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笠音琴子は時を詠む  作者: 痴的好奇心
1/3

郁先幸多は距離感のおかしい美人に出会う

少し不思議と書いて、SFな作品です。

 一人で過ごすことは、別に寂しいことじゃない。

 ――少なくとも、僕こと郁先幸多(いくさきこうた)はそう思っている。

 別に他人が嫌いなわけじゃないし、かといって苦手ってほどでもない。

 ただ、他人に対しての興味が絶望的に薄い。

 誰が誰と付き合っただの、誰が先生に怒られただの、そういう話題より、好きなアニメの続編決定とか、推しVTuberの配信予定とかの方がよほど気になる。そんな男子高校生が僕。

 他人に興味がないせいか、人の名前を覚えるのも壊滅的に下手だったりする。

 急に話しかけられてもその人の名前が出てこない。

 ……あれは普通に申し訳ない。

 だったら覚えろって話なんだけど、まあ……そこまでの熱量がない。

 そんな感じで、僕はあまり他人と関わらない。というか、一人の方が気楽でいい。

 ――そう、思っていた。


  ◇


 その日も、僕はいつものように夜の散歩をしていた。

 寝れない夜の深夜徘徊ほど、背徳感と高揚感を同時に味わえる娯楽は無いと、勝手に思っている。ちなみに次点は僅差で深夜の高カロリー飯だ。倍ビックマックLLセット1090円はその価値に見合うだけのものがある。

 うーん、やっぱり人類は罪深い。滅ぼさねば。知らんけど。

 そんなくだらないことを考えながら、街灯の明かりで途切れ途切れになった夜道を歩く。

 深夜の散歩コースはだいたい決まっている。

 家から駅まで歩いて、少しぶらついて、帰るだけ。一時間もかからない、ただの趣味。

 ……の、はずだった。

 家へ続く直線道路に入るため、角を曲がったその瞬間。

 そこに、女の人が立っていた。

「こんばんは、郁先くん」

 夜風に揺れる長い髪。

  街灯に照らされた顔はかなり整っていて、こんな時間の住宅街には似合わない。てか、夜間に出歩くにしては不用心だとすら思った。そんな女性が口を開く。

「あなたに、少し手伝ってほしいことがあるのだけど?」

「……え?」

 誰だこの人。

 この妙になれなれしい女性に対して、比較的一般的感性の持ち主である僕はそう思いながらも湧き上がる疑問をそのまま口にした。

「えっと……、どちら様ですか?」

 ファーストインプレッションは最悪だった。


 ◇


 とりあえず、深夜の住宅街で女性と立ち話をしていると不審者感がすごかったので、僕たちは駅前のマクドナルドへ移動した。


 住宅街近隣の深夜マックは、家に帰りたくない父親たちの避難所だと勝手に思っている。


 ポテトとドリンクを持って席へ戻ると、先に座っていた女性はすでに倍ビッグマックを頬張っていた。

 ……すごい勢いで食べるなこの人。

 てか、もう食い終わったぞ、この人本当に何者なんだよ……。まあいいや。

「えっと、それで、あなたは?」

「……あなた、本当に私を知らないの?」

 少しだけ傷ついたような声だった。

 残念ながら、僕の知り合いにこんな綺麗な人はいない。いてもかわいい男の娘しか知らんし、いたらさすがに覚えてると思う、多分。

 僕は申し訳程度の愛想笑いを浮かべた。

「すみません。人の顔と名前覚えるの、かなり苦手で」

 ――そもそも覚える気が薄いのは秘密だ。

 女性はため息をつき、のこった最後の一口を勢いよく食べてから言った。

「私は笠音琴子(かさねことこ)。あなたの隣の席の者よ」

「……あー」

 最近の席替えで確かに僕の隣は女子生徒だった記憶がある。

 言われてみれば、確かにそんな名前だった気がする。

「へぇ……同級生だったんだ」

「その反応されると、さすがにちょっと傷つくわね」

「すみません」

 本気で謝った。

 いやでも、本当に同級生?

 雰囲気が高校生じゃないんだけど。

 普通に社会人のお姉さん側だと思ってた。

 琴子さんは呆れたようにポテトを一本摘まみ、そのまま続ける。

「郁先幸多。十七歳。辺津宮高校二年五組三番。帰宅部。友人は少なめ」

 ーーゑ?

「待って、怖い、怖いよぉ……」

「同じクラスの伊都島優斗くんとは比較的よく話している。放課後はその伊都島くんと、もう一人の他校の女子生徒を交えてショップ巡りをしていることが多い」

「情報収集の解像度が探偵じゃなくて怪異側なんですよ」

「それと、よく厄介事に巻き込まれる体質」

「やめてください急にオカルトみたいになるの」

「この間、女子小学生と交番にいたわよね?」

「人の話聞いてます?」

 まあ、あれは色々あって警察のお世話になっただけで、捕まるようなことはしてない、はず。

 笠音さんはとくに気にした様子もなくジンジャーエールを飲んだ。

「別に付きまとってるわけじゃないわ。普段のあなたを見ていれば、ある程度は分かるもの」

「いや、それを一般的にはストーカーって……、言わんなぁ」

「ストーカーではないでしょう?」

「でも今の時点でだいぶ怖いんですよ」

 人間、本当に怖いと逆に冷静になるんだなと思った。

 僕はため息をついて、ポテトを一本つまむ。

「それで? 僕に何を手伝ってほしいんですか」

 もちろん,他人に興味はない。でも、困ってる人を放っておけるほど性格が悪いわけでもない。 

 ……いや、単に格好つけたいだけかもしれないけど。

「できる範囲なら手伝いますよ。一応、義務教育で道徳は習ったので」

 そう言うと、笠音さんは初めて少しだけ楽しそうに笑った。

「人助けの理由がそれはどうなのよ」

 でも、と続けて素敵な笑顔で「ならお願いするわ」と。

 そして、こう言った。

「私の、“正体不明のなくし物”の正体を探すのを手伝ってほしいの」

「えっと、どういうことですか?」

「まぁ、何をなくすかも、形ある物なのかも

 分からないのよ」

 え?失くし物なのに予定なの?

 もしかしなくても、僕はかなり面倒なことに巻き込まれてしまったのかもしれない……。

「ーーこれからよろしくね、郁先くん?」

 

この体は深夜の倍ビックマックとポテナゲ大で出来ている。

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