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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?

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第587話 式典前の憩い~規格建築の概念と露天風呂

 屋敷の裏庭の方に向かうと、木材の山を眺めるロスティーとノーウェの姿があった。


「もうお仕事の方はよろしいのですか?」


 問うとロスティーが頷く。


「根回しは済んでおる話なのでな。その辺りの調整をノーウェと行っておっただけだ。今、回覧を流しておるので、明日は問題無かろう」


 若干苦笑を浮かべながら、ロスティーが答える。根回しは重要だが、派閥の長ともなれば、細心の注意を払わなければならないか……。それでも意思統一が出来ているならありがたい。聞くと、カビアに情報は回してくれているようなので、後で咀嚼したものをもらえば良いか。


「して、図面の通り木工屋には頼んでみたが、これで良いのか?」


 木材の山を指すので、一つ一つ手に取って確かめてみるが、規格は統一してくれているし、申し分は無いか。


「この短時間でありがとうございます。大変だったかと思いますが……」


「構わぬ。元々この時期は木工屋の仕事も不足しておるでな。金を落とさねば、生活も潤わぬ。儂は職人では無いので、図面を見ても何も思わぬが、向こうは感銘を受けていたようだ。感謝を伝えてくれと言われたわ……」


 若干複雑そうな顔で首を傾げながらロスティーが答える。この世界、家の壁を作るにせよ、柱に釘打ちなので、冬場は隙間風が吹く。木組みの概念が生まれないのは、別に今の作り方でも家が建つからだ。『リザティア』を作る時に携わった大工には図面と合わせて技術を開示したが、王都全体の木工屋がその技術を学んだ訳でもない。また、創意工夫なんて、余裕が無ければ出来る物でも無い。現状維持が精一杯の状況で新しい物を作らせようとするだけ無駄だ。今後、少しでも王都の技術が前に進むのであれば、ありがたいな……。


 そんな事を思いながら、裏庭の一角を自由に使っても良い旨をもらう。また裏庭の方には川から通した下水用の流れがあるのでそれを利用する許可も得た。錫の比率を若干上げた青銅でH形の柱を鉱魔術で作り、念動力でハンマーを使って地面に刺して固定していく。骨組みが出来た段階で、作ってもらった板を溝に沿って嵌め込んでいく。板の大半は下部に凸が上部に凹を作ってもらっている。その木組みに合わせて、しっかりと固定しながら念動力でカコカコと木の壁を作っていく。壁の上部には最終的に溝を刻んだ鋼材を渡していく。床の部分は各H形の柱に出っ張りを作っているので、下水までの管路を土魔術で作った後に、その上から根太(ねだ)を渡していく。後は若干傾斜が付いた平らな木材をそれぞれの溝に合わせてはめ込んでいく。部屋構造になっている場所には土魔術で屋根部分も薄い石板で覆ってしまう。下水の管路に合わせて水門を作り、中に土魔術でユニットバス状に作れば完成、と。所用時間は十分程。ロスティーとノーウェはあんぐりと口を開けながら建物が出来上がる様を眺めていた。


 青銅の金と木々の白味のコントラストが美しい露天風呂の完成と言う事で。冬場になれば、軽石構造で作った石板を屋根に渡してもらえば、室内風呂としても使える。木材が腐ったとしても、嵌め込んであるだけなので、外して同じ規格の木材と交換すればメンテナンスは容易だ。鋼材ごとの組み合わせも溝にはめ込んであるだけなので、大人二人もいれば梯子を使ってすぽっと抜ける。後は交換したい板だけ変えてもらったらよい。湯気を逃がすための開口部は上部に設けているので、後で観音扉の窓板でも付けてもらえれば良いかなと。


「出来ました」


「んー。ちょっと待って。よく分からない。これ、建物だよね?」


 ノーウェが額を押さえながら問うてくる。


「そうと言えば、そうですね」


「二点聞きたいけど、この青銅みたいなものも生み出していたけどどうやってなのかな? 後、材料も勝手に動いて組み上がっていったけど……」


「はい。どちらも新しく覚えた魔術ですね」


 そう答えると、ノーウェが大きな溜息を吐く。ロスティーは呵々大笑している。


「気にしてもしょうがあるまい。我が孫はいつでもこうであっただろうに」


「しかし、もし木材を石材に替えれば、一人で建物を短時間で作り上げられます。野営の準備時間程度で建物一つを作り上げられるんですから……」


 ノーウェがとほほと言った顔で困っていたが、諦めたのかいつもの飄々とした顔に戻る。


「まぁ、確かに考えても意味が無いね。君は君だ。図面では風呂の設備と言う事だったけど、説明してもらえるかな?」


「分かりました」


 ドアを付ける予定の開口部から中に入り、石畳の場所で靴を脱ぐ。懐から永久火魔術を付与した魔道具を取り出し、照らしながらスロープを登り、中へ進む。開口部の中に入ると、四畳ほどのがらんとしたスペース。


「ここは脱衣所ですね。棚を壁に沿って設営してもらえれば、もう、そのまま使えます」


 そして中心の開口部を抜けると、空が広がる浴場が十畳ほど広がっている。浴槽は六畳ほどか。


「水魔術士での運用を前提に考えております。排水に関しては、そちらの水門を引き抜いてもらえれば、下水の方に流れ込む設計です」


 ロスティーとノーウェはぺたぺたと床や壁、浴槽を触りながら、苦笑を浮かべている。


「出来上がっていくのを見ていたけど、材料は交換可能なんだね?」


 ノーウェが壁を触りながら聞いてくる。


「はい。壁も床も今回の規格に合わせて作っています。水場なので腐る可能性はありますし、その場合は交換してもらえればと考えます。床板も番号の通りに合わせて作ってもらえば自然に傾斜が出来るようになっております。そこの端の溝から排水口に逃げる形ですね」


「外に置いてあった石材の利用用途は何なのかな?」


「壁の上をご覧下さい。溝が見えるかと思います。そこに沿って嵌めこんでもらえば屋根になります。冬場は密閉しての利用が可能です」


 ロスティーとノーウェが顔を見合わせて、改めて吹きだす。


「これは……風呂だな。笑ったわ。ノーウェよ、どう思う?」


「苦労して屋敷に作りましたが、この短時間で出来る様を見ると、唖然としますよ。はは、君はやっぱり面白い」


「ノーウェ様の屋敷に関しては、湯を沸かしての運用になりますので、あれが正しいかと考えます。ここは水魔術が使える事が前提となりますので」


 そう言うと、ロスティーが頷く。


「うむ。有事の際に井戸が枯れても問題が起こらぬよう、水魔術が使える者は抱えておる。煮炊きを手伝ってもらっておったが、風呂もか……。くく……はっははははは」


 ロスティーが大笑いしながら浴槽の中に腰かけて、背中の感触を確かめている。浴槽内は階段状に作っているので、腰かけるのも容易だ。


「んー。九月には魔術学校も卒業だし、水魔術士を抱えようかな……。ノーウェティスカの公衆浴場もこの設計で作っても良いかもしれないね。図面は流用しても良いかな?」


「はい。強度の問題もありますので、そこまで大きくは出来ないですし、木材の価格が上がるかと思います。このくらいの大きさが値段に見合う限界でしょう」


「はは。製造コストも含めてかい。ますます気に入った。一回で五、六人は余裕で入れるだろうし、回転すれば良いだけか。幾つか男女を分けて作れば、十分だね」


 ノーウェも公衆浴場のビジョンが見えたのか、にこやかに微笑む。


「水魔術士も軍には必須なので、中々こっちで抱える踏ん切りがつかなかったけど、公衆衛生も重要だからね。非常時の水源確保の意味も含めて抱えちゃおう」


 ノーウェがコツコツと金の柱を叩きながら言う。


「して、扉はどうする?」


「どうも扉のサイズの規格もあるようなので、それに合わせています。一般的な家庭用の扉を取り寄せてもらって付ければ完成ですね」


「そうか……。最初から最後まで規格か……。これならば量産も可能だな。露天の屋根は木材で代用も出来よう。領地にもこの規格を適用させる」


 ロスティーが楽しそうに微笑む。


「で、どうしようかな? 図面の使用権を買いたいんだけど」


「孫が祖父の庭に掘っ立て小屋を建てただけですよ? 子供の遊びにお金は取れないです」


 そう答えると、ぽかんとした顔で、再度見合わせて、二人が大爆笑する。


「そうか、児戯にも等しいか、この偉業が!!」


「また、借り一つだね。いや、愉快だ」


 二人が笑っているが、こちらにも目算はある。宿場町の建設をどうしようかなと考えていたが、このユニットハウスを基礎にモーテル化してしまおうかなと。トイレスペースさえ作ればメンテナンスも容易だし、運用は可能だろう。風呂も共同浴場を作れば良いだけだし。川に沿って道は作られているので、下水の設計も可能だ。その辺りの計画書を出して、さっさと人員を付けてもらおうかなと。これからますます水魔術士は重要性が増すだろう。


「扉に関しては、すぐに取り付けさせる。夕食までには出来るだろう。食事の前の風呂か、贅沢だな。共に入るとするか」


 ロスティーが嬉しそうに呟き、いそいそと屋敷に向かう。その背を追って、ノーウェと一緒に屋敷に戻る事にした。

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