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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第617話 機会の平等

 ある程度の話がついたので、諜報の人達と一緒に歓楽街の宿に戻ってもらう。現状では、実行犯と言う事なのでまだ解放出来ない。ダブティアまで諜報と一緒にいってもらって帰ってきたら正式に領民として編入という流れだろう。


「しかし、よろしいのでしょうか?」


 猟師達が出ていった後の扉を眺めながらカビアが呟く。


「何が?」


「いえ。事情があったからといって、お咎めがないというのはどうなのかと思いまして」


 ふむ。そういう話になるか……。


「まず、私を暗殺しようとした罪を情状酌量として減刑した場合、どんな罰が正しいと思う?」


 カビアに問うてみる。


「何らかの罰金でしょうか?」


「うん、じゃあ、私の命って幾らなんだろうね。で、情状を酌量したとして、幾ら減らせば良いんだろう」


 そう問うと答えに詰まる。


「死刑って、法制上の怠慢なんだよ。罪に対して最上の罰という話だけど、そんな訳がない。死ねば済むだけなら命を惜しまなければどんな罪でも犯せるよね?」


 小首を傾げると、カビアが苦い顔になる。


「まぁ、確かに商家の人間に関しては金の方が命よりも重かったんだろうから死刑に処した。そもそも金儲けの為に人を殺す事を手段に出来る相手だしね。これもダブティア側で報復を考える相手を皆殺しにしてくれた部分も大きいよ。そうじゃなければ、死刑にした後が怖くて、領主が死刑になんて出来ない。盗賊とかに堕ちたような天涯孤独な人間なら楽だけどね。翻って、猟師の人達は借金を盾に意に染まぬ行為を強要されていた。だからこその情状酌量だしね」


 そう言うと、渋々とカビアが頷く。


「それに、仮に彼らが『リザティア』に入ってきても、猟師の間で……それだけじゃないかな、領民の間では領主を暗殺しようとした実行犯という見かたを払拭するのに大分時間がかかると思うよ。私の威光が強くなれば、逆に影のように過去の罪は暗さを際立てるだろうね。そんな中で信用を取り戻して、生活を作り上げていくには並大抵の努力では無理だよ。きっと子供の代にでもならない限りは払拭しきれないんじゃないかな」


 その言葉に、カビアが唖然とする。


「それでは、移ってくる意味が無いのでは?」


「意味はあるよ。このままだと、彼らは家族の中心を確実に失う。そこから生活を立て直すのはかなり難しい。まぁ、進んでも辛い、戻っても辛いと言う訳だ」


「……はい」


「それでも、機会はあげたい。努力して、信用を勝ち取って生活を安定させられるなら、良い事だと思うよ。きっと彼らもそんな安定した生活を捨てたいなんて思わないだろう。自分が努力に努力を重ねた結果だからね。だからこそ、この地で領民として受け入れられるのなら信用しても良い。それ以上に、間違いなく信用すべき存在になるはずだ」


「なるほど……」


「まぁ、その苦労が罰という事になるんじゃないのかな。家族の、大事な人の幸福の為に努力するしかないんだから。結局、罪を犯した人間に罰を与えるのって難しいものだよ。殺せば済むなんて簡単な話じゃないし、復讐の連鎖はどこかで断たないと、延々何かを皆殺しにし続ける羽目になっちゃう」


「それは……空しいですね」


「うん、空しい。だからこそ、機会なのかな。希望があれば、人はそれに縋る。どんなに大変だったとしても、眼前により良くなるであろう道筋があれば、邁進するものだよ。結局究極的な平等なんて存在しない。例えば、カビアは家宰だから他の人より頑張ってくれている。だからこそ優遇もする。これって不平等かな?」


「いえ、そうは思いません」


「うん、そうだよね。お金とか地位とかのリソースの上限は決まっている。それを何も考えずばらまいても何の意味もない。逆に罪を犯したから、機会を上手く掴めなかったからといって、そのまま人生が終わってしまうのであれば希望も無い。機会を平等に与えるというのは、そういう相手にもきちんと立ち直る道筋を提示してあげられる事だと思う。それで頑張って立ち直る事が出来るなら良し」


「出来なければ……?」


「その場合はその場合で考える。肩代わりした借金と見合って、かつ罪に相当する罰を与える形になるだろうね。どちらにせよ、腐っちゃう人は出るかもしれない。機会は与えるけど、それを行使する気が無い人間まで救うつもりはないよ」


 そう告げると、カビアがこくりと頷く。


「納得致しました」


「リズも今ので納得出来る?」


 後ろで聞いていたリズにも問うてみる。


「うん。悪い事をしたら何かの形で償うのは当たり前だと思う。でも、償ったなら、救われて良いはず。それに、ヒロが悲しまないで今後を考えられるなら良いと思うよ」


「良かった。見解に相違はなさそうだ。さて、後の対応はカビアに頼んでも良いかな?」


「畏まりました」


 背筋を伸ばし、頷くカビアの肩を優しく叩き、リズと一緒に広間を後にする。


「ふぅぅ、疲れた。賠償金って言っても、元々お金がないからこんな事態になっているんだし。労役を課したとしても、やる気のない人間が行う労働なんて、大して成果も上がらないしね」


「ふふ。ヒロが必要ない事を背負わないで済んだなら、それが一番だよ」


「ありがとう。さて、リズは工場に行くの?」


「うん、タロとヒメも待っていると思うから」


「そっか。私は先に商工会に顔を出してくるよ。頼んでいたのが出来たみたいだし」


「分かった。ご飯はどうする?」


「もう作ってくれていると思うから、食べてから出ようか」


「うん」


 頷くリズと一緒に、食堂に向かう。さて、開発の方はどんな結果になっているかな。これが出来るとかなり後が楽になるんだけど。そんな事を考えながら、リズと一緒に食堂の席に着いた。

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