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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第618話 三大発明の一つ

 食事を終えると、リズと一緒に部屋に戻ってタロとヒメを連れて、館を出る。二匹は上機嫌で先導するかのように先へ先へ進む。


『さんぽすきなの!! ちいさいの? ちいさいの?』


『ぎょうぼう!!』


 ヒメは私の何の知識を引っこ抜いたのだろう……。それだけ心待ちにしてたんだろうけど……。午前中はアンジェが散歩に連れていってくれているのに、タフだなと改めて思う。

 アンジェからは、歓楽街の方まで歩いているので、身が締まってきましたって言われたけど、皮肉じゃないよね……。嬉しそうだったし。将来、タロやヒメに子供が生まれて、ペールメントの一族と結婚させるならかなりの数になる。本人は侍女の仕事をしながら頑張ってくれているけど、ちょっと負担が大きくなりすぎるかな。ブリーダーという職業がある訳じゃないけど、猟犬として狩りにも同行出来るように躾けて猟師の人に提供するお仕事みたいな形できちんと独立させてあげた方が良いかな……。


 そんな事を考えながら、てくてくと工場まで歩く。運動不足気味なので私達にとっては良い運動だ。リズは訓練もあるから体型の維持には問題無いけど、私はちょっと運動不足気味なのでありがたい。工場の入り口で足を拭いて、保育所に向かう。処刑の影響も午前中でなくなったようで、昨日と同じく子供達が預けられている。タロとヒメの姿を見ると沸き立ち始める。リードと首輪を外してあげると、二匹がててーっと赤ちゃんの方に向かい、挨拶を始める。上機嫌でずりずりと接近し始める赤ちゃん達。見ていると、今までうつ伏せまでは出来て眺めていた赤ちゃんが、ずりずりと肘ずりを始めるようになっていた。余程二匹に接近したいのか……。それに仰向けでタロとヒメがくるのを待っていただけの子も、どんどんとうつ伏せを覚えてひっくり返ってじっと眺めるようになった。やはり、興味の対象が出来ると成長も早まるかなと。管理をしている女性がうつ伏せで足をばたばたさせている子の足を押さえると、前に進むを覚えたのか、足を設置してどんどん肘ずりにランクアップしている。筋力増加と動く事による血流の増加は脳の成長にも良い影響を与える。健康に育つのにタロとヒメが役に立ってくれるなら嬉しい。

 それに肘ずりの赤ちゃんが慣れなくて、こてんと転んでも泣かない。本当なら驚いて泣いてしまうような場面でも毅然と嬉しそうな顔を浮かべて、タロとヒメに接近しようとする。タロとヒメも匂いで嗅ぎ分けて一人一人にてくてくと近付いては、くんくんと嗅いで横に寄り添う。たまにお腹をぺしぺしされて身を捩ったりするが、そんな姿も赤ちゃんにとっては興奮の元らしく、声を上げて笑っている。

 もう少し大きな子供達はお馬さんごっこを狙っているのか、背後から近づくが、二匹の挨拶が先という態度に圧されて、一緒に挨拶に付いていきながら撫でている姿も微笑ましい。


 そんな中、私が立ち上がり工場を後にしようとすると、気付いたのか二匹が子供を引き連れて近づいてくる。


『どこかいくの?』


『狩りに行ってくるよ』


 仕事に行くと言っても分からなそうなので、狩りと伝えてみたら、二匹とも納得したのか、また赤ちゃんへの挨拶に戻る。


「リズ、後は任せても大丈夫?」


「うん。ヒロ、頑張って」


 笑顔で告げ合って、私は工場を後にする。そのままネスに会いに向かうと、なんだか脱力してうでーんとなったお弟子さん達とネスがのそのそと仕事をしている。珍しい、日頃あんなにきびきびと働いているのに。


「こんにちは、今、大丈夫ですか?」


「お? おぅ。つか、もらってた仕事は仕上がったが、きちぃぞ、あれ」


 そう告げながら、のそりと立ち上がり奥に案内してくれる。大きな作業室にでんと鎮座している木組みの装置。台座の上に被さるように蓋のようなものが付いており横のハンドルで蓋を締め付けて圧迫する形になっている。


「これは……。設計は描きましたが出来てみるとやはり大きいですね……」


「おいおい、頼むぜ、自分が思い描いたものだろ。ほれ、横の棚を見てみろ」


 ネスに告げられて、確認すると棚の中には細かく文字一つ一つに分かれた判子が奇麗に整理されて棚に刺さっている。フーア大陸共通語に関しては、ひらがなと同じく表音文字だ。ただ、ひらがなのように漢字を元に文字が開発された訳では無く、母音の周辺に子音を表現するマークをくっつけて一音を表現する。これに長音符や母音を小さく表現した物、句読点が合わさって文が作られる。この辺りは絶対に神様の入れ知恵だと思っている。後は零の概念だろうか。十進法なので一から九と零で表現していく。三桁カンマは文法上存在しないが、様式の方では採用しよう。


「高さの精度はどうですか?」


「言われたていたからな。ぎりぎりまで削った」


「素晴らしい。鋳造……ですか。型、大変でしたよね」


 そう言うと、うんざりした顔が返ってくる。


「細かいからな。目がしょぼしょぼしてくらぁ」


 そう言いながら苦笑する。私は棚からカチカチと鉄製の四角い判子を抜き取り、装置の方に向かう。


「試験はどうでした?」


「まともに見れるもんにはなってるはずだ」


「木工屋の方は何か言っていましたか?」


「いや、葡萄の絞り機の応用で出来るから、そこは楽だっつってた」


 そんな話をしながら、文を入れて長音符やスペースを間に挟みながらポスポスと判子を木組みに入れていく。開いてる空間はスペースで埋めて、装置の中央に嵌め込み、木型に革を被せた物にインクを付けて薄く伸ばしていく。蓋の方に紙をセットして、パタンと閉じて、ガラガラとテーブル部分を台座の内側に収納し、ハンドルをぐいっと引く。動かなくなる辺りで止めて戻し、再度テーブルを引き出し、蓋を開けると……。


「成功……ですね」


「どうしてもっつうから優先したが、これがどんな意味を持つんだ? 並べるのに時間がかかるのを考えれば、書いた方が早く()ぇか?」


 紙には『こんにちは、せかい』と連続して印刷されている。活版印刷の完成だ……。


「政務の方で、同じ様式を一日百枚近く使います。今後人が増えてくれば、その数はどんどん増えるでしょう。手書きだと、一日で書ける分量は決まっていますが、版下さえ作れば、インクと紙の続く限り量産出来ます」


「量産するなら、価値はあるか……」


「それに今までは、法律書等しか書物にはなっていなかったですが、今後はもう少し柔らかい物も作る事が出来ます」


「柔らかい物?」


 ネスが首を傾げる。


「口伝や羊皮紙で書き語り継がれている英雄物語を安価に手に入れられると考えれば、子供に渡したくなりませんか? また勉学の教科書なども量産が可能になります。教育のハードルが一気に下がりますね」


まぁ、前にリズに伝えた桃太郎改でも出版してみようかな。それを元に劇場で上演しても面白そうだ。


「学校……つってたか……。そこの教育に使うってぇ話か?」


「はい。子供達は広範な知識を書物として、皆が同等に手にして教育を受けます。今後の子供達は、同じレベルの知識を持った状態で社会に出てきます。ワクワクしませんか? 常識や道徳、法律知識、政務知識、算数、それに商工業の基礎知識も言葉に出来る物は継承可能です。ある程度分かった人材が入ってくる方が現場も楽だと思いますが」


「ふーむ。頭でっかちはあまり好きじゃ()ぇが、道具の名前くらいは憶えていて欲しいわな。そんだけ詰め込まれていれば、応用で考えるって頭もあるか……」


「はい。そういう未来をネスが作り上げた瞬間です。ありがとうございます」


 そういうと面映ゆそうな表情を浮かべる。


「そんな事をいわれてもなぁ。いわれた(もん)を作っただけだしな」


「実際に形にしてくれたのはネス達商工会の皆さんです。また、知識の応用は私が想像出来ない発明を生むかもしれないです。今後の基盤となる物を作り上げた事は称賛に価すると思います」


 微笑みかけると、ネスが苦笑交じりに微笑みを浮かべる。


「褒められるのは嬉しいな。はは、目をしょぼしょぼにした甲斐はあった訳か」


「そうですね。今後、この機械は国中に広まっていくでしょう。そうやって省力化された書物は知識を広げ続けます……。ただ、それだけの力を持った機械ですので、一旦はノーウェ子爵様経由でロスティー公爵閣下に利権を渡してしまった方が良いでしょうね。いらない妬みは買いたくないですし。手押しポンプの時と同じですが、よろしいですか?」


「おう、そこは好きにしたらいい。今後自分の子供が出来た時にそうやって勉強を教えてもらえるなら、職人冥利につきらぁな」


 ネスがにやりと人の良い笑みを浮かべる。しかし、世界の三大発明の一つか。偉大な、そう、今後の社会を揺るがす発明を形にしてくれたんだ……。


「今晩のご予定は、どうでしょう。もしよろしければ、お弟子さんや、木工屋さん、今回のこの機械に関わった方々全員、それにご家族の確認をしたいですが」


「ん? まぁ、母ちゃんも流石に食事の用意はまだだろうしな。どう言うこった」


「折角ですし、歓楽街のましな店で、ささやかながら祝賀会でもどうかと思いまして。ポケットマネーで処理出来る範疇ですけどね」


 ウィンクすると、周囲のお弟子さん達がタダ酒と叫び始める。気の早い人間は飛び出していっているので、他の職人や家族に伝えに行くのだろう。


「あーあ。収拾つか()ぇな……。でも良いのか? それほどなのか?」


「故郷では、三大発明なんて言われていました。世界を変える、そんな物ですからね」


 そう聞いたネスが瞑目し、かっと眼を開ける。


「よっし。お前ら、晩は領主様の奢りだ。きちっと知らせて、皆集まれ!! ただ、仕事終わりまではきちっと仕事しろよ!!」


 叫ぶと同時に、工房に怒号と歓声が飛び交う。はは、誇るべき物を開発したんだ。少しは羽目を外しても良いだろう。家族にも伝えてあげたい。皆が偉大な業績を残したんだって。さて、私は先に戻ってカビアに調整と、工房街の警備を諜報に頼むか。少しだけ楽しみに思いながら、一旦辞去して、今晩は改めて歓楽街に集合と相成った。

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