0-3 推す時は推す、切る時は切る、それが我が流儀
「そうだ、これは我が恋人だ」
するとここで、超絶イケメン――有瀬くんがさらりと答える。
「そいつがこれは我が恋人だって証拠を見せろとうるさく言うから、見せただけだ」
「証拠!? 証拠って何!? 何をしたの!?」
城咲さんが血相を変えて有瀬くんに掴みかかる。ガクガク揺さぶられながらも、有瀬くんは顔色一つ変えずに平然と言い放った。
「二人で踊った。仲良く楽しく晴れやかに」
…………な、に、そ、れ!?
つまり私、有瀬くんの恋人に仕立てられたの!? おまけにあの死と隣合わせの猛牛乱舞な魔異夢魔異夢が恋人の証拠!?
ついでに異議申し立てさせていただくと、仲良くも楽しくも晴れやかでもなかったよ!? 何もかも意味不明なんですけど!
「ちょっまっ、わ、わた、私、そん」
「今は黙れ、我が恋人。明日香も何も言うな。俺が恋人だといったら恋人だ」
絞り出しかけた反論は言葉にならず、おまけ声を発することもばっさりと却下された。
城咲さんも何か言いたげだったけれど、ぐっとぷるつやな唇を閉じて言葉を飲み込む。そして殺意に満ち満ちた視線を私からもう一人の方へと移した。
「……ところで、あなた。確か佐川さんといったかしら? 同じ中学だったわよね?」
城咲さんの低い声に、処刑宣告仲間の女子がびくんと身を震わせる。城咲さんはそんな彼女に近付き、美し麗しいお顔を寄せた。
「あなたが中学一年の入学式からずっと留佳に色目を使っていたこと、そして彼を追いかけて同じ高校にまでやってきたこと、私が気付いてないと思ってた? 金輪際、留佳に近付かないで。今回は見逃してあげるけれど、次はないわよ?」
冷えた美貌から発せられる圧の凄まじさといったら……隣にいただけの私ですらへたり込みそうになったよ!
宣告を受けた当事者である佐川さんは声も出せなくなったようで、真っ青な顔でこくこくと何度も頷き、あたふたと去っていった。
「で、では私もこれで……」
佐川さんに乗じて、ついでに自分もこの場から離れようとした――のだけれど。
「あなたにはまだ用事があるわ」
ヘコヘコと身を低くしてアルカイックスマイルで立ち去りかけたところで、城咲さんに背後から首根っこを引っ掴まれる。
「事情を聞かせてもらいましょうか。しっかり、じっくり、詳しく、事細やかにねぇぇぇ?」
真後ろから放たれた恐ろしい声音に振り向くこともできないまま、私は再び半泣きになった。
こうなったら、決死の覚悟で説明するしかない。
私はただその場に居合わせただけだと必死に訴えた。恋人でも何でもない、運悪く巻き込まれた被害者だと懸命に主張した。
「つまり留佳が、あなたを一方的に恋人にしたというの!? 留佳の片想いだと、留佳が無理強いしようとしたと、留佳は悪質なストーカーだと、あなたはそう言いたいわけ!?」
ところが城咲さんは揚げ足を取るどころか、動かしてもいない指を全部折る勢いで誤解に曲解を重ねて激しく詰め寄る。
「そそそそうじゃなくて! 実際に恋人にしたんじゃなくて! 有瀬くんは多分佐川さんからの告白をお断りするために、恐らく何とか言い訳しようとして、きっと仕方なく口から出任せ的なノリと勢いで恋人役を求めたというか!? そこにたまたま私がいただけで……そうだよね!? 有瀬くん!」
「恋人がいないならいいだろ自分と付き合え付き合えってしつこくて、イヤだって言っても全然聞いてくれなくて、眠たくなってきたとこに、こいつがいた。恋人がいれば、今すぐゆっくり寝られると思った」
むしゃくしゃしてやった、みたいな言い方してんじゃないよ……どうせなら、今は後悔している、まで言ってくださいよ。
「いつまでもどこまでも追いかけるですって!? あの女……やっぱり許せない! こっちこそいつまでもどこまでも追いかけ追い詰め追い込んで、しばき上げてしばき回してしばき倒してしばき吊るしてくれるわ!」
ヒートアップする城咲さんに、私は懸命に懇願した。
「どうかお願いします、手を離してくださぁい……首が絞まってそろそろ苦しいですぅ……制服のリボン、千切れたら悲しいですぅ……新品なのにぃ……」
「我が恋人、また泣いてるのか。我が恋人は泣いてばっかりだな。おい我が恋人、またマイムマイム踊るか? さっきは踊ったら泣き止んだよな。俺も踊り足りない。そうだ、次はラジオ体操第二にしようって言ってたか」
えっえっと嗚咽する私の前で、有瀬くんが第二のムキムキ運動をやってみせる。
この男、本当に空気読めないな! 誰のせいで泣かされてると思ってんの!
何もかもあんたのせいでしょーが!
たとえイケメンでも、許せないことは許せない。腹が立つことは腹が立つ。
顔も雰囲気もボイスも好みのタイプど真ん中だったアニメキャラが、クソみたいな理由で主人公達を裏切った時だって、あいつのキャラグッズ全部売り払ってやったんだからね! 今はギリギリ歯を軋ませて悔し泣きするしかできないけど!
「…………ふうん? あなたなら……ちょっと、なくはない……かもね」
麗しい目を細めて何事か呟くと、城咲さんはやっと私の襟首から手を離してくれた。
涙ながらに哀願した甲斐があった、ようやくご理解いただけた、これで解放される……とほっと息をついたのも束の間。
「あなたを、留佳の恋人として認めてあげるわ。私も力の限り協力するから、安心して任せていいわよ!」
地べたに座り込んでハッヒフッヘホーと呼吸を整えていたら、城咲さんの口からとんでもない発言が飛び出した。
「は!? 何で!?」
「何でって、留佳があなたを恋人だと言ったからよ」
しれっと答える城咲さんに、私は唖然として固まった。
どうしよう……ダメだ、これ。同じ日本語で会話してるはずなのに、ちっとも話が通じない。こんな時どうしたらいいの? どうすれば意思疎通できる?
ボディランゲージで言語の壁を越えて語り合う? こっくりさんでもやって、呼び出した浮遊霊に間を取り持ってもらう? 幽体離脱して、魂・TO・魂での対話を試みる? ああ、何かいい方法は……!




