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私達、婚約破棄しましょう  作者: 若狭巴


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レイサン国


公爵はレイサン国との戦争が膠着状態だったが、自分が戦場から消えれば一気にレイサン国の兵士が自国に流れ込んでくるのが目に見えていたので動くことができなかった。


魔族たちが攻めてきた場所はルーデンドルフ家が治めている領地とは真反対の位置にあるカイネル伯爵家の領地だった。


カイネル伯爵家には対した力はない。


騎士は一応いるがはっきり言って弱い。


だが、カイネル伯爵家の両隣に位置している、エカルト侯爵家とフロンティラ子爵家は騎士の育成に力を入れている。


貴族の中でもそこそこ強い騎士部隊を抱えている。


被害は最小とはならないだろうが最悪な事態は免れるだろうと思い、公爵はその場から離れなかった。


だが、その判断が最悪な結果を招いたかもしれない。


その可能性があるとわかっていたら危険を犯してでも駆けつけていた。


公爵たちの戦場は魔族が魔物を引き連れて襲いかかってきたと報告を受けた翌日、戦況が一変した。


昨日の静けさが嘘のように剣と剣がぶつかり合う金属音が一日中鳴り響いた。


それから一か月その状況が続いた。


魔族たちが襲いかかって来た事実もすっかり頭から抜けていた。


それほどまでに公爵たちがいる戦場は一瞬も気が抜けない状況が続いていた。


レイサン国と戦争を始めて三ヶ月が過ぎた頃、ようやく公爵は何かがおかしいと考える余裕が出てきた。


持っている情報が少な過ぎて、何がどうおかしいのか答えを導くことまではできなかった。


だが、そこから二週間が経ったとき公爵はようやく何がおかしいのか気づくことができた。


「やられた」


公爵は自分の不甲斐なさを嘆いた。


気づいたときにはもう手遅れだった。


そもそもレイサン国が攻めてきた時に気づくべきだった。


いや、他にも気づくことができた場面も沢山あった。


公爵は戦場から退いたと言ってもそれは家訓のためであり、剣の腕が衰えたからではない。


イフェイオンが戦場に行くまではずっと公爵が前線に立ち、多くの魔物をこの世から葬りさった。


イフェイオンの前までは公爵が大陸一の剣の腕の持ち主だと言われていた。


そんな公爵を相手にレイサン国の兵が三ヶ月以上も戦い続けられることの方がおかしい。


いや、そもそも彼らは本当にレイサン国の兵士たちなのかも疑わしい。


公爵は魔法が使えない。魔力も感じることができない。


だが、初日からずっと感じていた。


レイサン国の兵士たちから異様な空気を。


甲冑のせいで彼らの顔を見ることはできなかった。


公爵は自身の推測が合っているのか確かめようと斬られてその場に倒れているレイサン国の兵士の兜を外し顔を確認した。


その兵士は今死んだとは思えないほど肌は変色していた。


これは間違いなく、魔族の要注意人物の一人である者の得意な魔法。


死んだ人間を意のままに操ることができる魔法だった。


いくらレイサン国の兵士たちを斬っても戦いが終わらないわけだった。


この戦場を終わらす方法はただ一つだけ。


レイサン国の兵士たちを操っている魔族を退けること。


ようやく終わりが見えてきた頃、それを嘲笑うかのように公爵たちのところにも大勢の魔物の群れが現れた。


公爵たちは多大な被害を出しながら、勝利することができた。


全てが終わったのは公爵が戦場に出てから半年が経った頃だった。


多くの兵士の死体を運びながら領地に戻ると、そこは多くの瓦礫と屍の山と成り果てていた。


いったい何があったのか、と、公爵は思った。


いや、何があったかなんて見れば一目瞭然だったが、その事実を受け入れるのを脳が拒絶し、わからないでいたかった。


自分たちがレイサン国の兵士の屍たちと戦争をしている間に魔族が攻めてきたのだ。


イフェイオンの部下たちがいたはずだが、最初に襲われた領地を守るために向かった後にでも襲われたのだろう。


そうでなければ説明がつかない。


残った騎士たちも他の貴族たちの騎士に比べれば強いが、この光景を見る限り歯が立たなかったのだろう。


公爵はどこから間違えたのかわからなかった。


目の前の現実を受け入れたくなくて逃げ出したかった。


だが、そんなこと許されるはずもなく、感情を殺して指示を出す。


生存者がいないか、魔物がいないか確認しなければならない。


先祖が命懸けで守ってきたものを自分の代で壊してしまったことが公爵は許せなかった。


許されるのなら今すぐ死んで詫びたかった。


小さな子供が瓦礫に潰されているのが目に入った。


少し視線をずらせば、老人が魔物に体の右半分を食われた死体があった。


他にも口にするのを憚れる惨い殺され方をした者たちが大勢いた。


公爵は胸から喉にかけて、焼けるような不快感に襲われた。


まるで、今まで心を殺してまで守ってきた努力が全て無駄だったと突きつけられた。


公爵はゆっくりと歩き出した。


建物は全てなくなったが、屋敷までの道のりは覚えていた。


公爵は歩くたびに視察で訪れた時の街の光景が蘇った。


公爵が思い出した光景は皆が幸せそうに笑っていた。


彼らの当たり前の日常を守れることが公爵の誇りだったのに、その全てを自分がいない間に奪われた。


屋敷に着くと、そこも街と同じように壊され瓦礫の山と化していた。


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