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断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~  作者: 古堂素央
第四章 その王子、瓶底眼鏡につき

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家に帰るまでが遠足です

 お城を出てようやく一息ついた。

 とはいってもまだ完全には気は抜けない。

 なんたって今は王家の馬車の中だし。王族だけが使う馬車で送迎してもらえるのも、公爵令嬢だからこその待遇ってわけ。


(家に着くまでが遠足ってことで……)


 淑女らしく姿勢を正す。おとなしく流れる景色を眺めていたら。


「きゃあっ」


 ななな何ごとっ。

 いきなり左右に大きく揺れて、そのまま馬車が急停止した。

 危うく座席から転げ落ちるとこだったじゃんっ。


「モッリ公爵令嬢様! お怪我はございませんか!?」


 慌てて確認に来た御者のおじさん、めっちゃ青ざめた顔してる。王子の客人を怪我させたとあっちゃ、責任問題になりかねないもんね。

 昔のハナコなら大激怒だったかもしれないけど。生まれ変わった新生ハナコとして、ここは大人の対応をしておこう。


「わたくしは問題ないわ。一体何があったと言うの?」

「申し訳ございません、何者かが突然、道の中央に転移魔法を使って現れたもので……」

「転移魔法で? まさかぶつかったの?」

「いえ、寸前でどうにか回避できました。そのせいで乱暴な止め方になったこと、深くお詫び申し上げます」

「謝罪など不要よ。むしろきちんとけてくれたこと、礼を言うわ。シュン王子殿下にもそう伝えておくから安心なさい」


 上から目線な物言いでごめんなさい。そう思ったんだけど。

 御者のおじさんは感動で目が潤んでる。よっぽど処罰が怖かったんかな。


 ん? なんか外で揉めてるな。

 山田がつけてくれた護衛が、誰かと激しく口論してるみたい。


「ちょっと、離してよ! わたし、怪しい者じゃないったら!」

「突然飛び出してきておいて何を言う! この不審者め、王家の馬車と知っての狼藉ろうぜきか!」

「わたしはシュン王子と知り合いなのよ! 王子に言いつけて、あんたなんか解雇くびにしてやるんだからっ」


 ゆ、ユイナ!? 馬車に立ちふさがったのってあんただったの?

 っていうか、どうしてそんな危険なマネを。


「離してったら! いい加減にしないと痛い目見るわよっ」


 護衛と押し問答していたユイナが、舌打ちしてこぶしをぎゅっと握りしめた。

 かと思ったら、手のひらがバチバチ放電し始めてるし。


(あの子、何考えてるの!?)


 力づくで王家の護衛を振り切ったりしたら、反逆罪に問われる可能性だってある。

 まして相手を傷つけた日には、さらに罪が重くなりそうだ。


「お待ちなさい!」


 気づいたら馬車を降りていた。ここはわたしが何とか収めなきゃ。


 止めようとしてきた御者のおじさんに、余裕たっぷりの笑顔を向ける。大丈夫なことをアピールしたら、おじさんはあっさりと通してくれた。


 優雅な足取りで歩を進めると、ユイナと護衛がつかみ合ったままわたしを見やった。


「モッリ公爵令嬢様……! 危険ですので馬車の中でお待ちください。早急に片付けますので、ここはわたしにお任せを」

「そういうわけにはいかないわ。今すぐその子をお放しなさい」

「で、ですが」

「その子はユイナ・ハセガー男爵令嬢。フランク学園の生徒よ。大丈夫、彼女の身元はこのわたくし、ハナコ・モッリが保証します」


 力強く言い切ると、戸惑いながらも護衛はユイナから手を離した。


 ふぃー、間一髪。

 あとちょっとで大惨事になるトコだったよ。


 ってか、ユイナの手のひら、まだバチバチ言ってるしっ。おまっ、臨戦態勢まだ解いてなかったんかっ。


「あなたもよ。今すぐその力をお静めなさい」


 ぴしりと言うと、不満げにユイナは手中の魔力を消し去った。


「……なによ、エラそうに」


 聞こえよがしに言うなっつうの。

 でもユイナと同じ土俵には絶対に乗ってやるもんか。

 揚げ足取られたりして、断罪コースにひっくり返されたらかなわないしね。


「あっ……!」


 突然ユイナがふらりと倒れ込んだ。

 慌てて支えると、ユイナってばあちこち怪我してるんですけど。


「あなた、この傷はどうしたの?」

「ハナコ様には関係ないです」


 馬車とはぶつかってないって話だから、ここに来る前にはもう怪我してたってこと?

 よく見ると顔色もあまり良くなさそうだし。

 誰かとやりあって、逃げるために転移魔法で飛び出したとか?


「とにかく手当を。ここに治癒魔法を使える者はいて?」

「自分で治せるから大丈夫です。ハナコ様と違ってわたし優秀なんで」


 憎まれ口はいつも通りなんだけど。

 治癒魔法を発動させると、ユイナはその場にへたり込んだ。

 ちゃんと傷は治ったみたい。でも肩で息しててめちゃくちゃしんどそうだ。


「その症状は……あなた、魔力切れね?」


 わたしにも覚えがある。魔力でティッシュを立て続けに数枚引き寄せたとき、今のユイナと同じような状態になったから。

 ってか、自分の魔力のへなちょこ加減に、言ってて悲しくなってきたっ。


「しばらく休めば回復しますから。わたしのことは放っておいてください」

「そういうわけには……。いいわ、一度モッリ家に連れて行きます。あなたも馬車に乗りなさい」

「しかし公爵令嬢様、王家の馬車に予定外の者を乗せるなど……」

「何? わたくしの言うことがきけないの?」


 ユイナを放置して、このあと何かあったら後味悪すぎだし。止めてくる護衛に毅然きぜんとした態度を貫いた。


「責任はすべてわたくしが取ります。あなたたちは何も心配することはないから安心なさい」


 押し切って、ユイナを馬車に乗り込ませた。

 走り出した馬車の中、誰も頼んでないとか余計なお世話だとか、ユイナが何やらぶつぶつ言ってるし。


「言いたいことがあるなら、はっきり言えばよろしいのよ?」

「……そのエラそうな態度、ハナコになってもほんとムカつく」


 小さな声でぼそっともらすと、ユイナは気だるそうにそっぽを向いた。

 ハナコのことをゲームキャラって思いつつも、森華子を重ねて見てるっぽいな。

 ユイナの中の人、やっぱ長谷川ゆいななんだな。そんなこと改めて思ってみたり。

 長谷川ってやたらと華子わたしを敵対視してたからね。


 モッリ家の屋敷に着くと、健太がいちばんに出迎えてくれた。

 お城に行くってんで、ずっと心配して待っててくれたみたい。


「ハナコ姉上、遅かったね。……って、ユイナ?」

「帰り道で具合悪そうにしているところを見かけたのよ。魔力切れをしているみたいだから、しばらく屋敷で休ませようと思って」


 そりゃいきなりユイナ連れて帰ったら、さすがの健太も驚くわよね。

 見捨てられなかったとはいえ、あとで未希にも報告しなきゃなんないし。それを考えると今から気が重いんですけど。


「魔力切れなら俺が預かるよ。俺なら転移魔法でユイナを家まで送ってやれるし」

「あら、そう? そうしてもらえるとわたくしも助かるわ」


 ユイナの前では、あくまでハナコ・ケンタの姉弟を演じつつ。詳しい話はまたあとでって目くばせを送った。

 うなずくケンタにユイナを託して、わたしは部屋に引っ込むことに。


 このあとユイナはケンタの魔法ですぐに家に帰ったみたい。

 送ったケンタの帰りが遅かったのが、ちょっと気になったんだけど。


 わたしもお城帰りで疲れててすぐに眠っちゃったんだよね。

 結局その日の報告会は、後日未希を交えてしようってことに。


 とりあえず何事もなく終わってよかったって感じ?

 ひとまず安心した華子なのデシタ。


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