解散の理由が正論でしかないんですよね
秋野先輩、痛くはないですけどそんなに肩を叩かないでください。
そんなに慌てなくてもいつものことじゃないですか。
このまま怪異について書いていると、部として存続が危ういぞって。毎月生徒会から。
ですので一か月に一度、学校行事について書かれた新聞を出すのを条件に、黙認されているんですよね。
ちなみに頭が固い人からは好評。いつものはっちゃけた怪異を望んでいる人からは不評ってところですね。
「やっぱり人数がって」
あっ、そっちでしたか。
二人しかいませんからね。部員数。そこら辺の同好会よりも酷い有様ですからね。
先輩方が抜け出て、入ってきた人も、ぼく以外秋野先輩の強行に耐えられず抜けていき。
最後に残るはいつもの部員。猛き者も何とやら。
「今さら部員集めしても仕方ありませんよね?」
ぼくは全力で脱力する。
冷静に考えて時期が時期。秋始めなんて、大多数の人はもう選び終えているころでしょうし。
それに何よりこの同窓会。見ている分には面白いだとか。男は絶対に入るなだとか暗黙で言われているらしいですからね。
百合がどうとか。一体何のことやら。
「やる。ううん、やって見せる」
「……まぁ、秋野先輩がそう言うなら準備しましょう」
正直無駄だと思いますけど。
まぁ、やらないよりはやり切った方が達成感、というより悔いが残らなくていいですからね。
そしてやるからには全身全霊で。
そんな感じで、早速パソコンにチラシの内容を書き出してみたわけですけど……。
「アットホームな同好会とかどうよ?」
「どことなくブラックそうですね」
「楽しくワイワイ! やりがいのある――」
「ブラックですね」
「人に認められる、痕跡を残す取り組みを!」
「それでこの部に入る人は、恐らく転校生くらいなものですね」
言いすぎましたかね。秋野先輩、完全に固まってしまいました。
でも文句がいちいちブラック臭いんですよね。というより、夜中にいきなり呼び出されるのでブラックなのは確かなのですけど。
むしろそれで通ると思っていた秋野先輩に驚愕ですよ。
「というより、ぼくとしては少し不思議なんですよね」
「何が?」
そんな恨めしい物を見るような目をしないでくださいよ。霊ってそういう人に寄り付くんですから。
「言ったじゃないですか。時期ですよ」
今までも何回か生徒会に小言を言われたことはありますけど。そのどれもが怪異についての警告。
部員数で何かしら言われたことは一度として無い。
なんせ怪異が絡まなければ教職員たちにかなり好評ですからね。新聞同窓会を解散させようものなら、優秀な人材を失うことになる。
だからこそ今まで解散だなんて言われたことはありませんでした。
ともなれば、嫌でも羽江さんのことが脳裏をよぎるけど……、どうなんでしょうかね。
何かしら関係性はあるような気もしますけど。
ぼくの話しが進むにつれて、秋野先輩は冷静を取り戻したのか「確かに」と呟いた。
これで秋野先輩は考え込みますね。ぼくは大人しく光合成でも……。
「じゃあ生徒会に行こうっ!」
あの、それぼくも行く必要あります? なんで手を掴むんですか。
立ちます。立ちますから、引っ張らないでください。本当に危ないですから。
……こうなった秋野先輩を止めるのは難しいですからね。諦めてついていくことにしましょう。
* * *
そんなこんなありまして、生徒会室から元の部室に帰ってきたぼくと秋野先輩。
いやー、生徒会の言うことは正論でしたね。怪異を書くことについて、部員の人数、秋野先輩の奇行や部活内での強行について反論のしようがありませんでしたよ。
笑うしかないとはこのことですね。
ただ、妙に気になるのも確か。
「違和感はあるんですけどね」
その違和感に気づけないと言いますか。態度や目の動きから察するに、絶対何かを隠しているなっていうのは分かるんですけど。
うーん。上からの圧力とでも名状した方がいいんですかね。生徒会としても少し不本意って感じでした。
見えない圧力ってこういうことを言うんでしょうかね。
羽江さんが所属している組織が何かをしたという疑惑がさらに高まったような気がします。
「それでどうします?」
「どうするとは」
「部員。それに新聞の方向性」
どの道、一か月後までに何とかしないと解散することに変わりはないんですよね。
組織とか考えたところで仕方がありませんし。
この際、解散をさせるのは勿体ないと思い込ませるところまで行きましょう。
「もうではなく、まだ一か月もあるんです」
生気を失ったかのように口を開ける秋野先輩。こういう時は道を示してあげればですね。
「そうだった! 今すぐ取り掛かるよ」
やる気になるんですよね。この先輩は。
本当に剣道からこっちに来て正解でした。
命の灯は輝くからこそ美しい。錆びない精神とでも形容しましょうか。
錆びて腐った行く姿ほど見ていて不快なものはないですからね。
「ええ、やりましょう! 今からでも間に合います!」
「おっ、氷濃が声を上げるなんて。やる気だね、助手!」
秋野先輩の夢を絶対に叶えさせてあげるんだ。
部室内、パソコンのキーボードを打ち終えると、ぼくは秋野先輩を呼んだ。
チラシ作り、思いのほか苦労するものですね。久しぶりに授業以外でパソコンを叩きましたよ。
あれ? もしかしてぼく、この部活に入ってから怪異を斬ることしかやっていない?
「……」
額を抑えながら、秋野先輩がため息をついた。その手はぼくの肩に置かれている。
「中々いい出来だと思ったんですけどね」
「文章が硬すぎる。レイアウトが見にくい。挙句、無駄に若者っぽくしようとして死語の連発」
オッケー牧場とか今風じゃありません? これくらい余裕のよっちゃんイカだと思ったんですけど。
「氷濃は……推敲だけして。それでいいから」
力強く置かれた手ははなんでかプルプルと震えていて。なんか、若干泣きそうになっていません?
とりあえず、秋野先輩の言う通りにしましょうか。
「合点承知のす――」
「お願い氷濃。今記憶している若者言葉の記憶全部削除して」
そんなに酷いですかね……。わけわかめとかよく聞きましたけど。近所のおばさん達の会話で。
まぁ、秋野先輩がそういうなら消しておきましょうか。削除削除~。
……なお、この後炎樹に同じような言葉をメールで送ったところ、『何言ってんの』ってライムで返ってきた。
そんなに古いかな。