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断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~  作者: 古堂素央
第八章 真実はいつもひとつとは限らない

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山田はデッドエンドの夢を見るのか

 未希のひと声で心を決めたけど。

 いろいろと不安をぬぐい切れないまま、旅行の当日を迎えてしまった。


「姉上、もう馬車出るけど準備はいい?」

「ええ、ケンタ。つき合わせてごめんなさいね」

「見送りくらいどうってことないよ。ユイナも今日は予定あるしさ」


 ユイナはいま、国の式典に駆り出されてる。

 国家反逆罪の汚名を返上すべく、聴衆にまぎれて警護を担当するって話。


「ケンタは心配じゃないの?」

「ユイナの魔法の腕は信頼できるし。それに今回は疑いを晴らす意味が大きいから、ユイナ自身がしっかりやらないと」


 国に逆らう意思はないよって示さないとならないのか。

 ゲームのヒロインのはずなのに、ユイナも難儀な立場だな。


「ユイナの無限ループ、これで終わるといいわね」

「ありがとう、姉上。ゲームのエンディングの先も、ユイナと生きてけるって俺も信じてる」


 健太もゆいなも、自分の人生歩んでるんだな。

 ゲームの世界だからって、わたしももっとしっかりしなきゃ。


 馬車でお城まで行ってそこでリュシアン様と合流した。で、王族専用の転移門使って国境近くの町まで移動して。


「ここまで見送りに来てくれたのね、ジュリエッタ。まぁ、ダンジュウロウ様まで」

「ダンジュウロウ様が転移魔法で連れてきてくださいましたの」

「一度来たことがあった場所だからな。ひとを連れて長距離飛ぶいい練習になった」


 お、なんだい、ふたりとも。

 いつの間にそんな仲良さげな雰囲気になっちゃって。


「それにしてもダンジュウロウ様まで来ていただけるなんて……」

「シュン王子に頼まれたんだ。公務で見送ってやれないからと、ハナコ嬢をとても心配していた」


 よかった。山田、まだわたしのこと気にかけてくれてるんだ。


 旅行から帰ってきたら話したいことがある。数日前にそんな手紙を送ったんだけど。

 結局返事は返ってこなくって。


 もうわたしに興味なくなったのかもって、ちょっと弱気になってたんだ。

 単に忙しいだけって思いたい。


「ようやく来たか、ハナコ」

「ロレンツォ様。今回はイタリーノへの招待ありがとうございます」

「なに、帰国のついでだ。しかしこの国の移動はいつも面倒だな。転移門はいいとして、細かい移動はいまだ馬車だとか……まったく遅れているにもほどがある」


 ちょっとリュシアン様の前でなにディスってんのよ。

 ロレンツォめ、帰国できるからって気が大きくなってるっぽいな。


 いまイタリーノ大使がヤーマダ国に来てるから、人質のロレンツォは入れ替わりで帰国が許されたみたい。

 久しぶりに故郷に帰れるんだもんね。

 仕方ない、ちょっとくらい大目にみてやるか。


「かっかっか、ロレンツォ王子の言う通りだわい。我が国も魔法と科学の融合を推し進めておるゆえ、今後に期待と言ったところじゃな」


 おお、さすがリュシアン様。王者の余裕って感じ。

 しかも元国王らしくセンスのいい服を着こなしてるから、誰も保健医だって気づいてないし。

 普段はヨレヨレ白衣のヨボじいだもんね。わたしだってここまで仲良くならなければ、正体を見破れなかったかも。


「ハナコ嬢、あれを見るといい」


 リュシアン様が指さした先に、ホログラムで大型ビジョンが浮かび上がっている。

 まるでテレビ画面みたいにどこかの街並みが映し出されていた。足を止めた多くの人も、物珍しそうに見上げてる。


「あれこそイタリーノ国の技術を盛り込んだ、最新の遠隔映像転送魔法じゃ」

「遠くの景色を魔法で映し出しているのですか? では、あれはリアル中継ですの?」

「さすがはハナコ嬢、察しが良いな。まだ試作段階ゆえ、一般家庭に普及するのは先の話になりそうじゃが」


 映像が切り替わって、野外のステージが映し出された。

 あ、これユイナが警備しに行ってる国の式典だ。確かイタリーノ国との国交回復百周年を祝う慶典(けいてん)だったはず。

 よくよく見ると、壇上でスピーチしてるのはイタリーノ大使っぽい。王族代表で山田も出席してるみたいだし。


「リュシアン様は出られなくてよかったのですか?」

「表舞台からは引退した身ゆえな。それにここだけの話、わしはイタリーノ国内の情勢調査担当じゃ」


 ロレンツォに聞こえないように、こそっと耳打ちされる。

 いたずらっぽい顔で、リュシアン様はこっちにウィンクを飛ばしてきた。


「イタリーノに行く口実としてはナイスタイミングじゃったぞ、ハナコ嬢」

「まぁ、リュシアン様。またわたくしをダシにお使いになられたのね?」

「ハナコ嬢がシュンとの勝負に勝たなんだら、ここまでするつもりはなかったんだがの」


 おかしいと思ったんだよ。いくら公爵家といえ、貴族令嬢の旅行に元国王が付き添うなんてさ。

 そんな裏があったんだったら、あっさり話が通ったのもうなずけるって感じだし。


(でも国交回復の式典してるわりには、相手国の内情調査が必要だなんて……)


 不穏な臭いがプンプンじゃない?


 画面に目を戻すと、ちょうど山田と大使が握手をしている場面が映し出されていた。

 音声も流れてるのか、聴衆の拍手がここにまで響いてくる。


 表向きは良好な関係そうに見えるけど。

 イタリーノ国とはちょっと問題が生じてるって、前にリュシアン様も言ってたっけ。

 実情は意外と難しい状況にあるのかも?


 ちらっとロレンツォをうかがうと、食い入るように画面を見つめていた。

 怖いくらい真剣な横顔に、いやな予感が湧き上がる。


(山田、大丈夫だよね……?)


 未希が言ってたロレンツォルート。

 その結末(エンド)が頭をよぎって。


 和やかに見える式典の中、イタリーノ大使だけが不自然にピリピリしてる。それが画面越しにも伝わってきた。

 未希から聞いた話だと、ゲームではあの大使の銃弾で山田は命を落とすらしい。


 だけど、シナリオ通りの展開でイタリーノに行くわけでもないし、そもそも悪役令嬢のわたしにロレンツォルートなんて関係ないし。


(うん、考えすぎ、考えすぎ)


 違和感にフタをして、とりま自分を納得させた。


「ハナコ、行くぞ。面倒事が起こる前にさっさと出国手続きを済ませるんだ」


 腕をつかまれて、強引に引っ張られる。

 ん? ロレンツォ、いまメンドウゴトって言わなかった?


 進むロレンツォにつられて、リュシアン様たちもみんなカウンターへと歩き始めた。

 振り向くと、遠のいた画面ではまだ式典が進められていて。

 やっぱ問題はなさそうか。

 ほっとして向き直ったとき、映像の向こうで不自然な聴衆のどよめきが響いた。


「なに……?」


 足を止めて目を凝らす。

 画面には、会場の(はし)で白煙が上がっている場面が映し出されていた。


「ハナコ、なにをしている?」

「式典でなにかトラブルがあったようで……」


 ビジョンを見上げてるひとたちの数も増えてるみたい。

 画面を指さしながら、口々に何かを言い合ってる。


「俺たちには関係のないことだ。それにあの場には、この国自慢の魔法警備が揃っているんだろう?」

「ロレンツォ王子の言う通りじゃ。あちらはシュン王子たちに任せておけば良い」

「ですがリュシアン様……」


 確かに式典はそのまま続けられてるっぽい。演出のスモークかなにかだったとか?


 だけどロレンツォの態度も気になるし。

 やけに急かされてる感じがするんだよね。これもわたしの思い過ごしかな。


 促されて、仕方なく歩き出す。

 もう一回振り向くと、画面は小さすぎてほとんど見えなくなっていた。


(でももし、本当に山田が撃たれて死んじゃったら……?)


 言いようのない不安がこみ上げる。

 収まらないどころか胸騒ぎはどんどん大きく膨らんで。


「わたくし、シュン様の元に行かなくちゃ……」

「いまさらなにを言っている? あんたは俺とイタリーノに行くんだ、ハナコ」

「ダメ……!」


 乱暴にロレンツォの腕を振り切った。


「ごめんなさい、リュシアン様。わたくしイタリーノには行けません」


 こんなドタキャンの仕方、あり得ないでしょ。

 自分でもそう思ったけど。

 気づいたときにはもう、そんな言葉が口から出てた。


 ロレンツォの顔に泥を塗るだとか、リュシアン様のメンツをつぶすだとか。

 ただの思い違いだったらどうしようとか、そんなことすら考えに浮かばなくて。


「ケンタ、お願い! わたくしをシュン様のいる場所まで連れていって……!」

「えっ、だけど姉上」

「いいから、早く! シュン様がどうなってもいいって言うのっ!」


 わたしの剣幕に押された健太と手をつないで、ふたりで空間を飛び越えた。


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