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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第655話 ダンジョンアタック 戦国最強のインスタント食材

「チャット、これって言ってたのは何を指すの?」


 呟きに対して聞いてみる。


「はい、話を聞いたエルフの人のゆうには、現れた魔物を倒すと、煙のように消えるゆう話でした。実際に見て、やっと納得しましたが……。気持ち悪かったので、そのまま帰ったそうです」


 個人的には、ゲームの感覚だと死体が消えるのはそんなに珍しい事ではないので、気にはなるが、神様が何かしているのかなと思ったが。周りの皆は大分気持ち悪がっている。


「フィア、怪我は無さそうだけど、攻撃を受けたところは無い?」


「ん? 僕? あー、肩口で刃を逸らせたから……。うん、ここ。革の部分が少し削げてる」


「と言う事は、幻影という訳ではないね。しかし、死ねば姿を消す……。血が噴出していたけど、血痕は?」


 怪我は現実で、治る事は無い……か。


「欠片も残って御座らん。偶々見ておったが、消える時に一緒に消えたようで御座るな」


 丁度見ていたリナが教えてくれる。


「なるほど。関係する全ては消えるか……。少し試してみよう」


 そう言って、指をナイフで軽く切り、血を壁に擦り付ける。暫く待っていたが、血痕はそのままだった。


「ふむ……。私達が何かしたら、そのまま残るのかな……。後は、さっきのゴブリンだけど、唐突に現れたよね?」


 聞くと、『警戒』が上がっている面々はこくこくと激しく頷く。私も驚いた。あれはかなりのインパクトだった。今まで徐々に近づいてくるのを淡く感じながらはっきりした認識に変わるものが、いきなり近くに現れたのだ。自分自身がおかしくなったのかと思った。『隠身』を破った時とも違う。あれは若干の違和感が増幅されていって、集中を強めると発見出来る。今回とは全く別物だ。


「このまま先に行くのは怖いね……。後退した場合、ここが安全なのかどうか、少し確認しよう。隅の方で食事を作るから斥候の皆は交代で監視をして欲しい」


 そう告げて、鍋の準備を進める。薪の都合は付かないので、練習していた火魔術で対処する。やっと備長炭辺りを想定して、千三百度程度の温度で維持すると、一時間程度は保持してくれるのが分かった。そうなると俄然使い勝手が良くなる。ただ、薪を集めるのも訓練だから、外では使わないけど。

 鍋に水を生み、食料を入れている箱の縄を解き、昆布を適度な大きさに包丁で切って、入れてから火にかける。解いた縄の一部を切り取り、箱の蓋の上のやや厚めの板をまな板にさくりさくりと切っていく。箱の中には色とりどりの乾燥した野菜の干した物が入っているので、バランス良く取り分けてふつふつと泡立ち始めたところで、縄の切れ端と、野菜、それに油かすを投入する。取り出した昆布は細かく刻んで、再度鍋に投入する。通常出汁を取った後の昆布は切り干し大根と一緒に炊いたり、炒め物に入れたりするけど、保存食のオンパレードなので、食べ切ってしまおうかと。ちなみに縄に関しては、芋がら縄だ。『フィア』の近くにあった里芋の芋茎(ずいき)を送ってもらって、一度湯掻いて天日干しにしたものを出汁の無い味噌汁で湯掻き、改めて天日干しにして、縄に結った。と言う訳で、インスタントイノシシ汁もどきの完成だろうか。周囲に味噌の美味しそうな香りが漂い始める。


「本当に、食べる事に妥協しないわね……リーダーは……」


 若干呆れ顔で、ティアナが言う。


「前に言った通り、食べる事だけが楽しみだしね。何もなくても美味しい物が食べられたら、幸せだよね」


 そんな事を言いながら、芋茎が水分を吸って、味噌を吐き出し、柔らかくなった辺りで、皆を集合させる。携帯食とイノシシ汁……んー、トン汁もどきだが、味気ない食事を想像していた面々からかなりの喜びの声が上がる。カップにトン汁もどきを入れて、携帯食を配り、昼ご飯が始まる。


「ん、この具材、初めて食べたけど、ザクザクした感じが超面白い。噛むと濃いお味噌の味が出てくるし、なんだか楽しい。くにゅくにゅも入っているし」


 フィアが嬉しそうに油かすを頬張っている。芋茎の食感も大丈夫っぽいか。


「このお野菜ですが、そのまま料理するよりも、なんだか、味が濃いと感じます。お味噌と一緒になって美味しいです……」


 ロッサが、根菜類の日干しを口に入れて、幸せそうな表情を浮かべる。やはり天日に干して風に晒す事によって、若干香りは飛ぶけど、旨味成分は凝縮されるし、日光に当たって、甘みと風味が増す。


「甘いで御座るな。野菜はそこまで好きと言う訳では無かったで御座るが、生の野菜とも違った食感が面白く、甘みも強いので、量もいけそうで御座るな」


 リナが言うけど、食料は結構緻密な計算で持ってきているし、量もきちんと計って作っている。いっぱい食べないでと思いながら、私も食べる。芋がら縄なんて戦国時代の食べ物と思っていたけど、出汁と分離する事を考えれば、おつまみとかにも出来そうなので、これはこれで便利だなと。いつまでも噛み噛みしながら日本酒を傾けたいような逸品になっていた。


「思った以上に体が冷えていたようで、温まります。リーダーの慧眼でしょうね」


 ロットがほふっと湯気を吐き出しながら言う。チャットも言っていたが、基本潜るタイプのダンジョンが多いらしいので、冷えそうな気はしていた。ただ、このダンジョンに関しては、エアコンが効き過ぎている感じで、サーバールームで延々いると風邪を引きそうになる、あの温度だ。二十度前後くらいなのだろう。気付かない間に体の動きを制限させる温度だ。温まるのは悪くない。


 食後は洗ったカップにハーブティーを注いで、皆に渡していく。


「ほんま、優雅なダンジョン攻略ですわ……。ダンジョンの中におるゆうんを忘れてまいそうです」


 チャットが苦笑を浮かべると、皆が温かい笑いに包まれる。結局、用意と昼ご飯、それに休憩で二時間ほど経過したが、ゴブリンが再度現れる兆候は無い。少なくとも、何か手に負えない相手がいて戻ってきても挟撃になる可能性は低いだろうと判断する。ダンジョンの外に出た場合どうなるかというのはあったが、まずは次の場所で戦ってみて、一回ここまで戻ろうという話で、先に進む事にした。

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