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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第789話 外交の丁々発止

リハビリ期間を含め、お待たせしました。

間を開けず、続きを書いていきたく思います。

「友諠……友諠か」


 瞑目したユーサルが深々と頭を下げる。これはかなり異例だ。対等ならば猶更、目下ならば以ての外の行い。詫びるは、外交においての禁じ手だ。


「父が、前ハーバテスタイ伯爵が引き起こした顛末は、今この場にいる私の責だ。どうか謝罪したい」


 真摯な瞳。貫くようなまっすぐの瞳。絆される人はここで絆されるんだろうなと冷めた心で思う。外交は化かし合いだ。千変万化態度を変えて、自分が、所属する組織が必要とする結果を得る。経過なんて関係ない。最終的に、必要なものを得ていれば良い。

 私はレシピつまり恒久的な財産を供与した。これは、将来的に陳腐化する可能性はあっても、改良すれば永遠に利益を生むものだ。

 翻って、今回の謝罪。子爵が伯爵より受けるのは名誉かもしれない。しかし、言ってみれば領内の前任者が起こした罪を領内の今の領主が謝罪しているに過ぎない。国王の犠牲と、ハーバテスタイ領。重さとして釣り合わない。

 それに、ここまでの厚遇を引き出したのは、レシピの価値を判断出来ないからだろう。値段は分からないが、大きな利益は見える。ならば、目下の顔を立ててでも大きめの利益供与、つまり伯爵より謝罪を引き出した子爵という像を作り出したいというのが分かる。

 全く……こ憎たらしい。国王の死をこんな小さな犠牲の対案で潰そうとする姿勢に、腹の底から嫌なものが湧いてくる。


「いえ、そのように言って頂くとは。しかし、不幸な出来事でした。ユチェニカ閣下は?」


「敬称は必要ないよ。前……いや、父は北部の城に幽閉している。もう出てくる事は決してない」


 にこやかにユーサルが告げる。決して……か。確実なものなんて無いこの世界。決してという事は、害したか。外聞を恐れて、公表していないだけだろう。ハーバテスタイ領民にしてみても、ワラニカの抗議で領主が死ぬ羽目になるような弱腰は許さないだろうし。


「そうですか。健やかにお暮し頂ければと思います」


 皮肉に嫌味で対抗する。お前に取って他人が死んだだけだろうが、うちは親を殺さないといけなかった。そう言いたいのだろう。


「傷み入る」


「しかし、此度の件は本当に痛ましい。我が大叔父が身を犠牲にせねばならないような話だったのでしょうか……」


 自分が上げた献策で人を殺しておいてと、心の中の器が疼く。ばづりと古傷が開き青い血が滴るのが分かった。それでも、自分の愚行の代償は払わなければならない。死者の夢の行く末に道をつけるため。


「大叔父?」


 初耳のようにユーサルが目を見開く。別に積極的に公開している訳でもない。下手したら、国内でも知らない者の方が多数だろう。


「はい。ノーウェを父に迎えました。よって、ロスティーは我が祖父。その兄弟である前陛下が命を落とさなくてはならない出来事に胸が張り裂ける思いです」


 ユーサルが眉根に皺を寄せて、ふいっと目を剥く。

 うん、その通り。君は、親を殺したんだから対案として潰すねって言ったけど、こっちも血族が死んでいる。カードは私の方が一枚多い。血族を失ったのはお互い様。つまり、純粋にワラニカの国王が死んだ事を、ユーサルが、ダブティアがどう補償するのかというのが再浮上したのだ。

 別に話題に出さないか、こちらの贈り物の対案になどしなければ、引かなかった引き金。さて、一国の国王の命のカードはどれ程の重さだろう。


「そ……うか……」


 事情が理解出来たのだろう。ユーサルは呻くように呟くので精一杯だ。

 華やかな出会い。陽光差し込む豪奢な執務室にあるまじき沈黙。ホストの威厳がかかる一幕である。


「まぁ、今はともかく未来の話をしましょう。これからのマエカワ領とダブティアとの関りについて」


 私は笑顔で梯子を外す。貸し一だ。


 柔らかな革のソファーに座り、侍女が淹れたお茶を堪能する。流石、チャノキの本場。香りが全然違う。薫る芳香を楽しみ、そっと口に含んで鼻から抜ける鮮やかな香りを堪能する。


「やはりお茶はダブティアの方が勝りますね」


 なまじお愛想ともいえぬセリフに、若干挙動不審になりながらもユーサルが笑顔を浮かべる。


「あ、あぁ。噂ではマエカワ領でも茶の生産を始めたとか」


 お前の領の状況は分かっているんだろうという、観測的なジャブ。


「えぇ。ただ、元の木の問題でしょう。市場に出したとしても駆逐される程度の品質。領内での消費で終ってしまいます」


 ダッジして、スルーする。


 ここから、外交の本領だ。丁々発止、虚々実々、紆余曲折を経て、両者何の確約も交わさないまま三十分ほどの時が流れる。


「と、まぁ。ここまでお話をしてきましたが、正直な話。私はダブティアに前陛下の死に関して何かを求める気は無いのです」


 取りあえず、特大級のストレートを何気なく見舞ってみる。


「は……あぁ?」


「これに関してはロスティーも同意しています」


 このセリフに黙り込むユーサル。国の重鎮が、国内の半数以上の貴族を抱える派閥の長の同意だ。国の方針と言っても良い。計算が成り立たないんだろう。


「今後は、健全な商売が出来ればと思います。積極的で、融和的な、素晴らしい商売です」


 私は笑顔で言い切った。

リハビリ期間に、新作を投稿しております。


■TRPGみたいな世界で僕は運命のダイスを振り続ける!

テーブルトークRPG好きには堪らないかと思います。

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■異世界風俗レビュー

初のノクターン作品です。

ノクターンで該当作品をお探し下さい。


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