についてのニュースです』


 アクア特製スープを意気揚々と口へ運ぼうとした所に、点けている事もすっかり忘れていたテレビのニュースから覚えのある話が聞こえてきた。人的被害は俺とアクアの尽力によりほとんど出なかったものの、あれだけの巨大な高潮を誰も目撃していないわけがない。それどころか、岸に着く直前になってその水の壁がいきなり消滅したんだから騒ぎにならない方がおかしいのだ。


『また、この波の原因になりうるような地震や強風等は発生しておらず……』


「むーん、それにしても“アザトース”、いきなりこんな事してくるなんてね」


 はむっ、とハンバーグを頬張りながらそう言うアクア。本当本当、あん時俺がどれだけ絶望したか……。って、え……?


「“アザトース”……?」


「あれ? リーダー、スカルから聞いてないの?」


 勿論、そんな事は一切聞いていない。確かにあの数時間に渡る地獄のような説明で俺の気力が持たずに聞き漏らしていた可能性もなくはないのだが、精神世界という俺の心の中みたいな所で説明されたからか他の内容はハッキリ覚えているし、それは無い気がする。となると単なる言い忘れか?


「うん、聞いてないね」


「えー、スカルが忘れるなんてらしくな……あ」


 突如固まるアクア。何だ、一体何なんだその“ヤバイいらん事喋っちゃった”みたいな顔は。


「あっ、あははははは、私ったら何言ってんだろー、そうだよねー、アザトースなんて私も知らないもーん、スカルもリーダーも知ってるわけないもんねー」


 エエエェェ……嘘下手すぎんだろ……。全身を使ってわたわた、さらには斜め上を見つつ口笛を吹くというネタとしても古すぎる誤魔化し方だが、異世界ではあれが通用したんだろうか? というかリアルでこれをやる人(竜)なんて初めて見たんだが。


「……」


「ヒュー、ヒュヒュー……」


 淡々と高潮のニュースを伝えるキャスターの声のするリビングにて、食卓を挟んで、俺がじーっと睨み、アクアは冷や汗を流しながらあらぬ方向を見て口笛を吹く。年齢が年齢ならば奥さんの浮気がバレかけている家庭みたいな光景だが、浮気うんぬんはともかくアクアとの家庭という妄想に内心ニヤけそうになっている自分がいるのは内緒だ。


 ……それにしても、気まずい。そのファンタジーらしい中二病全開で黒幕臭プンプンの名前はとっても気になるけれど、下手に問いつめてアクアとの関係が険悪になるのはまっぴら御免だ。まだ話せない理由があるのならば、今は変に探るのは止めておくとしよう。


「そっ、そういえばさ、アクアの姿って猫みたいで可愛いよね!」


「えっ、本当!?」


 ……うむ、話を逸らすのには成功したみたいだな。アクアはド天然の上に単純なようだ。何故隠し事をしているアクアではなくて俺が話を逸らす事になったのかは分からないが、突然の俺の可愛い発言に喜んでいる様子、和むので良しとしよう。


「俺の姿って骨な事除けば結構ベーシックなドラゴンじゃん。だからアクアみたいなドラゴンが新鮮でさ」


 最も、俺にとってはドラゴンという生物そのものが新鮮な訳なんだが。


「そっか、リーダーは邪竜族だもんね」


 邪竜族。スカルの説明の中にもあった、竜の種族の一つだ。


 実はドラゴンの中にはいくつもの種族が存在し、種族ごとに全く異なった姿をしているらしい。スカルの種族であり、今は俺の種族でもある邪竜族は、まぁ早い話が前肢後肢と独立した翼をそれぞれ持つ二足歩行西洋竜だ。スカルが『名前に“邪”の文字が付くが、決して邪竜族が邪悪な種族という訳ではない』と力説していたのをよく覚えている。ポーカーフェイス――元々表情を読みとるにはあまりにも分かりづらい顔という事もあるが――を普段から決め込んでいるスカルがあそこだけかなり熱くなっていた事を考えると、過去に何か思う事でもあったのだろう。


 ちなみに俺のスケルトンボディは属性によるもので、本来の邪竜族は立派な肉体や強固なウロコを持つのだそう。ホネホネボディも悪くはないが、出来ればそっちの方が良かったかな……。


「アクアは……獣竜族?」


「当たり! 景品は私からのアーンですっ! はい、アーン」


「お、おう。今は遠慮しておくよ」


 ハンバーグを大きなスプーンに乗せて俺の前へ突き出すアクアだったが、丁寧にお断りを入れる。……自分でも実に勿体ない事をしているのは承知している。しかし、まだ知り合って一日しか経っていないのにそんな恋人みたいな事をするのはマズイのではと俺の理性がストップをかけたのだ。


 ……正直、俺自身ここまで理性を保てているのには驚いている。何だかんだで心拍数はかなり上がっているし、多少顔も赤くなっているとは思うが、何せ知っての通り俺は未だかつて女子とここまで仲良く過ごした経験など皆無。こんな超絶美少女にアーンをしてもらおうものならば、本来はギャグマンガばりに鼻血でも吹き出して卒倒してもおかしくないのである。竜になった事でメンタルが強くなったのか、それともこの状況を危惧してスカルが何かしらしておいてくれたのか……。


 ……よし、話を戻そう。ドラゴンの種族や属性に関する仕組みは、複雑なようで実は簡単だ。人間で例えると、種族はそのまま人種、属性は個性みたいなものなのだ。つまり、邪竜族からは邪竜族の、獣竜族からは獣竜族の子供が産まれるが、その子が持つ属性は完全にランダム。特に俺たちのような上位の竜種は外見を属性に引っ張られやすいので、種族的な大まかな形状は同じでも、属性によって親と子で姿が全く異なるというのが常なのだそうだ。


 ……それにしても、あの精神的瀕死(超ダルい)状態でよくまぁこれだけの説明を俺の脳は処理しきれたものだ。もしかすると、今朝アクアの言っていた“魂への焼き付け”でもやってくれたのかもしれない。確かにそれなら分かりやすくしたりする必要性は無いのかもしれないが……それにしたって俺の気持ちも少しは考えて欲しかったものだ。


「おいしかったぁー!」


 そんな事を考えてほんの少し目を離したほんの一瞬の隙に、アクアの手元のハンバーグどころか俺のハンバーグまでもが消えてしまっていたのだった。

ヒロインって大事ですね。アクアが登場した途端に、何だか文章全体が明るくなった気がします。


さてさて、アクアの隠している“アザトース”の正体とは!? 自分も続きが楽しみです♪

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