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神様と元勇者のお菓子屋さん  作者: 魔法使い
第七章 神様の初恋とヴァレンタインの巻
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神様、挙動不審

 最近フィアの様子がおかしい。

 シェイドは夕食の支度をしながら首を傾げた。全くその理由がわからないのだ。

 つい先ほどもコタツに入り、フィアは物憂げな顔でテレビを見ていた。いつもなら嬉々として見ているマレンジャーにも関わらず、だ。人間ではない彼女に体調不良などあり得ない。だから病気ではないだろう。

 この前に行った旅行でヴェルンドと話はつけたらしいから、他に悩む事が思い浮かばない。神様業もあれこれ試行錯誤しているようだが、こんな風に悩んでいた事は過去にない。

 一体なんなのだろうか。

 そんな事を考えながら、シェイドはオーブンから焼きあがったグラタンを取り出した。今日の夕食はフィアの好きな芋のグラタンだ。

 グラタンも出来上がったし、もうそろそろ夕食にしても良いだろう。シェイドは食器類をのせた盆を持ち、茶の間に向かった。

 襖をあけるとフィアがコタツから出て、テレビの真ん前に座り込んでいる。あのコタツムリが珍しいこともあるものだ。彼女が真剣に見ているテレビの画面を見れば、『ヴァレンタイン特集』というアナウンスとともに数々のチョコレートが映し出される。

 シェイドはああ、と納得した。

 フィアはお腹がすいているらしい。チョコレート好きの彼女が飛びついても仕方ない特集だ。

 シェイドはいまだに自分に気付かずテレビに見入っているフィアに声をかけた。


「フィア、ご飯だぞ」

「うにゃっ!」


 フィアは驚いたのか声をあげ飛びあがる。いくらなんでも慌てすぎだ。

 彼女は慌てふためいてテレビを消すとコタツに戻り、姿勢を正して座る。

 やはりちょっと変だ。だがその後フィアが芋のグラタンをシェイドの分までぺろりと平らげたのを見て、シェイドは自分の気のせいかもしないと思い直したのだった。



 ***



 魔界、ベルゼブブの城の廊下にフィアはいた。最近フィアはここを頻繁に訪れている。

 前から歩いてくる人影に気付き、フィアはさっと柱の影に隠れた。そこからこっそりと歩いてきた人物を覗き見る。

 彼はフィアの隠れている場所の手前で背後から来た者に呼び止められた。


「フローレティ様!」


 フィアは話し込み始めた二人をじっと見つめている。そのせいで己の背後に近づく気配に気づけなかった。


「神様か」


 突然後ろから声を掛けられ、ぎょっとなって振り向く。そこにはベルゼブブが立っていた。不思議そうな顔をしてフィアを見つめている。


「ここで何を?」

「え、えーと、えーと……あ、そうだ。フィアね、ベルゼブブの子どもに会いたいの」

「ああ、そんな事か。私の補佐官を睨んでいたから、何かあったのかと思った」


 まずい。見られていたらしい。

 フィアは慌ててぶんぶんと首を横に振る。


「違うもん。ベルゼブブ探してたんだもん。その子フィアより一つ下なんだよね?」


 フィアの言葉にベルゼブブは笑顔になった。


「そうだ。だが、ティーは今勉強中でな。もし良ければ日を改めてもらえないか?」

「うん。わかった」


 お勉強の邪魔をするのは良くない。また出直そう。


「明日ならば大丈夫だ」

「うん」


 フィアは頷くとベルゼブブに手を振りその場を立ち去る。去り際にちらっと背後を見たが、そこにはもうフローレティの姿はなかった。

 でも明日、ベルゼブブの子供を紹介してもらえる。フィアはスキップしながら城の廊下を進んだ。ティーちゃんと言うらしい。明日が楽しみだ。

 うきうきとしながら城の入り口へ向かっていたフィアは、ふと天界に行こうかと思いついた。今日はベルゼブブの娘を紹介してもらい、一緒に遊ぼうと思っていたから何も予定を入れてない。だから時間もある。折角だから、前々から考えていたアダムのお嫁さんを創ろう。

 城を出たフィアはすぐに天界へと向かう。魔界から天界へと空間を開き、天界に着くと神の城へ入った。フィアはまっすぐいつも作業を行っている部屋へ入った。ミカエルが迎えてくれる。

 ここに来る前に幼体フォンでミカエルに連絡してあったのだ。ミカエルも保護者フォンを持っており、フィアと連絡が取れる。

 既に台の上には生命体を創り出すため、先代の神が使っていた土人形が横たえられていた。


「準備は整っております」

「うーん。あ、そうだ。ミカエル、アダムを連れて来てくれる?」

「かしこまりました」


 ミカエルの姿がその場から消えた。

 フィアは台の上にある土人形を触ろうとし、手を止める。今触るのは危険かもしれない。中途半端な生命体が出来ては困る。

 そんなことを考えて手を引っ込めたフィアに背後から声がかかった。ミカエルのものではない。振り返れば分書庫の管理を任され、その存在を魔界に伏せられている男、カイムだ。


「あ、カイム。ミリアムのほうはどうかな?」

「はい。お陰様で丸一日もつようになっています」

「そっか。良かった。でも、まだ改良できそうだね」


 フィアはうんうんと頷く。魂だけの存在となった者をフィアの魔力で実体化させる計画は上手くいっている。

 生命体を弄るのは難しい。世界の修復の方がずっと簡単だ。だがフィアは先代の神の残した資料を参考に頑張っている。

 いつか自分も世界を創ることが目標だ。

 カイムと二人で話しているとミカエルがアダムを連れて戻ってきた。

 ちなみに今回のお嫁さんを創る件は、事前にちゃんとアダムの意志を確認している。アダムがお嫁さんを欲しくないのに勝手に創って押し付けたらオシカケニョーボーとやらになってしまうからだ。

 ミカエルの話ではアダムは涙を流して喜んでいた、とのことだ。これは頑張って素晴らしいお嫁さんを創ってあげなければならない。


「アダム、指でいいから一本ちょうだい。お嫁さん創るのに使うから」


 フィアは土人形の前に立ち、アダムへ言った。アダムは頷くと左手の薬指を一本折ってフィアに渡す。

 それを土人形の上に置いた。フィアは魔力を集中し、両手を土人形に当て、創造の力を使う。

 アダムのお嫁さん、アダムと同じように美味しいチョコレート、と心の中でイメージすると土人形が光に包まれた。フィアはそっと手を離し、目の前の光景を見守る。しばらくすると光が消え、目の前に真っ白なチョコレート人間——アダムの色違いが横たわっていた。

 フィア達が見守る中、ゆっくりとホワイトチョコレートの彼女が起き上がる。そしてくるりとフィアの方を向いた。アダムと同じのっぺらぼうだ。

 だが驚いたことに、そののっぺらぼうの顔の中で、人間で言えば口にあたる部分に突然穴があいた。


「おはようございます、神様」

「うにゃっ! しゃ、喋ったよ!」


 しかもちゃんと女の人の声だ。

 確かに自分はアダムを喋れるようにしてあげたいと思っていた。だからお嫁さんが喋れるようになったのだろうか。

 少し自分も神様として成長したのかもしれない。嬉しくなり思わず笑みを浮かべる。


「お名前どうしよう、ミカエル?」


 そういえばアダムの名をつけたのはミカエルだ。助けを求めるように彼を見れば、少しミカエルは考えて、そして言った。


「イヴにしましょう」

「うん、イヴだね。フィアだよ。よろしくね。アダム、お嫁さんだよ!」


 フィアに呼びかけられアダムがイヴへと近づいた。

 イヴが自分の左手の薬指を折り、アダムへと渡す。アダムはそれをさっき折ってなくなってしまった左手の薬指の部分にくっつけた。

 それを見届けるとイヴが言った。


「アダム、よろしくお願いします」


 アダムはこくこくと頷くとイヴの手を取る。イヴが床に降り立つと、アダムがミカエルを見た。しばらくアダムを黙って見つめていたミカエルが一つ頷き、フィアに言った。


「神様、アダムは神様に深く感謝しております。そしてイヴとともに早速アルフヘイムへと戻る、と申しております」

「ん、そうだね。二人とも仲良くね」

「はい」

「では俺は二人を人間界へ連れて行きますので」


 フィアは立ち去る三人を見送った。

 アダムに喜んでもらって良かった。アダムはわざわざ二人の新居も作ったらしい。もしかしたら、近々子どもも生まれるかもしれない。楽しみにそれを待とう。

 ベルゼブブの娘を紹介してもらう約束も取り付けた。あとはリリスとともにヴァレンタインを頑張るだけだ。



 ***



 そろそろ夕食の準備を、という時間。シェイドは思いがけない客人を迎えていた。

 暴食の魔王ベルゼブブの補佐官フローレティだ。彼とは何度か顔を合わせたことがある。

 フローレティは封筒を手にシェイド宅に現れたから、フィアに用事に違いない。だがシェイドはフィアがまだ帰ってないことを思い出した。


「フィアなら帰ってきてない」

「そうなのか?」


 フローレティは意外だ、という表情になる。

 それも無理がない。いつもフィアはこの時間には必ず帰って来ている。だから彼も天界にではなく、ここに来たのだろう。


「それにしても……補佐官殿直々にお越しとは珍しいな」


 いつも書類を持ってきたりするのは彼の部下である秘書官たちだ。わざわざフローレティが来たりはしない。

 シェイドの指摘にフローレティは苦笑した。


「いや、最近神様が毎日のように物陰から俺を睨んでるんだ」

「へ?」

「だから、もしかして何か神様を怒らせるようなことをしたのかと思ってな。気になって、その理由を聞くのにちょうどいいから俺が持ってきた」


 シェイドは首を傾げた。

 マレンジャーとお菓子と美味しいご飯があれば、たいていのことは忘れられるフィアである。一体何があったのだろうか。


「フィアが帰って来るまで待つか?」

「いや。また日を改めよう」


 フローレティはシェイドに封筒を預け、魔界へと帰って行った。その後ろ姿を見送り、思わずシェイドは呟く。


「大丈夫かね、フィアのやつ」

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