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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第767話 収穫祭2日目 竜巣艦就航

「実際に……出せるのかい?」


 ノーウェの言葉に、にこりと微笑み、答える。


「食べる分は無理でしょう。作付け面積も限られます。何より、育成に特殊な環境が必要ですから」


「それが、あの水に浸かった畑か……」


 テラクスタの言葉にこくりと返すと、むむむと渋い顔に変わる。


「兄ぃの畑は、麦に特化してるから、そうそうに転作も難しいね」


 ノーウェの言葉に、テラクスタが落胆混じりのむすっとした表情を浮かべると、ノーウェが愉快そうに笑いだす。そうなると、テラクスタも表情を崩さざるを得ない。ぐい飲みをきゅっと傾け、ふぉぉと深い息を吐く。


「ならば、北の地も難しいか……」


 ロスティーがぽつりと呟くのに、頭を振る。


「北の地でも生育する種もあります。その辺りは今後の手の入れ方次第かと思いますが、増粒数が違うので、麦よりもやり甲斐はあると考えます」


 持ち込んだ米は、北国産だが、この世界に適応されてそういう気質がどう変化したのかは分からない。だが歴史的背景があるのは確かだが、最終的に北国で米が作られた事実は健在だ。


「増粒数か……。同じ土地面積で多くの作物が得られるのであれば、試す価値はあるな」


 ロスティーの目の奥の光は、苦労している北国の人々を思ってなのだろう。


「北に関しては、まずは土地の力を取り戻す事から試されればと思います。長年の疲弊が土地にも積もっておりますでしょうから」


 私の言葉に、ロスティーが長い息を吐きながら、ソファーに沈む。


「急いても益は無いか……」


「はい。今は全体的に改善を推進するのが先決かと思います」


 私の言葉に、テラクスタも、若干しょんぼりと肩を落とす。


「と言う事は、我が領地もか……」


「色々お聞きしている限り、大分無理をなさっていますから。面積当たりの収穫量を伸ばして、土地を余らせてからの方が良いでしょう」


 パニアシモがいる限り、土地を元に戻すのはそこまで難しい話ではない。そこが地球とは違う。


「しかし、苦労して切り開いた土地だからな。反発はあろうに……」


 尚もきりりと噛み締めるテラクスタの様子に、私はぱんぱんと手を叩く。その合図で、大皿が一枚、部屋の中に運ばれてくる。


「未来に喜びがあると分かっていれば、忍従の日々もまた楽しめましょう。今朝獲れたものを竜の皆さんに運んでもらいました」


 皿の上には、色とりどりの美しい造作の刺身や飾りが並ぶ。一片一片の紅白のコントラストが美しい。感嘆の声を前に、そっと艶やかな白身を一枚、箸で摘まむ。


「醤油に浸けてお召し上がり下さい」


 はむと口に含んだ瞬間、旬を迎え始めた石鯛の軽い脂の甘みと醤油の香ばしさがこれでもかと、唾液を出させる。噛んだ瞬間の、ぷりっとした歯応え。噛めば噛むほど迸る旨味に、自然と顔が綻ぶ。最後に磨き上げられた日本酒をくいっと傾けると、爽やかな甘みに全てが洗い流されて、次の一枚を自然と手が欲してしまう。


 同じように食べて、飲んだ、皆が表情を一新させる。


「これは……。食べるというより、一連の歌劇を見るかのような……」


 テラクスタの言葉に、ノーウェがにやにやと笑う。


「兄ぃは相変わらずロマンチストだね。でも、そう。これは新鮮な体験だ。ただ切った魚に調味料をつけて食べて、酒を飲む……」


「それだけが、芸術として昇華されるか。見事だな……」


 ノーウェの言葉を継ぎ、ロスティーが深い満足の息を漏らす。


「この先が見えれば、苦労もまた楽しいか……。まずは漁獲量を上げなければならないが、その前に……」


 そう言って、テラクスタがそっと一枚の書類を渡してくる。ふむって、船の譲渡証明書……出来たのか!! 顔を上げると、テラクスタがはにかむようにやや目じりを下げる。


「要件ではかなり巨大だったのでな。時間がかかって済まぬ。やっとの完成だ」


 その言葉に、心が騒ぐ。竜達が来たと言う事で、甲板の拡大をお願いしたのだが、それが叶ったか。空母……竜母……はレデリーサを思い出しちゃう。竜の巣……。竜巣艦とでも名付けようかな。これで人魚さんも態々港に戻らずに魚を獲る事が出来る。


「初めにもらった要件書で、二番艦、三番艦までが建造中だ。漁師達の評判も良い。ありがとう」


 テラクスタの言葉に、私も謝意を示す。


「人魚さん達も喜びます」


 私の上機嫌に、若干ノーウェが面白くなさそうな顔をする。


「ちぇ。兄ぃもか。先をこされちゃったね」


 そう言って、差し出してきた箱にはノーウェの紋章があしらわれている。期待に胸が膨らんでいるノーウェの横顔を見ながら、箱を開けると、そこには立派な毛皮のマントが入っていた。


「ある程度は片付いたからね。殊勲者にお礼と言う訳だ」


 ふわりと広げると、全く継ぎの無い一枚皮のマント。これ、ダイアウルフでも最上級だ……。その値段にくらくらしそうになる。


「お仲間の分も積んできたから。東に行くんでしょ? 箔は大事だよ?」


 ノーウェの言葉に、ありがたい思いで胸がいっぱいになる。


「はい、ありがとうございます……」


 そんな温かい雰囲気のまま、小さな宴会は宵を過ぎ、深夜まで続いた。

 米に関しては、ノーウェが高笑いしながら作るのを宣言していたので、パニアシモに頼んでみよう。やっぱり、先に田の用意までしているんだから侮れないな、全く。

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