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なぜかよく老人って言われます

 お風呂上りのこと。

 ぼくは秋野先輩にドライヤーで髪を乾かしてもらっていた。

 ドライヤーを使うことは知っていたのに。そのまま使おうとしたら秋野先輩に止められ、頭からタオルを被せられて今に至る。


「手間のかかる妹ができた気分」


「それだとぼく目線、落ち着きのない姉がいるってことになるんですかね?」


「じゃあ今日だけ姉妹ってことで――」


「それは嫌なのでお断りしておきます」


 あははと秋野先輩は笑う。ぼくもひとつクスリとしておく。

 秋野先輩を姉に持つと苦労しそうですから。

 睡眠を邪魔されたくないです。

 秋野先輩に頭を乾かしてもらった後、ぼくはせっかくなので久しぶりに体重計へ乗ってみる。


「うっわ、本当に162キロじゃん」


 横から秋野先輩がぼくの数字を盗み見る。

 ぼくが乗った途端、体重計の数字は162キロと出てきた。

 エラーじゃない。秋野先輩が確認のために乗ったところ、55キロと出てきた。

 で、もう一度ぼくが乗ってみると再び体重は162キロと出る。

 秋野先輩はこの結果に唖然としていた。

 なんてことはないとぼくは首を横に振る。


「ここまで来たらもう気にならないですよね」


 体重を何度か知られたことありましたけど、恥ずかしいという少女漫画チック染みた感想は出てこなかったですからね。

 小学校の頃はありましたっけ。あの頃はまだ100行ってなかったですし。

 もう、分からないことですけどね。

 秋野先輩は「ダメでーす」と言いながら、ぼくにデコピンしてくる。


「こういう未知の部分を調べるのがあたしたち、でしょ?」


 ぼくは頭をバチンと叩かれた気分でした。

 秋野先輩が少しムスッとした顔になっているのが面白くて、ぼくは少し微笑んだ。


「……でしたね」


「そう! というわけで秘密を――」


「ダメです」


 それとこれとは話が別です。

 ぼくはいつか見た秋野先輩と同じように、腕をバッテンして要求を拒否したのだった。


 *  *  *


 秋野先輩とのお風呂もそこそこに、そろそろ寝る時間になっていました。

 パジャマは持ってきていないので、秋野先輩のパジャマを借りる。

 早速上から着用として、またも秋野先輩に止められた。


「ブラジャーは?」


 秋野先輩の言葉はぼくに精神的落雷をもたらした。

 ……確かに。


「……サラシありません?」


「逆に日常生活でサラシ使っている方に驚きなんだけど。えっ、氷濃って何時代の怪異?」


「ぼくは怪異じゃなくて人間ですよ」


「……何時代の人間?」


「現代ですね」


 自信たっぷりに指をひとつ立ててぼくは言う。

 対して秋野先輩は何も言わずに顔を手で覆いました。


「……服は貸す。ブラジャーはサイズ合わないし、そのまま着て。別に問題よね?」


「そうですね。言うほどありませんし。出来るなら何か縛るものが欲しい所ですが」


「……絆創膏ならあるよ?」


「いえ、大丈夫です」


 意味深な笑みを浮かべる秋野先輩。

 ぼくは手を突き出してちゃんと断ります。

 代わりに手渡されたのは、秋野先輩のぶかぶかな服。

 ぼくはそのまま服を被りました。

 ぼくの腕よりも長い袖。前の方もかなりダボダボで妙な違和感を感じます。

 ずり落ちそうになるズボンをベルトできつく縛る。けれど足の長さが足りていなくて、裾を踏んづけてぼくは転んでしまう。

 秋野先輩が温かな目を向けてくる。


「なんか……小学生を見てる気分」


「いつかは秋野先輩を追い抜いて見せますので!」


「ははは……、本当に小学生だ」


 秋野先輩は上から半ズボンとハサミを持ってくる。

 もう使わなくなったものだからと、ズボンを斬ってぼくのサイズに調整してくれる。

 そうして渡されたズボンは、ぼくの動きを邪魔することが無かった。

 ピョンピョンジャンプもできる。


「おおぉ! ちゃんと着れました!」


「よかったね」


「はい!」


 ……あれ? 

 今のぼく、相当子どもに見られていない?


 *  *  *


 秋野先輩はぼくの手を引きながら、「お泊り! お泊り!」と楽しそうに階段を登っていく。

 どうやら秋野先輩は服を取りに行くついでに、毛布も準備していたらしいです。

 床に敷かれている何重にも重ねられた毛布。即席の布団といったところでしょうか。


 ぼくとしては普段から布団なので落ち着きますね。

 何度ベッドで寝がえりをうって穴を開けたことか。

 妙に寝心地が悪いんですよね。言葉では言い表しがたいのですが。

 反対に家族みんなベッド派なんですよね。なぜかぼくだけ時間を逆行しているんです。

 ぼくは秋野先輩に進言する。


「あっ、ぼく枕を使わない派なので」


「……氷濃、もしかしてもしかしなくても……小学生?」


「高校生ですよ。失礼ですね」


「えっけど、枕を使うようになるのって10~12歳辺り……」


「それは統計でしょう? 使わない人は使いません」


 ぼくは毛布と毛布の間に入り込み、天井を見上げる。

 やっぱり落ち着きますねぇと、ぼくは聖母のような安らぎに包まれる感覚の中瞼を閉じる。


「寝るの早くない? もう少しトークしようよ、トーク!」


「……いいですよ。けど基本九時就寝なので、この体勢で」


 このままだと寝ちゃいそうなので、ぼくは瞼を食いしばる。

 ぼやけた景色が映る。

 ベッドに座る秋野先輩を見上げつつ、ぼくは「ふわぁ」と軽いあくびを溢した。


「寝るの早すぎ!? ごめん、よく十一時とかに起こしちゃって」


「別に問題ないですよ。講義の時間に寝ているので。睡眠学習って便利ですよねぇ……」


「氷濃って、そういうところあるよね」


 秋野先輩が呆れた表情でぼくを見てくる。

 ゆったりとした優しさを感じる教師の口調。五時限目に感じる無性の眠気。そこへ差し込んでくる母なる日差し。

 さいっこうの環境です。

 思い出したら、またぼくの瞼が重くなってきました。

 考え事も何もできなくなるくらい、ぼーっとしてきて。

 秋野先輩がぼくの瞼を手で下ろしてくる。


「おやす!」


「……はい、お休みなさい。秋野先――」


 今日はよく眠る日ですね。

 けど今日は……、良い夢が見られそうです。

 だってこんなにも安心できて……。

 そうして床に就いたぼくは2時間おきに放たれる秋野先輩の蹴りで起こされるのでした。




「朝早くない? 何時起き?」


「四時起きですね。太陽が昇ると同時に起きます」


「……なんか、子どもと年寄りが同居した感じの生物だね」


「よく言われますね」


「いや言われちゃダメでしょ!」


 早朝、7時半くらいに起きた秋野先輩にぼくはツッコまれました。

 起きはじめこそ瞼を半分閉じ、眠そうにしていた秋野先輩でした。

 しかし今は瞼をバッチリと開けて、目を覚ましたようですね。


 今日は休日。

 秋野先輩はベッドからいそいそと起き出すと、パジャマから私服に着替えます。


「授業中に眠るくらいなら二度寝すれば?」


「朝はバッチリと目が覚めるので無理ですね。昼頃になるともう眠くて眠くて仕方ありませんが」


「……病院行った方が良いよ」


 それ何回目ですかね。

 よく先祖以外の家族からも言われるんですよ。

 いちおう病院に行ったことはありますが、その度に異常なしって診断を出されています。

 きっと先祖の背中ばかり見てきたので、そんな風に性格や思考が変わっていったのでしょう。

 育ってきた環境って奴ですね。


「そういえば替えの服がないので貸していただきたいのですが」


「えっ、氷濃って毎日制服を洗濯するタイプ?」


「しないんですか?」


「しなくない?」


 秋野先輩はパジャマを脱ぎ捨てながら、下着一枚の状態でワイシャツを取り出しました。

 ぼくは脱ぎ捨てられたパジャマを手に取り、適当に畳んでベッドに乗せておきます。

 ぼくは秋野先輩から手渡されたワイシャツに着替え始めます。


「では昨日洗濯したものを着るとしましょうか」


「氷濃が言うと斬るに聞こえる」


 アハハと笑う秋野先輩。

 それから「取ってきてあげる」と続けてくれました。

 ぼくはそんな手間を掛けさせるわけにはいかないと、部屋のドアノブを握る。


「干した場所は分かっているので別に――」


 秋野先輩は指を横に振ると、怪訝な顔でドアノブからぼくの手を外しました。

 眉を少し不機嫌そうに吊り上げて、じっとぼくの目を見てきます。


「氷濃のことだから先に着ていた服を洗濯機に入れて、それから干した服を取りに行くとみた」


「エスパーですか?」


「うちには中学生の、思春期の権化とも言うべき弟がいるんでそういうのはダメでーす」


 秋野先輩は腕をバッテンして見せると、扉の奥に行ってしまいました。

 取り残されたぼく。せっかくなので床に正座して、朝の陽ざしを浴びる。

 ……ゆっくりするのもまた乙ですよねー。車や風、鳥の音を楽しみつつ、心のゆとりを広くする。

 今日はどんな一日になるんでしょうねー。快晴なので緩やかな風が流れていそうですよねー。

 あー、お茶が飲みたい。

 ぼくの服を持って秋野先輩が戻ってきました。

 秋野先輩は少し口角を引きつらせています。


「戻ってきたら後輩が枯れていた」


「お帰りなさい。炎樹みたいなこと言いますね」


「割と的確な表現していたのね、妹ちゃん」


 そうだったんですね。

 道理でぼくの両親も何となく【分かる】とでも言いたげな顔をしていたのですね。

 ぼくのことに関してだけ注意されませんから。


 ぼくは秋野先輩から頂いた、乾き切れていなくて少し冷たい制服に袖を通します。

 冷たくなっている部分を、ぼくは太陽の陽ざしに当てて、少しでも乾くよう尽力します。

 休日に制服を着るというのも、また不思議な感覚ですよねぇー。


「ここまで行くと炎樹ちゃん。氷濃のことが好きか、もしくは放っておけないって感情が芽生えていたり」


「そうなんですか? いつも嫌々な態度ながらやってくれるので分からないです」


「乙女心は複雑怪奇なの」


「良く分かりませんね、乙女心」


「今氷濃が下に着ているスカートは何なのか、お胸から出ているこんもりとした坂は何なのか、凄い問いただしたい」


 秋野先輩上と下に視線を行き渡らせます。

 その中でぼくは、最後にワイシャツから髪をかき出します。

 スカートのチャックも上にあげて、着替え終わります。

 ワイシャツのボタンの位置も完璧ですね。

 ぼくは最後、自分の鞄を肩から下げてから手を合わせる。


「さて、それでは今日の活動ですね」


「そう、羽江さんからの依頼! 行くよ氷濃!」


 声高らかに、秋野先輩は拳を突き出しました。

 その前にとぼくはひとつ釘を刺しておきます。


「その前にご飯にいたしましょうか」


「いいよそんなの! 怪異があたしたちを待って――」


「腹が減っては戦はできぬ。兵糧が無かった為に、全力を出すことができず散っていった人たちがいったいどれほどいたことでしょう。もしもきちんと朝ご飯を食べることができなければ、きっとぼくは秋野先輩を――」


「はい分かりました! ……こういうところも老人っぽいんだよなぁ」


「何か仰いましたか?」


「いえ、何も!」


 ぼくの言葉に敬礼して見せた秋野先輩。先ほどついた悪態については白けていますね。

 別に怒りはしませんよ。客観的に見ればそうらしいですからね。

 なのでぼくは気にしていませんよとばかりに、微笑んで見せます。

 これを秋野先輩はどう受け取ったのかは分かりません。

 なぜか急激に顔を青ざめさせ、それから「いや待てよ?」と疑惑の表情に変わり、最後は普段通りの様子でぼくの手首を掴んでくる。

 そうしてぼくと秋野先輩は朝食を食べ終えて、今日も不思議な一日が始まるのでした。


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