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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第738話 そろそろ秋が始まりそう

 契約書を交わして最後の握手を離したのは、昼ご飯の時間はとっくに過ぎた後だった。にこやかに見送る私の横で、くぅと可愛らしい音が鳴る。


「ごめんね、付き合わせて」


 少しだけ恥ずかしそうに頬を染めたリズが首を振る。


「ううん。でも、長かったね」


「初めの時間が無かったら、食べてからという話になっていたんだけどね。その辺を見越してあの時間帯を設定していた筈だから、やっぱりルーマント氏の暴走なんだろうね」


 そう告げて、食堂の方に向かう。


「よく分からない時間だったね」


「人間慌てると何をするか分からないよね。でも、良かった」


「ん? 何が?」


「ゲールデンさんは海水塩の製造、流通を初めから許可するって言ってたけど、そんな事は無いよ。何らかの対価を求める話になるはずだったと思う」


 食堂の席に座り、軽食を侍女にお願いする。


「対価ってどんな?」


「それは分からない。まぁ、念のために製造法を共有しておきましょう。製造はしませんから。辺りからなし崩しにというのはあり得るかも」


 やらないと言っていても、自分ではない人間が勝手にやった場合、是か非だけでは判断がつかない。組織が大きければそういう手も使えるだろう。


「じゃあ、なぜ?」


「ルーマント氏のフォローだと思う。普通、あんな事したらそれなりに痛い目をみちゃうだろうしね。ギルドの威容に負ける相手なら何も考えないで良いだろうけど、嫌味を返した時点でこちらの腹は読んでいたから、あぁいう対応になったのだと思う」


 そう返しながら、侍従に外で待機しているレイ達を持ち場に返すようお願いする。


「何か荒事があった場合に備えてレイ達を伏兵にしていたのもばれたのかな。そこまでは判断出来ないけど、海千山千相手に商売をしている人が、初心者相手に譲歩するくらいだから、結構大きなチョンボだったんだろうね。それでも身内が可愛いと思う相手なら、商売をしても悪い結果にならないと思う。だから、良い取引だったと思う」


 領の方針は定めているので、その利は理解している。ただ、それを商売の場で生身の相手に取引し合う部分では経験が圧倒的に足りない。そんな相手に歴戦の兵が譲るんだから、この世界でも大きなトラブルだったのだろう。日本で仕事していると偶にあった話なので、気にならなかったけど、後でカビアに聞いてみよう。


 そんな感じで、昼をかなり過ぎたため、夕ご飯に影響が出ないように軽めの消化に良い物を食べて、改めて執務室に向かった。


「そんな事が……。そうですね、今回の件では言外ではありますが脅しを使っているので。もし立証出来るだけの情報を引き出していた場合は危なかったかもしれません」


 根回しのお礼が終わったティアナとカビアが帰ってきたので、顛末を伝えてみたところ、カビアが難しそうに呟く。


「リーダーは変わっていると理解すべきね。領主の自負は領民を支えるという意識の表れでもあるわ。それを虚偽で汚そうとするならば、それなりの報いを受けるわ」


 ティアナも同意見と。ふーん、ルーマント君は本当は危なかったのか。まぁ、これで慎重になってくれれば良いかなとは思う。別に私は誰かのミスで棚からぼたもちが欲しいのではなく、末永く誠実に良い関係を築きたいだけだ。


「そろそろ台風の対応は完了かな」


「はい、そちらは。領軍に対しての慰安金も出しましたし、今晩は歓楽街の方が忙しくなるかと思います」


「レイにも感謝だね。どちらにせよ台風はどんどん来るだろうから、防災教育の方を進めないとまた同じ事になりかねない。明日から学校が始まるけど、チャットにその辺りも頼んでおく方が良いかな」


 そう明日からは九月が始まるので、新学期の開始だ。学校の方も出来上がり、先生達も決まった。チャットは理事長として現在奮闘中となる。


「九月中は収穫もあるし、収穫祭もやらないと駄目だけど、出来れば十月にはダブティアまで足を運びたい」


 先程の条件にプラスして、西部管轄区局東方面の地図、要はダブティアの一部の簡易な地図をゲット出来た。このレベルでも商家として足を運んで自分で作らないと手に入らないので、助かった。これで、ダブティアに向かう算段が付いた。


「本格的に交易ですか?」


 カビアの言葉に少しだけの苦笑を返す。


「まだそこまでは焦っていないかな。今でも付き合いはあるしね。実際に規模を拡大するなら、その前にインフラを整備しないと、ボトルネックになっちゃう」


 出来ればダブティアまでのローマ街道を引きたい。少なくとも将来ダブティアと敵対したとしても『リザティア』が緩衝する限りはワラニカに大きな影響はない。それだったら、交易の足を速めるローマ街道化の方が悲願だ。


「その辺りの予算をどうするかをまずは向こうと話し合いたいかな。それにユチェニカ伯爵領より東を知らないから、見聞したいというのもあるしね」


 そんな感じでなし崩しに、皆で訪問する計画を立てていると、館ががやがやと騒がしくなる。工場組が帰ってきたらしいので本日の仕事は終わりと言う事で部屋に戻る。たっぷりと遊んできたタロとヒメはそれでもまだ遊び足りないのか、部屋の中でアーシーネと追いかけっこをしていたが、こちらを確認すると標的を変えて向かってくる。


「本日も変わらない一日だったね」


 リズに告げて微笑んだ瞬間、でーんとタックルされた。

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