第772話 新造艦
暫く子供達を投下し続けていたら腕が攣りそうになってきたので、明日に延期してもらった。リズと二人で野営地に戻るともう準備が出来ている。
「じゃあ、船を見に行こうか」
そう告げて、皆で港の方に向かう。
「うわぁ……。海を歩ける!! 面白い!!」
桟橋を楽しそうに駆けるフィア、それを笑顔で見守るロット。
「大きい船ですやん……。でも、甲板がえらい広い……?」
大きな口を開けて船を見つめるチャットとロッサ。
ドルとリナ、レイは船にまつわる技術に関して、話し込んでいるようだ。
「立派だね……」
万感の思いを込めるように、リズが呟く。
「うん。これでお魚も沢山獲れるし、人を遠くまで運べるようになる」
前から温めていた、海洋進出。そして、各国に港を築いての実効支配。別に領土なんて殆どいらない。海の玄関口さえもらえれば、現地で塩を生産し、交易、そして多種多様な産物を輸入出来る。まずはその第一歩だ。
「まだまだ慣熟までには時間がかかるから、先の話だけどね」
港の『フィア』の人達と、船のテラクスタ領の人達が仲良く手を携えて船を運用している。暫くは慣熟航海と言う事で、『フィア』の港とテラクスタの港を往復するそうだ。ちなみに荷物は勿論塩だ。戻りは小麦や野菜などの農産物となる。そうなれば、『リザティア』からの輸送量はぐんと減るので、運送コストが大幅に圧縮出来る。船便の方が積載量も多いし、テラクスタ領の方が農産物は安い。
それに、『リザティア』からの輸送はこれから加工品が主体となる。テラクスタとも相談したが、現在量産が進んでいる布を大量に欲しているので、それも船便で送る。テラクスタはそれを南方の領主に安く売って利鞘を稼ぎつつ保守派を懐柔し、開明派に靡かせる。帰りの荷物には綿を乗せるので、それを『リザティア』に運んで加工する。正にwin-winだ。
この貿易で生まれた富で、二番艦、三番艦が生産出来れば、本格的にワラニカ王国は大洋に進出を果たす。
船の絶対防衛の要の人魚さん達は、拠点予定地に着けば、工兵に早変わりして船に積んだ資材を使って港を作り上げてしまう。
そうなれば、乗り込んでいた人達が周辺を開発し、実質的に支配出来る。
勝算の無い賭けではない。むしろ問題の方が少ない。序盤は竜さん達のネットワークを使いながら密に連携する必要はあるが、船の数が増えればそれも徐々に必要無くなる。
今回のダブティア訪問に際しては、その辺りのニュアンスも匂わせるつもりだ。切り取り御免が大陸の掟ならば、拒む理由も無いだろう。
「じゃあ、船を見学させてもらおうか」
私がそう言うと、歓声と共に、皆が動き出した。
縄梯子で甲板に上がると、マストの間隔が広く、だだっ広い印象を受ける。前方には竜さんの離発着用の空間が設けられ、後方には積載用のクレーンが取り付けられている。勿論、クレーンから船倉への直結の奈落は存在する。
船倉は広く、積載量に期待が高まる。一つ特色を述べると、人魚さんの出入りを考えて、階段や通路の空間を大きく取るように設計をお願いしたので、居住性がすこぶる高い。あの急で狭い階段では無いので、移動が非常にスムーズだ。案内してくれる船員からも非常に好評な事を伝えられた。
船室も同様の思想で作っているので、広めに作られている。
最後に、船尾楼に向かい、操舵室を見学する。
「うわぁ……。高いです……」
おっかなびっくり、窓から外の景色を眺めるロッサ。
「遠方まで見えるで御座るな」
リナが目を細めながら、ぐるりと見渡している。
「ここからの見晴らしは自慢です」
案内役の人も誇らしげに告げる。現在は船の数が少ないから問題無いが、将来的に目視距離は重要だ。マストに帆を開いた時をイメージしながら、最終的な見晴らしを確認しておく。
船から降りると興奮に疲れたように皆が大人しくなっているのが面白い。
「夕食の準備まで休憩しようか」
空はまだ日が落ち始めたばかりだ。冷やしておいたココナッツジュースでも飲みながら、ゆっくり休憩しようか。




