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『異世界の名はアヴァロン』

「もっとも、前回の魔王討伐から百年経ってる訳だからな。」


ボンクラ王太子。シャルルも炎を操る異能を持っているが勇者の血が薄れてきて、指先にどうにか小さな火を灯せる程度だなとダグラスはシオンの話を補完した。


「ですが勇者となれば話は変わってくる。勇者はなにかしら特別な異能の持ち主。」


国王陛下は宮廷魔術師に唆されて勇者を兵器として占有し、魔王討伐にこじつけて他国に侵軍を行い領地拡大を考えていました。


「その企みを知っていたのにわたくしはとう様とかあ様の命を天秤に掛け。まだ見ぬ勇者を切り捨て、異世界からモードレッド様を召喚したのです···!」


とう様とかあ様を救えるなら、この手で罪を犯すと。なにを犠牲にしても助けると決めて。


「けれどもわたくしはなにもかも甘かったのです。」


わたくしを憎むシャルル殿下が。宮廷魔術師ザイールの傀儡となった国王陛下が約束を守る筈がなかったのですから。


シオンは悲嘆と後悔に染まった花紫の瞳から幾筋も涙を流して、愚かなわたくしをどうか罰してくださいますかとメドラウドに力なく頭を垂れた。


「···レディ。貴女は私に罰せられたいのではないな。」


いや、その気持ちがまったくない訳ではないのだろうが。貴女は死にたいだけだ。生きている意味も、意義も見失って。肉体だけが生きている。今の貴女は空っぽだとメドラウドは俯くシオンに苦笑した。


「···私と同じだな、レディ。貴女は私が何者か知っているようだから言ってしまうが半魔の魔術師によって狂気を注ぎ込まれ邪竜と化した父、アルトゥル王を私は簒奪した聖剣を使い打倒した。相討ちでね。」


当然死んだものだと思っていたのに私はこうして生きている。それはまるであり得なかった物語のエピローグの続きを歩いているかのようだ。だが私は父を討つのに全力を出しきった。


「己のなかに詰め込まれたモノすべてを出し尽くして。そうでなくば父を討つことなど出来なかった。だから今の私は空っぽだ。それはつまり新たに様々なモノを己という器のなかに詰め込めるということに他ならない。」


レディ、貴女が私に簒奪の王ではない新たな人生を。新たな道を与えてくれたんだ。自分の足で、心のままに生きる機会をくれた。


「ただの騎士として生きるという希望を。レディ。貴女がくれた。故にレディ。いや、シオン。許されるのならば私は貴女の騎士となりたいのだ───。」


「ッなぜ、モードレッド様程の方がわたくしの騎士に?わたくしはもう敬われる貴族令嬢ではありません。捧げられた忠義に見あう対価を払うことすら今のわたくしには不可能です···ッ!!」


「貴女の騎士になりたいと思ったのは貴女が聡明で高潔な貴婦人。淑女であったからだ。」


忠義に対価など不要だが貴女は気にするか。であれば貴女に望むことはただひとつだ。


「どうか笑ってくれないか。私はまだ貴女の泣き顔しかしらない。だが私の勘が言うのだ。貴女の笑った顔は吟遊詩人がどれだけ言葉を尽くそうとしても表しきれないほど素敵だろうとな。」


「···モードレッド様は。メドラウド様は初代様が残した絵物語と違って紳士的ですのね。それに、その。女性慣れしてるというか。ずっと女性には口下手な方だとばかり思ってましたのに。」


「絵物語?」


「ぺルル家の初代は異世界転生者でしたの。イギリスとニホンを祖国とする彼女は不慮の事故で亡くなり、此の世界に転生したのです。彼女は優れた魔術師であると同時に文筆家でした。」


わたくしも伯父様も彼女が書き残した異世界の物語を読んで育ったのです。幼い頃のわたくしはアーサー王と円卓の騎士の物語ばかりを読んでいました。


ええ、七つの聖杯を集めてウェールズの大地に眠っていたレッド・ドラゴンを喚び出して。


「聖剣カリバーンを授かり悪の魔術師アンブロシウスが目覚めさせた古の魔王ヴォーティガン・ユーサー・ペンドラゴンをカムランの丘で力を合わせて共に倒さんとするアーサー王とモードレッド様の活躍と冒険譚は本当に心が躍ったものです・・・!!」


「·················シオン。貴女の夢を壊すかもしれない。だが、当事者として流石に言及しない訳にはいかないので言わせてくれないか。すまない!!だが私の知らないアルトゥル王と円卓の騎士だな、それは!!」


「えっ!?で、では男装の騎士トリスタン様を巡るイゾルデ王子と円卓の騎士パラメデス様のラブロマンスは···。」


「·········イゾルデ殿は女性だしトリスタンは男だな!!あとトリスタンと恋仲だったのは侍女のブラングウェイン殿だぞ。トリスタンはかなり熟女が。んん。年上の淑女が好きだったから。」


「あ、まさかアーサー王の寵愛を巡って争っていたグィネヴィア王妃と騎士姫と謳われていたランスロット姫のじれったい三角関係も嘘ですか?」


「残念ながらランスロットも男だ。アイツがアルトゥル王を好きだったのは確かな事実だが!!」


「ということは円卓の騎士の方々がことあるごとに服を脱いで裸体で森をさ迷っていたのも嘘?」


「·············それは、それだけは···残念ながら······本当だな。」


メドラウドはなんだか愉快な。もとい可笑しなことになっている父と円卓の騎士の物語に突っ込んだ。


恐ろしいことに実際に起きたことが当たっていたり、遠からずも近からずな内容だったものだから。メドラウドは少し目が遠くなる。自分は絵物語ではどのように語られているのだろうか。


知りたいような、知りたくないようなと苦悩するメドラウドにシオンは目を輝かせて。

モードレッド様は、メドラウド様はわたくしの最推しなのですわと花が咲き綻ぶような可憐な微笑みで語った。


「む、そうか···。」


絵物語で自分がどう語られているのかわからないけれども。花紫の瞳に灯る、柔らかな思慕にメドラウドはやはり照れてしまうのだ。慕われることに慣れていない。


ましてや淑女、貴婦人に好意を示されるなど殆どなかった身。照れと気恥ずかしさでどう受け取れば良いのか···と眉を下げたメドラウドは実物を見てがっかりしたのではないかとシオンに聞く。


シオンは目をパチリと瞬かせて、がっかりなんてしませんでしたと頬を柔らかに染め。絵物語のモードレッド様はワイルド系堅物で、女性に口下手で女心に疎く。


実直一辺倒な騎士でしたと語ってからメドラウドを真っ直ぐに見詰め。メドラウド様はワイルド系というより貴公子で、王子様で。口下手ではなくて。だけども確かに騎士でした。


弱き者を救う、騎士のなかの騎士でしたから。やっぱりメドラウド様はわたくしにとって憧れの騎士ですわとはにかむシオンにメドラウドは目を微かに見開き。


私が憧れの騎士か。シオン、貴女はなかなか見る目がないと瞳を虹色に変えて屈託なく微笑む。私のような武骨な男を騎士のなかの騎士だと褒めるとは、心配になるほど素直すぎる。


だから、私に貴女を守らせて欲しい。素直で純粋な貴女をもう何者にも利用させない。私が傷つけさせないとメドラウドはシオンの前に膝を着き。


焼け爛れたシオンの右手を掬い取り、口付ける。幾つもの小さな光が弾け、シオンの右手の爛れは見る間に癒えていき。火傷の下に隠されていた花のような赤い痣が現れる。


(···これが女神セレスの神紋なのだろう。つまり、シオンはやはり女神セレスの乙女なのだ。だが、それを理由に忠誠を誓うのではない。)


メドラウドの心が叫ぶのだ。シオンが誰よりも気高い貴婦人だと。騎士として仕えるに値する存在だと。


メドラウドは聖剣を鞘から抜き、シオンに捧げ持つ。シオンはダグラスに促され、メドラウドから聖剣を受け取り。聖剣をメドラウドの肩に置いた。


「騎士、メドラウド。貴方をわたくしの騎士に任じます。わたくしが貴方に望むことは三つ。なにがあってもわたくしを裏切らないで。生きるときも死ぬときもわたくしと共にあり、わたくしから離れていかないこと。」


メドラウドは顔を上げてシオンに微笑む。私は世に名高き裏切りと簒奪の騎士。

そんな私をそれでも信じるというのならば私は私のすべてを。シオン、貴女に捧げようと。


「私は貴女の騎士だ。忠誠も名誉も。我が身も我が心も貴女に捧げ。共に生き、死する時も貴女と共にあると誓おう。覚悟してくれ、シオン。私は存外、重たい男だぞ。」


「ふふ、軽い男より何倍も信頼出来ますわ。それにわたくしも重たい女ですの。きっとわたくしは貴方だけは手放してさしあげられません。逃げるなら、今の内ですよ。」


「手放されては困る。私は貴女だけの騎士なのだから。そして私は簒奪の王。シオン、貴女を虐げた者たちから貴女を簒奪してみせよう───。」


「わたくしはもうとっくに。貴方に奪われていますわ、メドラウド様。」


(お、推しカプが目の前で成立した~~~ッ!!まさか簒奪の魔王×不遇聖女のカプ成立に立ち会えるとは。)


前世で徳を積んだ甲斐があったってもんだなあ~っ!!『誰が為に竜は哭く』の世界に俺を転生させたであろう神さま、ありがとう、ありがとう!!


(俺の推しカプが尊くてサイコーだッ!!)


シオンの伯父ダグラスは内心の荒ぶりを綺麗に隠し、推しカプを見ながら飲む豆のスープは美味いと微笑む。考古学者ダグラス・トッドは異世界転生者だ。それを自覚したのは数刻前。


発掘作業中に突如として目覚めなさい、賢者よと言う厳かな声が聴こえたかと思えば前世の記憶が甦ったのだ。


前世のダグラスは日本という国で暮らす平凡な人間だった。


自分の死因はまったく覚えていないけれども勤め先のブラック具合からして過労死だろう。そんな前世のダグラスは歳の離れた妹に布教され。『誰が為に竜は哭く』という乙女ゲームにド嵌まりしていた。


『誰が為に竜は哭く』というゲームは異世界アヴァロンを舞台にして、日本から迷いこんだ少女アリスが聖女として百年振りに現れた簒奪の王という異名を冠する魔王モードレッドを倒すべく貴族の子弟が通うブロセリアンド学園に特待生として通いながら。


七人の異能力を持つ生徒たちと仲を深めて。共に簒奪の魔王モードレッドと戦うことになるという王道で骨太なストーリーだった。


豪華声優によるキャラ同士の掛け合いは勿論、お伽噺をモチーフにした登場キャラのビジュが大変に良く。前世のダグラスは見事に『誰が為に竜は哭く』に嵌まり、夏と冬の祭典では同人誌を買い漁った。


ゲームに嵌まると同時に前世のダグラスには推しカプが出来た。それが簒奪の魔王モードレッドと聖女シオンだ。聖女シオンは異世界アヴァロンを守護する女神セレスの加護を与えられていて。


主人公のアリスと共に簒奪の魔王モードレッドを倒すべく立ち上がった少女だった。


何故かどの攻略者のルートでも主人公のアリスが巻き起こすハプニングの後始末やフォローに追われ。更にはアリスを庇って物語の中盤で死ぬのだが。


そんな聖女シオンは王太子攻略ルートでは婚約者であり幼馴染みだった王太子シャルルがアリスに心惹かれていくことに耐えきれず、心の隙をつかれ簒奪の魔王に洗脳されて、簒奪の魔王の腹心の配下となり王太子とアリスと敵対することになるのだ。


シオンは俗に言う悪役令嬢なのだけれども作中のシオンの不遇さに多くのプレイヤーたちは同情を抱いた。


それは簒奪の魔王モードレッドも同じようで利用するつもりでいたシオンと関わる内にモードレッドはその一途で初心なシオンに惹かれていき、不器用に想いを寄せるようになり。


悪に堕ちたシオンに刃を、殺意を向けた王太子からモードレッドはシオンを庇って負傷する。そこでシオンは初めて王太子以外に好意を抱くようになるのだ。


そして最後にはシオンは王太子シャルルと聖女となったアリスに倒された魔王モードレッドと共に死ぬことを選ぶ。


来世では最初から貴方を好きになりますわ。だから、どうか貴方と添い遂げさせてくださいねと微笑みながら。


声優の熱演と美しくも物悲しいグラフィックもあいまって前世のダグラスは二人の最期に激しく心を揺さぶられ、滂沱の涙を流しながら簒奪の魔王モードレッドと不遇聖女シオンのカップリングを強く推すことを決めた。


(まさか自分が聖女シオンの伯父だとはな。ダグラスなんてキャラはゲームには出てこなかった。)


兄貴が、シオンの父親が宰相で冤罪を着せられて投獄されたなんてゲームの設定にはなかったぞ。というかな。女神セレスの加護があったのはシオンだけ。


(確かにゲームで主人公のアリスは女神セレスの乙女になるが。それはシオンが死んだから後釜に据えられたり。シオンが敵に寝返って女神の加護を失ってからだ。)


此の世界に来たばかりの主人公は女神セレスの加護など持っていない筈なのだ。

シオンの右手には変わらず女神セレスの加護を示す神紋がある。


(女神セレスはシオンを見限っていない。シオンは未だに正統な女神セレスの乙女ってことだ。だとしたら、主人公の胸にあるという神紋は本当に女神セレスの神紋なのか?)


ダグラスはシオンの右手に宿る神紋を見る。女神セレスが己の御子に与えるそれは常に柘榴の花の意匠だ。


女神セレスにとって御子は我が子も同然。故に苦難や死から遠ざける為に柘榴の花を象る神紋を与える。


何故、柘榴の花であるのかというと。愛いする娘を冥府の神に拐われ、会えなくなった女神セレスは死を司る冥府の神に二度と我が子が拐われないように。死ぬことがないように。


己の御子であると冥府の神にも分かるように目印として乙女に刻む神紋を柘榴の花に定めたとされている。


そこまで考えたところでダグラスは思い出す。寵愛する人間に徴を与える神は女神セレス以外にも居ると。異世界アヴァロンには何度となく動乱期と呼べる時代が巡ってくる。


不和と争いによって世界が荒廃する時、必ず姿を見せる女神が居る。飢餓と悲歎。戦闘と戦争。殺害と破滅を産んだその女神の名はエリス───。


(女神エリスもまた己の力を地上に行き渡らせる為に御子を選び、神紋を与える。林檎の花を象った真っ赤な紋様を···!)


善は悪、悪は善。悪に貶められたシオンが真の善であるならば。全き善を声高に謳うアリスこそが悪である。仮に異世界人のアリスが不和と争いの女神エリスの御子であるならば──···。


ダグラスは祖国の行く末を察したが、兄を害し姪を虐げた者たちの為に動く気にはならなかった。

今、ダグラスがやるべきことはただひとつ。推しカプを目に焼き付けることだなと。


メドラウドの言葉にはにかむシオンと。シオンに微笑むメドラウドをじっくりと眺めつつ。

嫁さんに遺跡調査を切り上げてシオン坊を屋敷に連れて帰るって話をしとかなきゃだな。


舌先だけで国を滅ぼせると言われた頭がキレる兄貴と。女性初にして歴代最高と謳われた騎士団長の義姉さんがそう簡単に死ぬとも思えないし、兄貴たちの消息も探らないとだなと魔道具の通信機を弄った。


かくて円卓の騎士にして簒奪の王メドラウドは異世界アヴァロンにて女神の加護を受けた少女シオンと出逢い、新たな一歩を踏み出す事となる。


偉大なる父の為に自ら悪と成ったメドラウドと策謀によって悪に貶められたシオン。

二人の出逢いはアヴァロンの存亡を左右するモノだったがそれを知るものはまだ居ない───。


彼らの紡ぐ物語は言わばエピローグの先にあった物語。

舞台を降りた二人が紡ぎ出す、その後の話。


異世界アヴァロンにて簒奪の王にして円卓の騎士メドラウド/モードレッドは。今、再び。聖剣を携えて人生をやり直す。 

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