第111話目―必要な時に必要な人材は大体いない―
前回のあらすじ:セルマ(美少女な人形)がすけべな要求をしてきて主人公のハロルドは洞窟で緊縛された。
※:ご無沙汰しておりました。生きてます。すみません。そろそろ恐らく漫画版も二巻が発売されると思いますので、ぜひぜひよろしくお願い致します。
あと、ツイッターも始めてみました。
https://twitter.com/KOHARU_michi00
です。始めたばかりでフォロワーさんも少ないのでして貰えたら嬉しいです。これで生存確認しやすくなりますし、色々な告知も前書きや後書きで長文で報告というのが無くなるので、私も楽になります。待ってるんだからね!(*'ω'*)
セルマは僕に対して変な感情はもう抱いていないハズ――そんな風に軽く考えてしまった自分の馬鹿さ加減には呆れる他にない。
龍人の島の一件以降、どうにも平穏な日々が過ぎていたものだから危機感が薄れている。
「身動きが取れなくて可哀想な御主さま……」
「可哀想って……僕を縛った張本人が言っていい言葉ではないよね?」
「御主さまが愛してくださらないのが悪いのです。ご心配には及びません。糸はきちんと解いてさしあげます。……肌を重ねた後にですが」
緊縛はキツく、自力で解くのはどうにも無理そうなので、僕は芋虫のようにズリズリとこの場から離れようとする。
だが、それは無駄な足掻きだ。
糸を引っ張られてあっという間に元の位置に戻された。
セルマは馬乗りになって僕の動きを封じると、そのまま強引に唇を重ねてきた。
「……覚悟をお決めになって下さいませ」
耳元でそう囁かれる。
このままでは、本当に取り返しがつかない最後の一線を越えることになる。
それは――阻止したい。
僕はアティの向日葵のような笑顔を思い浮かべて冷静さを保ちながら、どうにか脱出する方法は無いかと考えた。
「……服が邪魔です。ぬぎぬぎが必要かと」
そう言ってセルマが僕の上着に手をかける。しかし、それと同時に僕は妙案を思いついた。
僕は銀を常に携帯している。それを使えばいい。次力を通した銀で糸を切ればいいのだ。
ただ、それを思いついたまでは良いのだけれども、焦ってしまったのが良く無かった。
僕は過剰に銀に次力を通してしまい、それは糸を焼き切るだけに収まらず、小さな銀球を動かす際に誤って地面にぶつけてしまった。
出来たのは小さい穴ではあったけど、そこから亀裂が走り、次の瞬間に地面が崩落した。
「さぁ御主さま……私を愛してくださいま――せっ?」
「やばいっ――」
僕はセルマと共に空洞の中へと落ちていった。
平穏に過ごしていたいと頑張っているだけなのに、どうして僕はいつもこう急な展開に巻き込まれるのか?
そこのところがよく分からない。
※※※※
「いつつ……大丈夫?」
「は、はい。御主さまはお怪我ございませんか?」
「僕も大丈夫だよ」
お互いに無事であることを確認してから、ゆっくりと周囲を見る。
通路だ。
不思議な光が等間隔に置かれているこの通路の装いは、幾度か経験した雰囲気だ。
ここは――
「――迷宮?」
そうとしか考えられない。
何か妙な魔物臭さのようなものも漂っており、”生きている迷宮”であるのも窺える。
迷宮には入らない、と決めた矢先にこんな事態に陥るとは……。
見えない力が無理にでも僕を迷宮に入れようとしているかのような、不思議とそんな気さえしてくる。
自分の悪運に恨めしい気持ちになりながら、ともあれ、迷宮に入ってしまったものは仕方がないので地上に戻る道を探すべきである。
だいぶ長いこと転がり続けて落ちて、そのうえ結構天井も高いので、穴を登って辿るのは不可能。
となると……
「……正攻法で迷宮から出るしかないかな」
僕がそう呟くと、セルマも真剣な面持ちで頷いた。
さすがに緊急時であるので、先ほどまであった邪まな感情は一旦抑えてくれたようだ。
「……まさか迷宮があるとは思いませんでした」
「まぁ地面が崩落して落ちて来たから分かっただけで、それさえ無ければ迷宮に繋がっているなんて知りようもないから、仕方ないよ」
ひとまず迷宮内を移動する。
時折に魔物と遭遇するものの僕の出番は一切ない。セルマが一瞬で倒してくれるからだ。
セルマが苦戦する様子もなく魔物が弱いので、そこまで下の階層では無いのが分かる。
出口は案外近いかも知れない。
まぁセルマ自身が強いと言えば強いから、中層くらいである可能性もあるにはあるけど……。
「……うん?」
順調に進んでいる途中で、僕はふと天井を見上げて違和を抱いた。
穴があった。
良く見るとそれは僕たちが落ちて来た穴だった。
「……まさか」
僕が眉根を潜めると、セルマも天井の穴に気づいて、
「……御主さま、もしかするとなのですが、私たちは同じ場所をぐるぐる回っているのではありませんか?」
その”もしかすると”だった。
ここは間違いなく僕たちが落ちて来た場所だ。穴の大きさや形状が全く一緒であるのだから。
出口に近づいているような気がしていたのは単なる勘違いだ。
「一体どうして……? 気づかないうちに通路が動いて誘導されている……とかかな?」
「あるいは魔法か魔術で転移させられているか……でしょうか? こんな時、奥さまがおられたら、すぐに対処して頂けるのでしょうけれど……」
今まで迷宮でなんとかなって来たのは、ほとんどがアティのお陰だ。アティがいなければ浅い階層ですら迷子になる。
ある程度腕に覚えがあるからではどうにもならない。こういうトラップも多いからだ。
それが迷宮である。
今に始まった話じゃないけど、ことあるごとにアティがいかに凄いのか思い知らされる。こういう状況での有能さという意味では、次点でパスカルとエキドナだろうか。
(僕とセルマは迷宮の知識が無いのは当然、感知が得意とかいうワケでもないからなぁ……)
僕は頭をわしゃわしゃと掻き毟り、どうしたら良いのか懸命に考えた。
すると、僕の目の前に急に見覚えのある小人が現れた。
確かあれは、僕の記憶に間違いが無ければ茨の街を攻略した後に出逢った僕だけに見える小人だ。
随分と久しぶり……というのはさておき、小人は何かを喋り出した。
相変わらず何を言っているのかよく聞き取れなかったけれど、ただ、前回同様に唇の動きを追うことで言葉を拾えた。
――”ジン”。
ジン。そういえば前にもそんなことを言っていた。
――イル。コノ迷宮ニ。
この迷宮に”ジン”がいる?
――倒セバ褒美ヲヤロウ。
倒せば褒美……?
――同ジ道ヲ三度辿レ。三度目ノ正直。
同じ道を三度辿れ? 三度目の正直?
言われていることがイマイチ分からず僕が困惑していると、小人はくっくと笑い、そのまますぅっと消えた。
(”ジンを倒せ”が何を倒せという意味なのかは分からないけど、”同じ道を三度辿れ”は恐らくだけどグルグル回れ……って意味かな?)
小人の言葉を信じるべき……なのだろうか?
色々と思うところはあるけれど、とはいえ、じゃあ何か他に良い案があるのかと問われれば思い浮かびもしない。
ここは騙されたと思って言われた通りに動いてみようか。
「御主さま……? どうされたのですか?」
セルマには小人が見えていないので、僕が何もないところをジッと見ていたように映ったらしく、変な心配をされた。
「なんでもないよ」
「であれば良いのですが……」
「そんなに気にしなくていいよ。それより、あと三回だけ、今までと同じようにぐるぐる回ってみようか」
「三回……? それに何か意味があるのですか?」
「あるかも知れないし、無いかも知れない。ただ、どうせ立ち止まっていても悪戯に時間が過ぎるだけだし、とりあえず動こう」
「……御主さまがそう仰られるのであれば」
本当に必要な人は中々その場にいないものですよね。