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第77話 エシャの覚醒④

「…ギンちゃん、もう二人に会えないのかなぁ…」

 そう言って、泣き崩れる私の顔をギンちゃんが覗き込んでいる。

 大きな目をより大きく見開いてこちらを見ている。目が暗さに慣れて、ギンちゃんのヘーゼルの目が良く見える。そしてもう一周り目を大きく見開いたかと思うと、ギンちゃんは階段を駆け上がった。


「ギンちゃん…どこに行くの?」

 仕方なく立ち上がり、ギンちゃんの後を追いかけた。右足首がまだ痛む。


 ギンちゃんがジョシュアさんの仕事部屋の扉をガリガリとした。


「ここに何があるの?」


 仕事部屋には顧客情報や企業秘密なんかもあるだろうと思い、ジョシュアさんが居ない時には足を踏み入れたことがなかった。


 部屋の扉を開けると、きれいに整理された彼の仕事部屋。デスクとノートPCと大きなモニターが二台、書類の類は殆ど置いてない。棚には旅行先で買って来たと思われる品々が並んでいる。


 その中の一つを手に取った。スノードームの中には精工に作られた町の上をサンタがトナカイのそりに乗って飛んでいる。台座の部分がオルゴールになっている。手に取った振動で雪が舞って幻想的な風景が広がる。蒸し暑い部屋の中でこのドームの中だけ寒い冬の風景が広がっている。


 大人の男の人ってこういう物に興味がないんだと思っていた。


 オルゴールのネジを回すと、聴いたことある曲が流れて来た…でもこれ…ジブリ映画の曲だ、しかも曲名に夏が入るやつ…大河たいががこの曲好きなんだって言って弾いていた曲。

 クリスマスのスノードームなのに、夏の曲って、もの悲しいメロディーなのに、何だか笑っちゃう。


 流石はボス、こんな時でも人を笑わせようとするんだね。


 ギンちゃんが棚に飛び乗った。

 ギンちゃんの横には木で出来た動物の置物。子どもが作ったって感じがする。買った物じゃなさそうだ。


「なにこれ?猫?豚?がドーナツに乗ってるの?」

 そう言いながら、それを手に取ってみた。


 謎の動物の四本の脚は、ブロックが三個ずつ重なっていて、何だかぐにゃぐにゃしている。体の部分だけ、ちゃんとしたスライド式の小箱になっている。そこ以外は、ありあわせの木を集めて色を塗ったって感じ。体はオレンジかな…台座の色はピンク、エメラルドグリーン、イエロー(黄色と言うより、派手さがイエローだ)チョコレート、まるでアメリカのドーナツって感じだ。

 台座の下の部分が押せる…これ、脱力人形になってるんだ。

 指で底板を押すと、謎の生き物がぐにゃってなった。


 この状況で、ギンちゃんまで私を笑わせようとしてるのか?二人とも流石だよ。


 そう思ってギンちゃんに目をやったが、彼の目は真剣だ。


 もしかして、この小箱?そう思って、蓋をスライドさせた。

「鍵…、もしかして、地下室の鍵?」

 ギンちゃんの目が大きくなった。


 直ぐに走って、地下に続く階段を下りた。


 暗くて鍵穴が良く見えないけど、何とか鍵穴に鍵を差し入れた。鍵を回すと何の抵抗もなくカチャっという音と共に鍵が開いた。


 ゆっくりと扉を開いた。中は真っ暗で、シーンとしている。


「…ここにもいない。」


 この部屋にいるんじゃないかと期待していた。でも、暗い部屋の中に、人の気配を感じない。

 じゃあ、どこに行ってしまったの?


 ジョシュアさんが来海ちゃんをガーデンに連れて行くと仮定して、ガーデンってどうやって行くんだろう?


『ガーデンは、いわゆる異次元に存在する惑星』彼はそう言っていた。異次元に行くためには…


 9番線と10番線ホームの間の壁に突っ込むとか、合わせ鏡をつかうとか、エレベーターを使う方法もあったな、日比谷線っていう地下鉄を使うと行けるとか…


 でもそれは、ミステリー研究会で丸茂まるも先輩が言っていた話だし、丸茂先輩はどれも試してみたけど、ダメだったと言っていた。9番線と10番線ホームは家族旅行で訪れたロンドンで、わざわざキングス・クロス駅まで行ったけどダメだったと言っていた。でも、万が一、行けちゃったらどうしてたんだろう?それはさておき、何はともあれ、特別な入口があるはずで、普通の人には分からないけど、使う人の近くにある、又は設置することが出来るはずで、私が知る限りでも彼は数回エデンに行っているはず。髪の長さが変なことになっているのに何度か気づいた事がある。限られた場所にしか入口が無いのならば、そこに行くために、もっと家を留守にする事が多かったはず、でも、彼はほとんどいつもこの家にいた。

 やっぱり、その入口はこの家の中にあるんじゃないかな…


「ねえ、銀ちゃんはどうやって地球に来たの?ガーデンと地球を繋ぐ道みたいなものがどこかにあるの?」

 部屋が暗すぎて、ギンちゃんがどんな表情をしているかすら分からない。

 玄関に懐中電灯がにあったことを思い出し、取りに行った。


 玄関で電話が鳴った、中島さんからだ。


「もしもし、明ちゃん!良かったよ~、さっき掛けたら、電波の届かない場所に居るか、電源がってアナウンスが流れてさあ、いったいどこに行っちゃったのかって思ったよ。」


「ああ、地下に…」


「え?地下?」


「あ、違います…そうなんですか、おかしいですね。充電もあるし、どうしたんだろう。」


「来海ちゃんの事、花沢さんから聞いて、明ちゃん大丈夫かなって思って電話したのよ。明ちゃんは大丈夫なの?」


「はい、私は元気ですよ。今の所、大丈夫です。」


「それなら良かった。所で、ジョシュア君と来海ちゃんは大丈夫なのかな?ジョシュア君に電話したんだけど出なくて。」


「来海ちゃんはかなり体調悪そうでした、ジョシュアさんは私が帰るときは元気でしたよ。」


「そっか、来海ちゃん心配だね。ジョシュア君、来海ちゃんのことになると無理しちゃうところあるから、彼も心配だなって…今も、甲斐甲斐しく看病してるのかなぁ、それだったら良いんだけど。」


「そうかもしれないですね。」

 何とも歯切れの悪い返事しかできない。来海ちゃんと一緒に行方不明だとは言えない。


「ジョシュア君の事だから、倒れることは無いだろうけどね。もし、来海ちゃんが入院するとか、何か連絡あったら私にも連絡頂戴ね。私も、何かあったら連絡するから。」


「分かりました。連絡します。」

 そう答えて、電話を切った。


 中島さんも心配している。皆、二人のことを心配している。


 懐中電灯を持って再び地下室に向かった。

 懐中電灯で部屋の中を照らした。思っていたより広そうだし、奥に扉が見える。

 ゆっくと進み、部屋の中を照らしながら辺りを確認した。


 あの猫?豚?の脱力人形に鍵が入っていたと言うことは、元々、鍵は二つ入っていて、そのうちの一つを使ってジョシュアさんは地下室に入った、そして、もう一つが残っていたってことかな。それとも、単に地下室には来てないのか…

 そんなことを考えながら、扉を開けた。


 また、広い部屋が広がっているようだ。足元に何かサワサワしたものが触れてギクリとした。でも、すぐにそれがギンちゃんだとわかって安心した。真っ暗な地下室を歩くのって、すごく怖い。懐中電灯を握る手が汗ばんでいる、湿度が高いって言うのもあるけど、怖いのだ。心臓がバクバクしている。

 この地下室はどこまで続いてるんだろう?この部屋にはもう扉は見当たらない。ということは、地下室は二部屋で終わりと言う事か。


 でも、この地下室、変だ。ずっと使ってなかったのなら、もっとカビ臭いはずだし、埃だって溜っているはず、でも、全然そんなことない。懐中電灯の灯りだけじゃ、はっきりしたことは分からないけど、何カ月も使っていなかった部屋の匂いと雰囲気じゃないことは分かる。


「やっぱり、ここにからガーデンに向かったんだと思う。ねえ、ギンちゃんはどう思う?」


 ギンちゃんが壁際で耳をそばだてている。猫は耳が良いって話を聞いたことがある、ギンちゃんには何か聞こえているのかもしれない。


「何か聞こえるの?」


「にゃ~」


 ギンちゃんは一鳴きして、壁にガリガリと爪を立てた。何の変哲もないただの壁。


「この壁の向こうに二人が居るの?」


 壁に耳を当ててみた…何も聞こえない。でも、ギンちゃんがここだと言うのだから、ここに何かあるはず。


 壁を強く叩いた。


「ジョシュアさん!来海ちゃん!ここに居るんですか?いたら返事してください。水色の石が原因なんです。来海ちゃんの体調不要の原因は石なんです。水色の石!」


 そして、今日、これが何度目になるか分からないけど、あらん限りの大声を張り上げ続けた。





今回のお話はいかがでしたでしょうか?

感想などいただけると励みになります。

毎週水曜、日曜の14:30更新予定です。

宜しくお願いします。

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