第621話 子供って遊んでいる最中に唐突にぱたりと寝入る事ありますよね
新シリーズを連載始めました。
二度目の地球で街づくり~開拓者はお爺ちゃん~
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絶妙な緩急をつけながらタロとヒメがててーっと小走りに走っては、くるりと振り返り、最後の子供が追ってくるのを確認している。こけない程度に、捕まらない程度に適度な距離と興味を引くような間合いを維持し、延々と部屋の中で眠っている子供と言いう障害物を避けながら、追いかけっこをしている。子供が、ふらふらとしたかなと思ったら、膝から崩れ落ち、ぱたりとうつ伏せに倒れる。近付くと、満ち足りた顔でスヤスヤと寝息をたてている。あらあらと言いながら管理の女性が布を持ってきて子供に被せる。
「今日はありがとうございました。子供達も寝入ってしまったので、このままお迎えが来るまで寝かしておきます」
家に帰ってから夜寝ないなんて事にならないと良いけどなと思いながら、上機嫌にハフハフしながら近づいてくる二匹を迎える。
『おいかけっこなの!! つかまらないの!! ぼくとひめすごいの!!』
『とうそう!!』
今日は沢山運動出来て余程嬉しかったのか、足元に体全体を擦り付けて喜びと興奮を表現している。がばっとタロを捕まえて、わしゃわしゃしてあげると、うきゃーと言う感じで、ひゃうんひゃうんと鳴きながら、喜ぶ。一頻り撫で終わると、お座りをして床をしっぽで掃除せんばかりにパタパタ振りながらお利口に待っていたヒメも捕まえてわしゃわしゃする。でれーんと垂れたナニかみたいになるまで撫で終わったら、首輪とリードを着ける。
「少し早めに出られそうだし、これだったら一度館に帰って、お風呂に入れてから、食事に出ても良さそうだね」
リズに語り掛けた食事という言葉に反応したのか、二匹がキラキラした目を向けてくる。たっぷり運動したから、お腹空いたのかな。
『まま、りょうにでたの!!』
『びみ、きたい!!』
あー、保育所を出ていく時にそんな事を伝えたかな……。期待に適う物が夕飯だと良いけどと思いながら苦笑を浮かべ、リズと一緒に保育所を出る。てくてくと先導する二匹に引かれながら、領主館を目指す。今日は何往復するんだか……。
「大仕事って言っていたけど、何かあったの?」
リズが、ヒメがリードを引くのを軽く抑えながら、問うてくる。
「前に少し話をした、焼き印みたいな形で紙に文字を写す機械が出来たよ。まだインクの方が仕上がっていないけど、今後は同じような書類や書物なんかももう少し大量に作る事が出来るようになるかな」
「へぇ……。面白そう。書物って、法律とかしかないから、どんな物を作るのか、ちょっと楽しみ」
リズが、少しだけワクワクした顔で、呟く。
「んー。興味を引くのが肝心だから、学校用の教科書が終わったら、劇の原作とかを本にまとめても良いかなって思っている。中々劇場まで足を運ぶのも大変だと思うから、話だけでも楽しんでもらえたらという思いもあるかな。逆に本を読んで興味を持って劇場に向かってくれるなら、尚良いかな」
「あ、それは、嬉しいかも。私も読みたい」
「そうだね。前に話をした英雄物語みたいなのを幾つかまとめて、本にしたら、言葉の勉強にもなるんじゃないかなと思うよ」
そう言うと、リズがぱぁっと明るい顔で、こくこくと頷く。
「それって、前のサルとか狼とかが出てくるお話?」
「そう、そんな感じ」
御伽草子みたいな感じで、短めにまとめて、さくっと読める物語というのも興味を引くかなと。それに慣れたら、長編の物語を出していっても良いだろう。
「うわぁ、楽しみ!!」
にこにこと浮かれたリズが、楽しそうにヒメと一緒にさーっと駆けていく。タロが歩きながら、くるりと振り向き、走らないのと、無垢な瞳で訴えかけてくる。しょうがないなと小走りにタロを追い抜くと、上機嫌でしっぽを振りながら、てーっと駆けだす。そんな感じで、領主館に着く頃には汗だくになってしまった。日が陰ってきている時間帯とはいえ、夏の最中に何をやっているのだか。
「んー。汗をかいたから、タロとヒメと一緒にお風呂に入っちゃおうか。リズもどう?」
「ん。じゃあ、ヒメは私が洗うね」
着替えを持って、浴場に向かう途中で出会った侍女に聞いてみると、仲間達もそろそろ訓練を終えて戻ってきそうだとの事だ。お風呂にお湯を入れておくと伝えたら、適当に時間を空けて入るように伝えてくれるそうだ。
洗い場にタライを二個並べて、お湯を満たす。タロもヒメももう担がなくても、自分からタライに入って顎を縁に乗せて、ぷかーっと弛緩する。その堂々とした態度がおかしくて少し笑いながら、もにゅもにゅとよだれ塗れの二匹を洗っていく。流石にご飯も食べていないし興奮しているから寝落ちは無いかなと思っていたが、案の定、優雅にタライの中でプカプカタロさんとプカプカヒメさん状態で、漂っている。
「本当にお風呂好きだよね。そう言えば、子供とか体温が高い温かい対象は、赤ちゃんの頃を思い出して幸せになるって言ってた」
そう告げると、リズが少しだけ複雑そうな表情を浮かべる。
「うん。喜んでくれるのは嬉しいけど、そういうお別れがあった事実もあるから、それは少しだけ切ないかな。でも、それで一緒にいられるんだから、悪い事ばかりじゃないのかな……」
「そうだね。今の二匹が幸せなら、まずはそれで良いかなと思うよ」
漂っていた二匹の脇の辺りと耳の付け根の辺りの体温を確認し、十分に温もったと判断して、ざぱりと引き上げる。布で拭って魔術で乾かし、脱衣所に水の皿を置いて、少し待ってもらう事にする。二匹とも、お風呂の後に起きているのが嬉しいのか、隅の方で興奮を冷ますのと、自分達の匂いを調整するためか、グルーミングをし始めたので、ささっと私達もお風呂を済ます事にする。お互いに洗いあって、湯船に浸かり、ぽへーっと溜息を吐く。
「何か、困った事でもあった?」
「具体的に困ってはいないけど、前王妃殿下の動きも読めないしね。カビアには王都の方にも諜報を増やすようにお願いはしたけど、結果が出るのは結構先だろうし。状況が見えない状態で、守勢に入るのはあまり好きではないんだ」
「そっか……。でも、お爺様の屋敷での襲撃以外では、特に動きってないんだよね?」
「うん。『リザティア』の方でも、歓楽街の方でも特別に変わった事は無いかな。『フィア』の方はまだ報告待ちだけど、あそこに手を出すなら、『リザティア』経由になるはずだしね」
「そうだよね……。でも、そうやって考えて疲弊するのなら、相手側としては何も苦労しなくても圧力をかけられて良いよね」
リズが、中空を見つめながら、ぼそりと呟く。ふーむ、疑心暗鬼で消耗していたら、それはそれで思うつぼか……。
「リズの言う通りかな。備えはするけど、とりあえずは考えないようにしておこうか。さて、あまり長湯をしても汗をかくし、そろそろ出ようか。皆も汗を流したいだろうし」
そう告げて、湯船を出て、熱めのお湯で埋めておく。
「さて、ネス達も喜んでくれたら良いね」
リズとニコニコと笑いあいながら、服を着替える。リズに二匹を頼んで厨房に寄って、食事をもらう。部屋に戻ると、箱の中でじっと大人しく待っている二匹。ことりとイノシシの肉を置くと、称賛の眼差しで見つめられる。
『やっぱりまますごいの……』
『おおものしゅりょう!!』
誤解で尊敬されるのは気が引けるけど、まぁ良いかと。食べ終わったら、大腿骨をプレゼントしたら、大喜びでしゃぐしゃぐと舐めたり、噛んで啜ったりしている。かみ砕くのは飽きてからだ。少し出ていくと二匹に告げると、散歩と聞いてくるので違うと答えておく。まだ、運動が足りないのか……。タロとヒメ、恐ろしい子……。
そんなこんなで準備も出来たので、歓楽街にリズと二人で向かう事にした。
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