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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第791話 ソース文化

「さぁ、夕食を楽しんでくれ。口に合うと良いが」


 上機嫌のユーサルの口上により、夕食が始まった。私の横にはリズとロット、そして仲間達が座る。正面にはベティアスタが。そしてユーサルの兄弟姉妹が座っている。

 和やかなムードで食事が進む。照明の炎からは香油の優しい香りが漂い、部屋全体を落ち着いた雰囲気に仕上げる。

 食事の内容は宿で食べたものと大きく変わりはない。旬の時期が今だからこそだろう。明らかに違うのは、その鮮度と調理技術。そして、ソースの細やかさ。

 雷鳥にしても、火の通し方が絶妙で硬くなりがちな肉も柔らかく、レバーに似た血合いの香りも逆に華やかさに彩りを添えている。なによりもソースだ。

 ワラニカはどちらかというと素朴な味付けで素材の味を楽しむ方向性だが、ダブティアはソースで味の方向性を決める。広大な領地より収穫可能な産物、香辛料をふんだんに使い、複雑妙味を芸術的な域に高めている。

 我々が中世のフランス辺りを想像すると、素材そのままで焼いて塩をかけて食べるという印象だが、現実大荘園を有する貴族達の食事ではソース文化が花開いていた。そういう余裕の片鱗を見せつけてくる。


「この血のソースは絶品ですね」


 ライチョウをゆっくりと焙って脂を落としつつ肉を蒸し焼き風にしたのだろう。落とした脂に新鮮な血を加え、ワインで伸ばす事により濃厚でかつ旨味の強いソースが仕上がっている。その香りの高さは、癖が強いライチョウとよく合っている。口に残りがちな苦みもワインの甘味と香ばしさで調和を見せている。

 私の言葉に、ユーサルが嬉しそうに頷く。


「時期だからね。良い形のが捕れたので出してみた。口にあったかな?」


「えぇ。ワラニカでは中々食べられない味ですね。やはり伝統とは洗練されたものを残しますね」


 うんうんと頷くユーサルにベティアスタも微笑みを浮かべる。


「ワラニカの味が恋しくなる事もあるが、台所の妙技をみていると、また味の印象も変わる。非常に興味深い」


 褒めてるんだか良く分からない。ちょっと的を外す性格は相変わらずかと、くすりと笑ってしまう。

 軽くワインを開けて、食事も無事終わり部屋に向かう。

 侍女が先導し、開けられた扉の中を見て、内心溜息を吐いた。


「これは……」


 唖然としたようにリズが呟きを発する。蝋燭の光に煌めく黄金の輝き。そこここの金具に金を配した部屋は、少しの灯りでも煌めきを発する。室内の燭台に灯りを点した侍女が挨拶の後、優雅に出ていく。


「落ち着かないね……」


 リズの言葉に、私も頷く。


「まぁ、おもてなしだから。感謝しておこう」


 二人で扉を開けて各部屋を確認していく。最奥の部屋を開けようとすると、はふはふと威勢の良い呼吸の音。開けてみると、タロとヒメが嬉しそうに箱の中で立ち上がり、尻尾をふりふりしていた。


『ふぉぉ。さみしかったの、ままいないの!! だめなの、あぶないの!!』


『ゆくえふめい!!』


 近づくと、感極まったのか、飛び掛かってぺろぺろと顔を舐めてくる。リズと一緒だったが、夕食の時に連れてこられたのだろう。朝から分かれていた二匹は寂しかったのか、ある程度落ち着いてもぴとっと体の一部をくっつけている。


「ふふ。甘えん坊だね」


 リズが喉元をかしかしと掻くと、甘えたような声を上げる。

 私は、入り口のダイニングに戻り、皿を抱えて部屋に戻る。


『さぁ、食事にしよう』


 私が『馴致』で呼びかけると、二匹がすちゃっとお座りで待機する。でも、尻尾は期待でぱたぱたと揺れている。

 とんっと皿を置き、まてよしをすると、がつがつ元気よく食べ始める。


『ふぉ、あまーの!! うしなの。それにいのししもいるの!! うまー!!』


『にこいち!! おいしい!!』


 食べ終わると、取り敢えず興奮を鎮めるためか、お互いに毛繕いを始めた。

 私達は、ここでも煎餅布団である事を確認し、ソファーに腰をかける。


「取りあえず、陛下の……。いや、大叔父の遺志は叶えられた……と思う。少なくとも、その端緒は掴んだ」


 私の言葉にリズがゆっくりと目を閉じ、そっと手を取る。


「そう……。良かった。でも、苦しそうだよ?」


 開いた瞳で私の目を見つめ、リズが告げる。


「きっと、私達のワラニカの行く末に少しでも良いものを残したい。陛下はそう考えられていたと思うの。それだから、笑って逝かれたのでしょ? ヒロが辛そうだと、陛下が悲しむよ?」


 リズの諭すような言葉に、背中に入っていた力が抜け、こわばりが解ける。


「ふふ。リズには敵わないよ。確かに、少し疲れたね」


 そっと髪に指を通すようにリズの頭を撫でながら口を開く。


「でも、ワラニカのため、これからが正念場だ。これは、私がやるべき事。仕事だ。泣かない、喚かない、そして後悔はしない」


 その言葉にリズが、んっと短く頷く。


「そう決めたなら、私は支える。ヒロが倒れてしまわないように。だけど、無茶はしないでね」


 そう告げたリズとそっと口づけを交わす。

 木窓の隙間から月明かりが優しく差し込む中、疲労を覚えた私達は早目の就寝とベッドに潜る。どうか今夜は良い夢が見られますように。心地良い達成感と共に、意識を手放した。

リハビリ期間に、新作を投稿しております。


■TRPGみたいな世界で僕は運命のダイスを振り続ける!

テーブルトークRPG好きには堪らないかと思います。

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初のノクターン作品です。

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