【一話完結】「無能なメイド」とクビにされた私、実は王室直属の特級監察官でした~私を追い出した伯爵家は、その三時間後に終わります~
掃除もできない無能なメイドとして伯爵家を追い出されたミレイ。
しかし彼女の正体は、王室直属の特級監察官だった。
潜入先の伯爵と悪徳メイド長が彼女を解雇した瞬間、潜入捜査は終了
――三時間後、ミレイは逮捕状とともに屋敷へ戻る。
「今日限りでクビだ、ミレイ。うちの伯爵家に、掃除もろくにできない人間はいらない」
大広間にルークの声が響いた。隣には、メイド長のベリルがにやにやしながら立っている。
「坊っちゃまの仰る通りです。ミレイ、あなたが管理する銀食器はいつも曇っていますし、書斎の書類も整理できていません。この屋敷の恥です」
「……ベリルメイド長。銀食器が曇るのは、あなたが購入費を浮かせて安物の磨き粉を使っているからでは。書斎の書類が乱れるのも、あなたが帳簿の辻褄合わせのために持ち出しているからではありませんか」
「な……! 口答えする気? 坊っちゃま、聞きましたか」
ベリルが甲高い声で叫ぶと、ルークは眉をひそめた。
「見苦しいぞミレイ。長年うちに尽くしてきたベリルを侮辱するのか。今すぐ出て行け。給金はやらん、身一つでな」
「後悔しますよ、ルーク様。それにベリルメイド長……あなたの罪は、もう取り返しがつきません」
「はっ、負け犬の遠吠えね。さっさと消えなさい」
私――ミレイは一礼し、伯爵家を後にした。
◇
三時間後。
ルークの書斎に、武装した男たちが土足で踏み込んできた。
「な、何だお前たちは。私は王立財務省の伯爵だぞ」
「王室直属・財務監査局だ。ルーク伯爵、そしてメイド長のベリル。二人には脱税と公金横領の容疑がかかっている」
突きつけられた書類を見て、ルークの顔が青ざめる。ベリルは震え出した。
「馬鹿な。証拠なんてあるはずが……書類は全部、秘密の金庫に」
「その金庫なら、もう開けさせてもらった」
一人の女性が歩み出た。
着古したメイド服ではなく、金糸の刺繡が入った黒の監査官制服姿の私だった。
「ミ、ミレイ……? なぜそんな格好を」
私は懐から、王家の紋章が入った金色のID証を取り出した。
「私は王室直属の特級監察官、ミレイです。ルーク伯爵、あなたの屋敷で噂されていた不正経理と、助成金の横領を調べるため、メイドとして潜入していました」
「な……!」
「ベリルメイド長。あなたが安物にすり替えて差額を懐に入れた領収書、そして書斎から持ち出していた裏帳簿。写しと証拠は、今朝すでに本省へ送っています」
「嘘……そんな」
ベリルはその場に崩れ落ちた。ルークは汗をかきながら私に駆け寄ろうとする。
「待ってくれ、ミレイ……いや、監察官殿! 全部ベリルがやったことだ、私は知らなかった! 無能と言ったのは撤回する! メイド長でも伯爵夫人でも、好きな地位を用意する! だから見逃してくれ!」
「見苦しいですよ、ルーク元伯爵」
私は一歩下がり、彼を見た。
「あなたが私に言い渡した解雇通告。あれで潜入捜査は終了し、逮捕権を行使できるようになりました。皮肉なものです。私を追い出した瞬間から、この屋敷の終わりは決まっていた」
「頼む! 助けてくれ、私は伯爵だぞ」
「お断りします。無能な主人の尻拭いは、私の仕事ではありませんから」
私は指示を出した。
「二人を連れて行きなさい。財産の差し押さえと、裁判所への送致を」
「離せ! 離せーっ!」
「お許しください、監察官様!」
叫び声が、廊下に響いて消えていく。
誰もいなくなった屋敷を見渡し、私は一つ息をついた。
「さて、次の潜入先に向かうとしましょうか」
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