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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第753話 収穫祭1日目 赤いあいつ

「うぉ……。昇るのかい!? 何かと思ったけど……」


「今日はロスティー様達をお迎えしていますので。あまり動かれると、動揺しますので、お静かに」


「わ……分かった」


 水車動力のエレベーターに関しては、デパートの裏スペースにしか設営していないので、実際にロスティー達が乗るのは初めてだ。設計では見せたが、物を運ぶ物という認識だったのだろう。昔のエレベーターのように、柵を閉める形なので、上下の動きは見て分かる。ただ、慣れていない人がそれを見ると不安だろうなとは思う。ロスティーとノーウェが顔を引きつらせながら佇んでいるのは中々見る機会が無い光景だ。積載重量が三百キロ程度しかないので、人間だと四、五人しか乗れないのが玉に瑕ではある。


「ふむ……。楽ではあるが、戻りは歩くとしよう……」


 エレベーターから降りたロスティーの開口一番が拒否だったのはちょっと切ない。大丈夫と分かっていても、三階分の高さを釣り上げられるのは敵わないらしい。少し待っていると、リズがペルティア達を連れて、そしてアンジェとテスラ、それにタロとヒメが降りてくる。


『ふぉぉ、ゆらゆらなの!!』


『しょうてん?』


 二匹とも、初めての挙動が新鮮だったのか、ぱたこんぱたこんとしっぽを振りながら、エレベーターが降りていくのを眺めている。


「ふふふ。面白いわ……。こんな高さまであっという間なのね」


 肝の据わりようではペルティアの方に軍配が上がるらしい。わいわいと話をしながら、いつもの洋食店に入る。ここにも色々降ろしているので、店員さんに手を振ると、こくりと頷きが返る。


「やはり繁盛しているんだね」


 ノーウェが店内を見渡し、そっと囁く。部外者は歓楽街へと言っても、商家の人間などで接待をするケースはあるのだろう。どこの店内もそこそこに賑わっていた。


「日頃は政務の人間が主ですが、収穫祭の間は商家の要職も来られるのでしょうね。昼時は少し外れていますし、どこも接待ばかりのようです」


 私がそう告げると、ロスティーとノーウェがこくりと頷く。


「で、あろう。見た顔がおるようだしな。どこも『リザティア』の富には興味があると見える」


「なるべく大袈裟にならないように調整はしているけど、商業関係は利に敏いから無駄みたいだね。まぁ、貴族や他国の人間がちょっかいを出してこないなら、問題無いかな」


 そんな話をしていると、ラディアのツッコミが入る。


「折角の食事というのに、これだから殿方は」


 ラディアの言葉に苦笑を浮かべるノーウェ。思ったよりも尻に敷かれるタイプなのかなと思ったが、ペルティアが興味深そうに眼下の景色を眺めているが故だったのだろう。


「大通りは中央を除いて開放していますから。日頃はあの石畳よりは馬車専用です」


 窓から指さし説明をすると、ほぅっとため息交じりにこくりとペルティアが頷く。


「本当に盛況ね。新しい町だからかしら、若々しい雰囲気が溢れているわ。ふふ、ロスティスカの静かな雰囲気は好きだけど、ここの雰囲気も楽しいわね」


 いつもの雰囲気に比べるとはしゃいでると言っても良いような様子に、ロスティー達も目を細める。和やかな雰囲気のまま最近の話題を聞いていると、ふわりと優しい香りが流れてくる。


「お待たせ致しました」


 そう告げると、シェフが態々皿を持ってきてくれている。


「最近開発されましたソースを使って仕上げましたパスタです。お気に召して頂ければ嬉しく思います」


 皿の上には真っ赤に和えられたパスタの間からちょこりと玉ねぎと厚切りのベーコンが覗いている。上にはほかほかと湯気を漂わせる黄色がでーんと鎮座している。ナポリタンのプレーンオムレツ乗せという、もう子供が見たら大喜びの一品だ。にこりと微笑みかけてみると、ひたりと引き攣った顔のノーウェがいた。


「これは……辛いんじゃないのかい?」


 どうも赤色で唐辛子を想像したのか、眉根に皺が寄っている。


「いえ、唐辛子ではありません。ダブティアの方からトマトという植物を輸入したので。それを使ったソースです」


 何種類かのトマトがあったので、色々混ぜてケチャップを作ってみた。元々砂糖の研ぎが甘かったので雑になるかと思っていたが、逆に深みのある味わいになってくれて良かった。ここのシェフに味見してもらったところ太鼓判をもらったので、ナポリタンのレシピを渡して色々研究してもらった結果がこれである。ついでに渡したプレーンオムレツと合体させるとは思っていなかったので、新鮮ではあった。


「あらあら、食わず嫌いは変わらないのね……」


 ペルティアが声を上げると、慌ててフォークを取るノーウェ。貴族としての姿は完璧だけど、やはりお母さんには敵わないかと心の中で微笑んでおく。


「では、食べましょうか」


 私がそういうと、シェフがナイフを取り出し、プレーンオムレツを真ん中から割ってくれる。どろりと半熟の卵液が皿に広がっていくのを見ると、わくわくとする。この世界だと、スクランブルエッグか茹で卵か、かちかちのオムレツしかないのでインパクトは大きかったようだ。


「ふむ……。生と言う訳ではないのか。茹でた時に中が生のものを食べる事はあるが……」


 そんな事を言いながら、ロスティーがフォークで掬い、はくと頬張る。


「ん……。甘いな。ほのかな酸味も感じる。ふむ、これは面白い……」


 ロスティーの言葉に半信半疑ながらノーウェも卵多めの部分を掬って食べ始める。


「うわ……。本当に甘い。それにこの卵が美味しい。柔らかくて、瑞々しい」


 その言葉に引かれたのか、他の皆も取り分けられた皿にフォークを伸ばし始める。私もくるりと巻いて、口に放り込む。日本で売っていた市販のケチャップに比べれば、粘度が低くさらりとしているし、甘みも穏やかだ。ただその分トマトの酸味と玉ねぎの甘みが強く前に出ている。香辛料達の香りも鮮やかで、くっきりした輪郭を感じる。ケチャップソースというより、それ自体が一つの料理のように感じる。勿論オムレツも豊かなドレープを感じさせるように襞々とした舌触りが卵液をしっとりつるりと纏い、官能的だ。噛んだ瞬間卵の甘みと僅かな塩気が混然となり、トマトの酸味を包み込む。思った以上に相性が良いなぁと、勝手に頬が綻んでしまう。

 食べ始めてみると、相性が良かったのか、ノーウェも優雅ながらいそいそと食べ進める。女性陣にも優しい味が受けたのか、好評だった。ちなみに、テーブルの下を覗くと骨付きの牛すね肉を貰った二匹がバキバキと美味しそうに食べていた。


「ふぅ。一瞬どうしようかと思ったけど、美味しかった。しかし、こんな野菜があったとは……」


「ダブティアの方では、薬として使われているようです。乾燥させて、煎じて飲むのが一般みたいですね」


 ノーウェの言葉に頷きながら、ロスティーが口を開く。


「酢とは違う酸味が面白いな。酸っぱさを感じる野菜はあれど、これと似た物は知らぬな……。しかし、『リザティア』で栽培される植物となると北では難しいか……」


「いえ。元々、山間部の冷涼かつ荒れた地で育つ植物です。『リザティア』で育てるのは結構苦労しました。元々土が良すぎるというのもあるのでしょうが、栄養過多の症状が出てしまって。中々に難儀しました」


 そう告げると、ロスティーが目を丸くする。


「ならば?」


「はい。種をお分けします。栽培法は書面を確認下さい」


 そう告げると、ペルティアと向き合い、嬉しそうに微笑む。いつか北の地で真っ赤なトマトを頬張れれば嬉しいなと密やかに期待する事にした。ロスティスカのシーが食べられるかもしれないなと、レシピを賢明に頭の中から掘り起こしてみた。

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