第105話目―う~―
「どちらだ? どちらが女にウケが良いのだ?」
鎧の男はズイと僕の顔を覗き込んで来る。
顔が近い……というのはともあれ、嫌な印象を持つ相手とは言え商売は商売だ。
お金を払ってくれるのであればしっかり売りたい。
「……贈り物ということで?」
「そうだ」
「難しい相談ですね。こういうのは、貰う方の趣味趣向が大切ですから。他の女性に人気ですと言っても、本人にとっては違う可能性もあります。贈る相手がどういうのが好きか分かりませんか?」
「分からぬ」
「なら、本人に来て貰うのが一番ですが……」
「それは出来ぬな。驚かせたいのだ」
面倒くさいことを言い出された。
何を贈れば喜ぶのか分からないが、絶対に喜ぶものを贈りたいとは……。
頭を抱えたくなる要望である。
ただまぁ、方法が無いわけでは無いけれど。
「……であれば、多少はお金が掛かりますが、全てお買い求め頂いて贈るという手もあります。これなら趣味趣向が分からなくても、中には一つくらいは本人が喜ぶようなものもあるでしょう」
こうした物量作戦であれば、喜んで貰えるものも混じるだろうから失敗も少なくなる。
同時に気に入らない物も沢山抱えることにはなるけれど、それらは気に入りそうな他の人にあげるなり何なりして減らして行けば良いだけだ。
「全て、か……」
鎧姿の男は僕の提案を受けて悩み始めた。
まぁ、悩むのも無理は無い。
この方法は、お金を大量に使っても構わないという前提ありき――と、僕がそう考えていると、ドンと目の前に袋を置かれた。
おそるおそるに中に見ると、ぎゅうぎゅうにお金が詰まっていた。
「ならば全て買おう。これだけあれば十分だろう」
「かなり多いですが……」
「構わぬ。余った分は相談料とでも思え」
金銭感覚がマヒしているのではないだろうか?
いや、何億もするようなエルフを買える財力があるのだから、これぐらいの金額は大したことが無い範疇なのかも知れない……。
そういえば、貴族の子とかなんとかと言う話も聞いたことがあったような……無かったような……。
ま、まぁこの男の背景はなんにしろ、全てをお買い上げ頂けるのであれば是非も無い事である。僕はそそくさと目の前の商品を纏めて木箱に押し込むと、鎧姿の男に持たせた。
「感謝するぞ店主よ」
「いえいえ」
去って行く鎧姿の男の後ろ姿を見送る。それからホッと息を吐いて胸を撫でおろしつつ、僕は店じまいを始める事にした。
驚きの来客ではあったけれど、何はともあれ全てを纏めて売って商品が無くなったのだから、今日はもう終わりだ。
あとは適当に街中をぶらつきながら帰るとしようか。
※※※※
街中をぶらぶらしていると、まさかの事態に遭遇した。
エキドナを見つけたので、声を掛けようと思って近づいてみたら、なんとそこにセシルもいたのだ。
「……ちょ、ちょっと何よ。なんでそんな睨むの? 私はあなたに何もした覚えないんだけど」
「う~」
エキドナが一方的にセシルを睨みつけている所であった。
一体どうして――と最初は僕も思ったものの、そういえばこの二人には地味に因縁があった事を思い出して納得した。
セシルは蛇だった頃のエキドナを毛嫌いしていたし、エキドナもセシルのことを嫌っている感じであった。
エキドナは人型になっても蛇の頃の記憶を引き継いでいる。
つまり、その時の事を覚えているのだ。
威嚇しているのはその為だろう。




