14-8 オラのパンツはいいパンツー、強いぞーすごいぞー
問題は、学校が終わった後だ。
城咲さんは気を利かせたのか、茉絢に乙女ゲーの攻略法教えてもらいたいからって言って一緒に帰っちゃったし、梨奈ちゃんは城咲さんが現れるや秒で逃亡したし、本日のプレゼントの有瀬くんと二人だけで取り残されたけど……何したらいいんだ? もうお願いしたいことも大してないよ?
プレゼント本人は今日はギリまで帰らないとか言ってるし、それまでどこで何して時間潰そうかなぁ。
「有瀬くん、どっか行きたいとこある?」
「今日は那由多の誕生日だ。那由多の行きたいところに行って、那由多がしたいことをする」
「私の行きたいところかぁ……」
大きなプレゼントを連れて学校を出て、行く宛もなくブラブラ歩きながら私は天を仰いで思案した。
秋晴れの空が、高く青くどこまでも広がっているのが目に映る。十月に入った途端、暑さが一気に収まった。おかげで外にいてもそれほど苦痛ではない……といっても、やっぱり室内の方が落ち着くよね? 日が暮れるのも早くなったし。
かといって、こんな目立つプレゼント持ってファミレスはちょっとなぁ。何でもするって言ってるから何やらかすか普段より読めないし、皆がいる時ならまだしも、二人きりで突発的に奇想天外な雑行動に走られたら、突き刺さる視線の痛みで泣いちゃいそうだ。
人目を気にせず過ごせる場所といったらカラオケだけど、この辺あんまり安くないし……あ、そうだ!
「有瀬くん、駅中のカフェ行こっか。あそこ、個室席あるんだ。そこならのんびり過ごせるよ。スイーツもあるよ」
「カフェか。わかった、その願いも叶える」
ミッチーと真央さんと行ったカフェは、学生達の帰宅時間ってこともあってそれなりに混んでいたけれど、待つことなく入ることができた。
今回案内されたのも、前回前々回と同じ個室席だった。
どうせなら真央さんの時に会計してくれた店員さんにも会えたら良かったのにな。元気に来店した姿を見せて、ヤバい人に連行されたヤバい女子高生は無事地獄から生還しましたよって安心させてあげたかったよ。
「私はロイヤルミルクティーにしよっかな。有瀬くんは?」
「那由多と同じの」
「え、ミルクティーにするの? コーヒーの方が好きなんだよね? ほら、リンゴジュースもちゃんとあるよ? ここのは有瀬くん好みの濁ってるやつだよ?」
メニューに触りもせず雑に答えた有瀬くんに、私は仕方なく該当ページを開いて教えてあげた。
すると、有瀬くんが軽く目を瞠って固まる。
「何? 好きだって言ってたじゃん。メニューくらい見なって。私の誕生日だからって合わせようとしたの? いいんだよいいんだよ、そんなことしなくて。有瀬くんの好きなの頼んでいいんだよ」
「覚えてたのかと思って」
「えぇ……そんなに驚くことぉ? 確かに成績が悪いのは知っての通りだけど、そこまでバカじゃない……と信じてるし、信じたいんだけどな」
「那由多はあんまり俺に興味なさそうだったから」
今度は私が固まった。
「……ナニユエそういった結論に?」
「好きにしていいって言ったのに、あんまりお願いしなかったから」
有瀬くんが平然と答える。
うん……この人、ちょっと感覚ズレてんね? 十中八九、城咲さんのせいだよね!?
「それ、多分恐らくきっと間違いなく勘違いだからね? どうせ比較対象は城咲さんなんでしょ? だったら、あの人が大いに度を超えすぎてるんだからね? 私がお願いしなさすぎてるわけじゃないからね? むしろ私ですら、ちょっと願い叶えてもらいすぎたかなってレベルだからね?」
「そうなのか。じゃあアンとかヤンとか拝むとかしなくて良かったのか」
「そうだよ! しなくていいんだよ! 大体アンとかヤンとか、有瀬くん何するかわかって……いや、私も全然わかんないんだけどね!? と、とにかくリンゴジュース注文するよ、いい!?」
「うん、リンゴジュースにする」
危うく危なく危険な領域に突っ込みかけたけれど、有瀬くんが特に気にせず流してくれたので事なきを得られた。
ありがとう、有瀬くん。人の話をろくに聞かない雑な子で。
ドリンクが届くと、有瀬くんはリンゴジュースにストローを挿して一口飲んでから、長い睫毛をやや伏せて目元にエロ憂い感を滲ませたまま、そっと口を開いた。
「那由多、もうないのか? 俺にしてほしいこと」
「うーん……あ、それじゃあさ、夏休みの電話の続き、していいかな? 有瀬くんには聞きたいことが山程あるの! 興味なさそうとか言われたけど、この通り興味津々だよ! 今日はガッツリ聞き倒していい!?」
「いいぞ、何でも来い。どんな難問も受けて立つ」
有瀬くんが背筋を伸ばして胸を張る。
まじかー! よっしゃ、なら今一番アツアツホクホク、ベリーホットな話題からいってみよーう!
私は手にしたカップからミルクティーをソーサーに戻し、テーブルに身を乗り出した。
「有瀬くん、胸かお尻かだったらお尻派だって聞いたけど本当?」
「そうだな、ケツ派だな」
すんなりお認めになりあそばれた。
おっしゃぁぁい、裏が取れたぁー!
イエーイ、城咲さん、見てるー!?
有瀬くん、こんなことに興味持つまでに成長しましたよー! 思春期の我が子の成長を喜びつつも寂しく思う親のような微妙な気持ちだけど、この複雑な思い、城咲さんならきっと共感してくれるよねー!?
「ねねね、いつからいつから? きっかけとかあった? やっぱえっちな本とか? 聞かせて聞かせて!」
しかし親の気持ちより、好奇心が勝った。
ものすごく失礼かつ無礼なことを聞いているとは自覚している。でも今日は無礼講だ。それに、有瀬くんが受けて立つと言ったんだ。
気分を害したら謝るから、ぶん殴る前に教えてくれればそれでいい!
「五月から。きっかけは『うんち、むりり。』だな」
「は……?」
さらりと吐き出された答えに、私は再び固まった。
「人のケツで思い出し笑いするようになるとは思わなかった。ケツに秘められた無限の可能性を知った。あれからケツ派になった」
こ、この野郎……!
私から発せられる殺意の波動を感じたのか、有瀬くんは少し目を泳がせてから付け足した。
「大丈夫だ、那由多。もうほぼ忘れた。『うんち、むりり。』も『おなら、ぼぶう。』もそんなに覚えてねぇし、『おなら、ぼぶう。』の下にあった『おけつ、どふん。』も大して見てねぇから……っく」
おい、ちっとも忘れとらんやないかい。笑い込み上げとるやないかい。おまけにもう一枚見てたんかい。
ジュース飲んで誤魔化したけどバレバレだからな? 閻魔さんに舌抜かれることを危惧して、曖昧表現にしよったのもお見通しだからな?
あーあ、誕生日権限で忘れてくれってお願いしても、どうせ忘れてくれないんだろうなー。魔王誤認事件としっかり紐付いちゃってるみたいもんなー。閻魔さんに舌抜かれるって言っても、忘れろったって忘れられないんだからどうしようもないよなーあーあー……。
おーい、五組と六組の皆さーん、美尻トレーニングなんか意味ないっすよー? 変なパンツ履いときゃそれでいいみたいっすよー?
ご希望があれば、下着のセンスが極悪と名高い私がオススメしてあげますよー? イケてる彼氏はできないと思うけどねー?
そして城咲さーん、ぬか喜びさせちゃってごめんねー。この言うこと聞かないクソガキが、アンとかヤンとか理解できるようになるのは、まだまだ先っぽいわー。




