郁先幸多は苦虫を噛み潰す
突然かわいい女の子が「わたし、未来が断片的に読めるの」、なんてワクワクワードを言って近づいてきても即座に逃げることをお勧めする。
何故かって?
「(え?何あの二人?姉弟かしら?)ヒソヒソ」
「(それにしては顔つき違うような……)ヒソヒソ」
「(あの二人カップルかな?)ヒソヒソ」
「(違うんじゃない?あまりにも吊りあってなさ過ぎるもん)ヒソヒソ」
周囲からの奇異の目……。
断片がどうのこうのと釣られて、美人と二人きりでこんなおしゃれなカフェに来ると、周りからの好奇心というかなんというかの眼差しに少しいたたまれなくなってしまうからだ。
……どうしてこんな恐ろしいところに来てしまったんだろう、ほんとに。
そう思いながら僕はついさっきの出来事に思いを馳せた。
◇
「郁先くん、今日の放課後空いてるかしら?探し物について私のほうで進展があったのだけど……」
そう言って先に声をかけてきたのは笠音琴子のほうだった。
「別に用事はないですけど」
そう、今日も特別何かがあるわけでもないし、なんならとても暇をしていたのだ。
しかも先日目の前で実演された時詠みの実力に僕は不覚にも興奮してしまったのだ……。
あんなワクワク滅多に味わえないぞとそう思ったのだ。
もとより僕は省エネ主義ではある。が、ソレは日常生活においての話。すこしでも知的好奇心が刺激されようものなら快楽主義が前面に出てきてしまう。
「今回はどんなワクワクを見せてくれるんですか?」
期待に胸を膨らませて僕が尋ねると、笠音さんは少し胸を張って
「失くし物の断片のようなものが見えたのよ、それはねーーー」
それはーーー
◇
「(ちょっとあまりジロジロ見るのも悪いって)ヒソヒソ」
「(だって女の子の方めちゃくちゃ美人だから)ヒソヒソ」
「(分かる!正直抱かれたいもん)ヒソヒソ」
「(む!私というものがありながら何という……。今日はお仕置きだね)ヒソヒソ」
「(そっ、そんな〜)マンザラデモナイ」
なんだ、ただの百合だったか……。
……尊い。
って違う、僕は百合を見るためにここに来たわけじゃない。
「それで僕は、なしてこんな場違いなカフェに連れてこられたんですかね?」
「断片と関係があるからよ」
「その断片って笠音さんと僕とでこのカフェで茶でもしばきながらなんかしてたんですよね?」
「やめなさいそんな言葉遣い、この行為にはアフタヌーンティーという響きだけでオシャレになれる魔法の言葉があるの。それじゃお里が知れるわよ?」
「え?笠音さんもボケるの?」
やめてよ収集がつかなくなるよ……。
……そもそも何で僕が放課後に隣りの街のこんなおしゃれなカフェに来ているのか。もちろん琴子さんの時詠みの予見により、失くし物の手掛かりとしてこのカフェでアフタヌーンティーをしているのだが、今回はそれ以外にもう一つ企みがある。
それは、
「予見に映ったいろいろな断片的要素を二人で試してみて、見える未来にどんな変化や影響があるのかを検証するってことでいいんですよね?」
「ええ、そうよ」
そう、失くし物のの手がかりと聞いてここに案内されるとき、ついでに話していたことがある。未来が予見できるのなら、いっそ、そのとおりにやる場合とそうでない場合でどう変化するのかをいろいろと検証してみよう、と。
「それでここで何をするのが正解なんですか?」
僕はこれから起こるであろうことに一抹の不安を抱えながらも笠音さんに尋ねる。すると笠音さんは幸せそうな顔で店舗内の一角を指さした。
そこには
「トースト一斤つかった『まさに圧倒的多幸感!幸せバターのハニートースト』?」
「これをふたりでシェアハピします」
「え?本気ですか?」
「幸せはみんなで分けるものって道徳で習わなかったのかしら?」
「……ありがた迷惑という言葉を学んだことがあります」
「遠慮は無用よ」
僕はまだ若いはずの胃が急に重くなるのを感じた。
たぶん、今、鏡をみたら苦虫を噛み潰したような顔してるんだろうな……。
ハニートーストっていいですよね、響きが。




