第774話 あの時と同じ景色
例によって例の如く、夕食は鉄板焼きや網焼き祭りになった。収穫祭をずらした都合もあり、皆が娯楽に飢えているのか、珍しく製塩に携わっている男衆も早めに業務を切り上げて参加してたりする。そういう人間に限って、傍には幸せそうに見上げる人魚さんを連れていたりする。
「僕達、結婚しました!!」
「うん、聞いているよ。おめでとう」
ざっかざっかと野菜炒めを汗だくで炒めながら、惚気で溶けそうになっている二人に答える。
先程からもう、こういう報告が延々続いている。
「あてられるって、こういうことなのかな?」
フィアが必死で生地を焼き上げながら、ぎりぎりと歯を食いしばっているが、ロットと昔からいちゃついているイメージしかないので、頭の中でお前がいうなという言葉を贈ってみた。
リズとロッサは仲良く網焼きの調子を見ている。竜の皆もおっかなびっくり配膳をしたりしている。人魚の人達に取っては竜は偶に見かけては挨拶する仲なのか会話も途絶えない。
タロとヒメも虎さんと一緒にちょっと冷ました魚の身をはふはふと楽しんでいる。いろんな子供に構ってもらえるのが嬉しいのか、もう食べるのが先か遊ぶのが先か、やはり食べるのが先みたいな感じで忙しない。
「おじちゃん、あのね、たくさんほしいの!!」
その中でちょっと元気な声。顔を上げると、パオーン君がむふぅっという表情でお皿を出してきている。
「ん。どうしたの? 沢山食べられるようになった?」
私が問うと、ぎくっとした表情でぎぎぎと斜め後ろの木の方を向く。そちらに視線を向けると、鈴なりになった人魚の女の子の群れ。
「はは。尻に敷かれているか」
「そんなんじゃないの!! つよいおとこになるの!!」
そう言ってくいっと腕を曲げるが、まだまだ力瘤には程遠い。むむむっと力を入れている表情は可憐な女の子のようだ。
「はいはい。熱いから気を付けてね」
「はーい」
嬉しそうにはにかみながら微笑むパオーン君。てちんてちんと跳ねていくのは良いのだが、後姿はまさしく乙女だ。
「ショタのお姉さんに食べられないようにね……」
私は心の底から、彼のハーレム生活を応援する。私にはそんな甲斐性も度胸も無い。一人で精いっぱいだ。パオーン君の未来に幸あれ。
「ふぅ……。片付いたでござるな」
盛況の内に終わった夕食会。兵どもが夢の跡を皆で片付け終えると、流石にタフの権化のリナも溜息交じりに息を吐く。
「ほい、お疲れ様」
私はカップに氷を浮かべたビールを皆に配る。ちょっと薄めたくらいのビールが夏の夜には合う。キンキンに冷えたビールを片手に今日の盛況を皆で語り、一人抜け、二人抜け、最後には私とリズだけを残して、皆が眠りに就いた。
「少し歩こうか?」
「うん」
潮騒が響き続ける夜の砂浜。どこまでも晴れた星空は、何もかもを吸い込みそうなほどに遠い。星の瞬きは今にも零れ落ちそうな雫のようだ。
二人何も言わず歩き、そっと腰掛ける。
「この一年、色々あったね……」
「そうだね……。ふふ。でも、良い思い出ばかり」
「はは。そう言ってもらえるなら、良かった」
私は、そっと胸元から、小箱を取り出す。
「ん? 何?」
「開けてみて」
小さな飾り箱を開けると、そこには飾り気の少ないネックレス。
「ふえ?」
取り出したネックレスの先には一際大きな真珠のペンダントトップが揺れている。
「なにゆえ?」
リズがきょとんと問うてくる。
「んー。婚約一周年記念……かな。また旅が始まったらアクセサリーを着ける機会も少なくなっちゃうから、常に着けられるもの」
私がそういうと、星明りの下のリズが少し紅潮しながら、ふわっと甘えた表情を浮かべる。
「貸して」
ネックレスを受け取り、リズの首に手を回し、金具を通す。
「うわぁ……。綺麗」
淡い白の中に七色の光を浮かべる真珠がリズの瞳の中でキラキラと輝く。
「喜んでもらえたら、嬉しい」
私がそういうと、少しだけ濡れた瞳でリズがこくりと頷く。
波の音がさざめく中、あの時と同じようにそっと二人の影が近付く。
見ているのは、あの時と同じ星と波だけ。
『ふぉ。あそびいきたいけど、じゃますると、めーなの?』
『めっ。とらさんとあそぶ。かりきょういく』
『たのしそうなの!! いくの!!』
それと、二匹だけだった。




