オルテル家
同時刻、ルーデンドルフ公爵家に届いた手紙と同じものがオルテル家にも送られていた。
オルテル伯爵は手紙の内容を確認し終わるなり、発狂した。
そこに書かれていたのは薬のことで話があるから王宮まで来るようにとのことだった。
伯爵はエニシダがいなくなって最初の頃は大量に作っていた薬があったので問題なかったが、三ヶ月を過ぎた頃には全てなくなり、自分で作らなければならなくなっていた。
そのせいで薬の効能があからさまに下がり、粗悪品を売っていると貴族たちだけでなく平民たちからも叩かれていた。
「伯爵の性格は最悪だったが、薬だけは完璧で薬屋としての誇りを持っていると信じていたのに」
「いつかこうなると思っていた。あの男はとうとう自分の誇りすら傷つけた」
「あの男の頭にはいつも金と権力のことしかない。卑しい男はいくら地位と名誉を与えられても小根は変わらないのだろう」
伯爵を罵倒する声は日に日に強くなり、その声は男の耳にも届くようになった。
伯爵は外に出ると他人の視線が自分に集まっているように感じ、元々の荒っぽい性格からさらに激しさを増した。
「今に見てろ。俺の悪口を言った奴らは全員土下座しなければ、薬は二度と売ってやらない」と固く誓い、毎日薬作りに没頭した。
薬を作っていたの娘のエニシダだが、薬草を調達していたのは自分だ。
作り方は知らないし、それに関する作り方が書かれた紙もないので、最初はどうするか焦ったが、薬草さえわかれば問題なく作れると思っていた。
だが、どれだけ薬の量を変えたりして、いろんな方法で作ってみたが、どれもうまくいかなかった。
それでも薬草は同じだから少し効果が落ちても大丈夫だと思って売ったが、それが間違いで今は信用が地の底につくくらい一気におちていった。
貴族の連中を見返したくて薬作りを徹夜で作業するがうまくはいかない。
苛立ってエニシダが大事にしていた花壇を全て燃やし、片付けるように命じた。
花が燃えていくのをみて苛立っていた心はスッと落ち着きを取り戻し、また薬作りを再開するがうまくいかないの繰り返しだった。
そんな日々を繰り返し過ごしていたとき、国王からの手紙が届いた。
伯爵は手紙の内容を見た瞬間、とうとう自分の嘘がバレたのかと焦った。
王族を騙した罪で最悪死刑になる可能性もある。
そんなことになるかもしれないと考えるだけで、恐ろしくなり逃げ出してしまおうか、と、思ってしまう。
だが、そんなことを現国王が許すはずもない。
どんな手を使っても自分を捕まえようとするはずだ。
伯爵に選択の余地など最初からあるはずもなく、この呼び出しに応じなければならなかった。
「自分が今こんな間に合っているのは全てエニシダが家出したせいだ。絶対に許さない」と固く誓い、どんな手を使っても連れ戻そうと、今まで以上に躍起になった。
エニシダを連れ戻すまでの間、どうやって国王の目を誤魔化し続けるか考えていると、扉を叩く音が聞こえた。
返事をする前に扉は開いた。
こんなことをするのはこの屋敷では二人しかいない。
そのうちのどっちだ、と、伯爵は苛立ちながら視線を扉に向けた。
「あなた」
入ってきたのは妻だった。
いや、二人だった。
「お父様」
一人の相手でも頭が痛くなるのに、二人同時に相手をしないといけないと思うだけで頭が痛くなり、無意識にため息を吐いていた。
「……なんだ?」
伯爵は苛立ちを隠すことなく、きつい口調で問いかける。
そんな伯爵の態度に妻は眉間に皺を寄せたが、すぐに笑顔を作り歩み寄った。
「その……お願いがありまして」
(お願いだと!?)
伯爵は妻の頭の悪さに抑えていた怒りが爆発しそうになった。
女主人でありながら、今のオルテル家の状況を全く把握できていない。
エニシダがいた時には、自分の仕事を押し付けて遊んでいても問題がなかったが、今は違う。
自分の仕事すら果たしていない状況で、よくお願いをしようと思えたものだと、伯爵は機嫌が悪いのを隠すこともせず、わざとらしく大袈裟にため息を吐き、出ていけと無言の意思表示をした。
だが、妻はその無言を自分の願いを聞いてくれる肯定だと受け取り、伯爵の腕に自身の腕を絡ませ、胸を押しつけた。
伯爵は昔なら妻の積極的な行動を歓迎したが、今は煩わしかった。
眉間に皺を寄せて睨みつけるが、妻は下を向いていて気づいていなかった。
伯爵の気持ちなど気にもしてない様子で女は願い事を口にした。
「新しいドレスを買ってください」




