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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第588話 式典前の憩い~式典前日の夜

 部屋に戻ってみたが、リズはまだ訓練のようだし、タロとヒメもペールメントと一緒なのだろう。ふむ久々に寂しい。折角お風呂もあるなら、グレイブの訓練でもしようかなとラフな格好で練兵室に向かう。訓練の基本方針は型を決めて、動きを模索して、模擬戦で使用感を確かめて、フィードバックした型を鍛錬していく。このPDCAサイクルを回し続ける。正解は無い。ただ、経験した全状況に対応出来るよう、適応能力を培っていくだけだ。。

 練兵室に入ると、むわっと湿った空気が流れ出す。皆が動いている方に手を振りながら入っていく。片隅で、ストレッチを行い、練兵室の中をくるくると走ってウォーミングアップをする。その後はグレイブの素振りを始める。体が温まった辺りで、模擬戦を繰り返していくが、やはり武器の扱いで言えば私はこの集団の一番下なのだろう。ロットに横薙ぎの一撃を振り切ってもしゃがみつつ短剣で上部斜めに弾かれて、そのまま接近されて胸元に短剣を突き付けられる。やはり牽制以上には使わない方が無難かと諦める。その後も夏が始まった暑い練兵室の中を熱気で一杯にしながら、練習を続けていく。テスラは片手剣と短剣、後は中型のラウンドシールドが主体になる。スタイルが似たフィアと延々打ち合っている。フィアが速度で攪乱しても一撃を入れようとした瞬間にラウンドシールドで受け流しそのままするりと内側に入り込んで剣を突く。まだまだ年季の差が出ているなとは思う。

 熱気で立ちくらむように感じてくると、窓からはほのかに赤みが差してくる。私は用意されているカップに気温より少し冷ための水を生み、皆に配る。後はタライに冷水を満たし、布を絞って渡すと、気持ち良さそうに拭い始める。


「さて、お風呂が出来たから、夕ご飯の前にお風呂には入れると思う。ただ、申し訳ないけど、ロスティー公爵閣下が先だけど良いかな?」


 そう聞くと、何を聞くかと言う顔で、頷き、皆が部屋に戻っていく。時間的にそろそろかとリズと一緒に部屋に戻ると、二匹がくてんと箱の中で伏せている。ちょっと疲れたのか、二匹共上機嫌な顔で眠っている。静かに下着と部屋着を持って、風呂の方に向かうと、丁度ロスティーとノーウェがこちらの部屋に向かっていた。訓練が終わったので、丁度良いという感じで呼びに来てくれたようだ。侍女か侍従を使えば良いのにと思ったが、こういう時に合理的なのは美徳なのだろう。


 裏庭の風呂場には扉と錠も付いており、内側からおろせる。まだ、脱衣用の棚は無いので、用意されていた籠に荷物を詰めて、風呂に向かう。風呂場の窓も取り付けてくれているので、大きな窓だけ開いて、風通しを良くしておく。浴槽にお湯を満たし、石鹸で頭と全身を洗い、湯船に浸かる。


「ふうむ……。やはり良いものだな……。屋敷で風呂に入れるとは思わなんだな」


 ロスティーが顔に湯をかけながら、呟く。


「うちは室内に作ったからね。やっぱり解放感は重要だよね」


 ノーウェも空を眺めながら、ぽけーっと呟く。


「この程度で喜んで頂き幸いです」


 そう答えると、二人がまた大爆笑となる。


「君は自分の能力を過小評価し過ぎだよ。この風呂の設備だけで、町を開発にするにあたっての初期拠点の設営、また、少し見方を変えれば、戦時中の建造物の構成も可能になる。戦術レベルで変わる話だからね。誇って良いよ」


 ノーウェがそっと囁き、背中をゆったりと壁に預ける。


 何とも贅沢な時間を過ごし、三人が上がったので、リズに頼んで女性陣が次に入る事になる。男性陣が入るまではお湯があるだろうし、一回抜いて、その後にまたお湯を足しておけば良いだろう。


 リズが戻ってきて、ロットがドルと一緒に向かったようだ。男性陣が終わって、少し休めば、夕ご飯かなと考えていると、起きだしたのか、タロとヒメが寄ってくる。


『まま、あそんだの!!たくさん!!』


『たろ、かっこういい!!ごはんくれる!!』


 タロは相変わらずでーんみたいな感じで飛びかかってくるが、ヒメは少しおしゃまな感じで大人しく近付いてくる。もう学習の効果が出たのかな。おいでとヒメに言うと、嬉しそうに駆け寄ってくる。まだ時間はあるので、ブラシをかけてあげると二匹共恍惚の表情でお腹を出してハウハウした後、箱に戻る。水はいるかと聞くと、今は良いらしい。そろそろ体のサイズも大きくならないだろうし、もう少し大きめの箱に取り換えても良いかなと。


 もう(しばら)く待つと、食事の準備が出来たと侍女が伝えてくるので、食堂に向かう。


 ペルティアを含めて女性陣もさっぱりした顔で上機嫌の中食事が進む。


「暖かいのは嬉しいし、温まる事が出来るのはもっと嬉しいわね。気持ちが良いし、皆ともお話が出来て本当に贅沢。アキヒロさん、ありがとうね……」


 本当に嬉しそうなペルティアから声をかけられ和やかな雰囲気の中、食事が進んだ。ちなみに、明日以降に関しては、皆訓練や資料集めに奔走するようだ。式典に参加するのは私とリズ、ティアナとカビアだけ。チャットは魔術学校の方に、他の皆は訓練と言う流れだ。


 明日も早いと言う事で、早めに食事を切り上げ、部屋に戻る。戻り際食堂に寄って、もらったイノシシ肉と骨を寝ぼけたタロとヒメにあげる。移動中は中々お風呂に浸けてあげられなかったし、ここに着いても後回しにしていた。若干、犬くちゃい。後、換毛の周期がずれた毛が抜けたりしているので、綺麗にしてあげたい。かなり大き目のタライを土魔術で生んで、窓際に設置してタロとヒメをお風呂に浸ける。もう体は殆ど大人なのに相変わらずリラックスしきってプカプカ浮くさまは可愛い。揉み洗っていると、眠そうな思考が流れてくる。


『うー、ねないの……ねな……いの……ね……の……』


 少しずつ瞼が下がって、最終的には落ちる。ざぱりと上げて布で拭いてブローする。ふわふわとした毛が空気を含んでモコモコになったら、終わり。箱に戻すと、でれーんと緊張感が無く眠っている。いつもなら無意識でも丸くなるのに、お疲れなのかな。ヒメも同じようにお風呂に浸けると、気持ち良さそうに揉まれた後に落ちる。ヒメの方はまだ少し理性が残っていたのか、タロに寄り添うように無意識に丸くなっていた。


 タライの後片付けを終えて、眠る準備をする。


「ふぅ……。ふふふ。もう、ヒロとどこかに行くと、絶対にお風呂が出来るから、何だか、おかしくて」


 ベッドの中でリズが可愛らしく笑う。


「折角だから、リズにはいつも綺麗でいて欲しいなと思うんだけど」


「ん。ありがと……」


「明日は朝一から本番だから。申し訳ないけど、ペルティア様の指示に従ってもらえるかな。理不尽な話がくるようなら全て私が決めているって伝えれば良い。何か嫌な事を言ってくる人もいるかもしれないけど、それは一旦我慢して。後でどうにかする」


「分かってる。気を遣わなくても大丈夫。村でもそう言うのはあったよ。ヒロはヒロの為すべき事をして。その為にここまで来たんでしょ?」


 優しい微笑みでリズがそっと呟いてくる。


「うん、ありがとう。私の可愛いお嫁さん。じゃあ、明日は頑張ろうか。晴れ舞台だよ」


「うん!!」


 そっとリズの頭を撫でて、額と頬、そして唇に口付ける。そのまま目を瞑り、明日の事を考える。リズの為、仲間の為、領民の為、頑張るしかない。覚悟を決めながら、ゆっくりと意識を闇の底に落としていった。

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