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【一話完結】「段取りしか取り柄がない」と僕を班から追い出したクラスメイト、山で遭難しかけて「戻ってくれ」と泣きついてきた~手帳に全部書いてありますけど助けません~

「空気を悪くするから」と校外学習の班から追い出された蓮。

しかし彼が手帳に記録していたのは、天候、交通、混雑、圏外エリアまで想定した綿密な危機管理情報だった。

山中で大雨と土砂崩れが発生し、スマホ頼みだった元クラスメイトたちが立ち往生する中、蓮だけが冷静に脱出ルートを把握していて――。

「……え? 僕を、グループから外すって……?」


「そう言ったんだよ、蓮。お前、いつも暗い顔して手帳ばっか見てるし、話してても間が悪いだろ。明日の班別校外学習、お前がいると雰囲気悪くなるから外れてくれ」


 翔太が腕を組んで、鼻で笑った。隣で美咲も冷めた目を向けてくる。


「だよね〜。蓮くんってボソボソ喋るし、何考えてるか分かんないんだもん。しおりの地図も見づらいし、行程表も堅すぎるし。翔太がアプリで作ったやつのほうが全然いいって」


「でも……そのアプリ、電波が届かない場所だと——」


「言い訳すんな。段取りしか取り柄ないやつなんて、別に誰も困らないから」


「……分かった。じゃあ僕は一人で回るよ」


 僕は俯いたままメガネを直し、机の上にあった手帳を鞄にしまった。


 みんなが「ダサい」と笑うこの手帳には、過去の気象データや、バスの臨時ダイヤ、混雑する時間帯、電波の届かないエリアまで手書きでまとめてある。父の旅行会社を手伝ううちに、いつのまにか身についた習慣だった。


「じゃあな」


 背中に笑い声を聞きながら、僕は一人で教室を出た。


 ◇


 翌日、校外学習は山間部の歴史散策エリアで行われた。


 僕は事前のメモ通り、始発のロープウェイに乗って混雑を避け、順調に見て回っていた。


 正午を過ぎたころ、天気が急に崩れた。激しい雨と土砂崩れで、下山に使う予定の県道が通行止めになったのだ。山頂のターミナルは観光客と生徒でごった返し、ちょっとしたパニック状態になっていた。


「おい、スマホ繋がらねえぞ!」


 ターミナルの隅で、翔太が青い顔でスマホを振っていた。美咲も不安げに肩をすくめている。


 彼らが頼っていた行程表アプリはクラウド管理で、圏外では見られない。しかも翔太は、配られていた紙の地図を「荷物になる」と捨てていた。


「翔太、バス乗り場、人多すぎて乗れないよ!」


「大丈夫だ、別のルート探す。この先の旧道から下りれば——」


 焦った翔太は、封鎖の看板が立つ旧道に班員を連れて行こうとしていた。


「そっちは行かないほうがいい」


 声をかけると、翔太たちが振り返った。レインコート姿で手帳を開いた僕がそこに立っていた。


「蓮……!? なんでそんな落ち着いてんだよ」


「その道、雨で土が緩んで足場がなくなる。だから今朝のうちに、ロープウェイが止まったときの避難バスの時刻と乗り場を調べておいたんだ」


 手帳を見せると、時刻表と、電波が届かない場所でも使える簡単な地図が書き込まれていた。


「あと二十分もすれば雨は弱まる。そのタイミングで、ターミナルの裏にある旧登山道口に、林業用の送迎バスが一本だけ来る。一般には知られてないけど、昨日バス会社に直接聞いてメモしておいた」


 翔太は言葉を失っていた。


 僕が毎日手帳を見返していたのは、暗い性格だからじゃない。トラブルに備えて、下調べを済ませておきたかっただけだ。今まで班行動が問題なく進んでいたのは、僕がいたからだと、二人はようやく気づいたようだった。


「蓮くん、すごい……! お願い、助けて! 翔太の言うこと聞かなきゃよかった」


 美咲が僕の腕を掴もうとする。翔太も悔しそうに言った。


「す、すまん蓮……。俺が悪かった。頼む、戻って指示出してくれ」


 僕はそっと美咲の手を払って、メガネの位置を直した。


「遠慮します」


「え……?」


「このメモは、僕が自分のために用意したものなので。それに、『空気の読めない役立たず』が指示なんて出したら、また雰囲気悪くなりますよね」


「そんなこと言わないで! 見捨てるの!?」


「見捨ててはいません。旧登山道口の場所とバスの時間は、もう伝えました。あとは自分たちで考えて動いてください。——それじゃ」


「待てよ、蓮——!」


 二人を置いて、僕はメモ通りターミナルの裏へ向かった。


 後で聞いた話では、僕の教えた情報を頼りに乗り場へ向かった二人だったが、焦った翔太が順番待ちで揉め事を起こし、結局バスに乗り遅れたらしい。


 翌日、全員無事に戻ったものの、パニックの原因となった翔太と美咲は、クラスでも気まずい空気にさらされることになった。


 放課後、一人でノートをまとめていると、他の班の生徒たちが声をかけてくるようになった。


「蓮くん、次の遠足の計画、一緒に考えてくれない?」


「いいですよ。……話すの遅いかもしれないですけど」


 そう言って笑う僕の視界の端で、翔太と美咲が気まずそうに俯いていた。


 僕はもう、二人と目を合わせることはなかった。

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