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天敵とまさかのTAG&KISS  作者: 櫻坂 蒼
想定外のTAG
12/12

春の考え事

「疲れた......」

渋谷署時代より1時間ほど遅く、美咲は桜新町駅に到着した。

地下のホームを、生暖かい風が吹き抜け、彼女の髪をかすかに持ち上げた。

今日は、金曜日。明日は非番だ。

(靴でも買いに行こうかな)

せっかくの昇進だ。そういえば自分では何もお祝いしていない。

何か自分にプレゼントをするのも悪くないだろう。

(あーでも、渋谷署のみんなと会って見るのもいいなあ......)

楽しい思案は、途切れそうにない。

春の宵は、全てを開放的にしてくれる気がする。嫌なことでも何でも、溶かしてしまう、不思議な力を風がまとっているような気がするのだ。

赤信号につかまり、美咲は足を止めた。三軒茶屋のビルに切り取られた夜空に、輪郭のぼやけた満月が顔を見せている。

(それとも、冴とか理沙とかと女子会とか??)

二人は大学生時代の同期だ。冴は金融企業、理沙は製薬会社の受付嬢として活躍していると聞いた。

いつもは憂鬱なこの長い赤信号も、今は考え事をするのにぴったりだ。

電車がきたのだろうか。信号に、別の人の波が押し寄せてきた。人々の横顔も、いつもよりは穏やかに見える。

(やっぱり、春だね......)

そんなことを考えていると、信号は青に変わった。いくつもの足音が、夜の横断歩道に響く。

この横断歩道を渡れば、美咲の家まではあとすぐだ。


明日の土曜日は冴たちと過ごそうと決めた。帰宅してから軽く着替えを済ませ、少し遅い時間に躊躇しつつもメールをすると、冴も理沙も賛成してくれた。

誘ったからには私が、と引き受けた店選び。しかしデスクワークがこたえたのか、眠気がひどい。

気を抜いたらすぐに眠ってしまいそうだ。

目の前にあるパソコンのディスプレイが、すうっと遠ざかり、美咲は自分の眠気を認識した。

(とりあえず、シャワー浴びてからにしよっと.......)

重たい体を持ち上げると、美咲は脱衣所へ。


少し熱めのシャワーを浴びると、眠気はだいぶ軽減された気がする。

髪を乾かし終えたら、再び店選びにはいる。こういうことは、不思議と苦ではない。あっという間に時計は11時半をさしていた。

(とりあえず、みんなから近いところって言ったら......代々木とか、かな?)

そう思いいくつかの店をピックアップして、値段をチェックしていると......

携帯が鳴った。それも、仕事用の。

美咲の表情はにわかに曇った。刑事は仕事柄、非番の日であっても事件があれば仕事に駆り出されることがないとも言えないのだ。

発信者は、『及川』となっている。

美咲の嫌な予感は、見事に的中したようだった。



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