第106話目―穏便に穏便に―
前回のあらすじ→セシルとエキドナが出会ってしまった……。
セシルとエキドナの間に、剣呑とした空気が蔓延していく。放置したままだと、間違いなく面倒くさいことになりそうである。
「はぁ……」
仕方が無い、と僕は間に割って入ることにした。
取り合えずエキドナの後ろに回り、両脇に手を入れてそのまま持ち上げる。
「う……?」
エキドナは怪訝そうにゆっくりと振り返ると、僕に気づくや否や急にハッとして、
「――ぱぱ! あの女にちかづいたらだめ!」
そう叫んだ。
自分が嫌いだから僕にも近づくな、と言うことなのだろうか? うーん……まぁ……その……そう思う気持ちは理解出来ないでもない。
でも、そうした心情を理解はしても、だからといってエキドナの望む通りに僕もセシルを嫌うワケにも行かない。
「そんな顔をしない。ほら高い高い」
ひとまず、エキドナを落ち着かせる為に高い高いを繰り返して見る。すると、これが意外にも効果があったらしく、エキドナの鼻息が徐々に浅く小さくなって行った。
「うぅ~……うー……」
「落ち着いた? それじゃあお家に帰ろうね。僕はセシルと少し話があるけど……それは必要なお話だから。賢いエキドナなら分かってくれるよね?」
「……えきどなかしこい?」
「うん賢い」
「……わかった。かしこいからえきどな我慢するね」
エキドナも見た目相応にまだ子どもなだけあって、持ち上げると良い気分になる。
それはもう知っている。
僕は満足に頷く。
「でも、ままを裏切ったらだめなんだからね?」
エキドナが去り際にそんなことを言って来た。どうにも変な心配をしているようだけども……それは杞憂でしかない。
少なくとも僕にそんな気は一切無いので、セシルとどうこうなるということはありえないのだ。
確かにセシルは美少女であると思うし、元気がある所も良い部分だとは思うものの、それと好きになるかは別問題だ。
そもそも、僕は同時に二人も三人も好きになれるほど器用じゃない。アティ一筋と決めたからには、生涯をかけてただ一人アティだけを愛する。
「裏切らないよ絶対に」
「……じゃあかえる」
僕の返答に納得したのか、エキドナはぶすっとしながらも、家の方角へ向かって歩き始めた。
胸を撫でおろして息を吐いてから、僕はどすどす進むエキドナの後ろ姿を見送ってセシルに向き合う。
「ハロルド……? えっと……それで……ぱぱ?」
セシルが頭上に疑問符を乗せている。何か変な勘違いをされている気がしてならない。
「ちょっとハロルド?」
「う、うん?」
「ぱぱって何よ。しばらく会わないうちに子作りでもしてたワケ? アティちゃんとの間の子って感じには見えなかったし……どういうこと?」
問い詰めるような口調でセシルは僕の胸倉を掴んだ。ウソを言ったら切り捨てに来そうな形相である。
こうなっては仕方が無い。僕は胸倉を掴まれた状態のまま、少しずつ事実を述べていくことにした。
「いやその……なんて言えば良いのか……とりあえずアティのお腹の中に僕の子がいたりする。さっきの子は違う」
「――ハァ!? じゃあなに、もしかしてさっきの子は浮気で出来た子とかそういう事情?」
「そ、そういうわけじゃないんだ。僕の子はアティのお腹にいる子だけだよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。じゃあさっきの子については認知してないとか、そういうアレなわけ? いつからそんなクズになったのよ!」
どうやら僕は選ぶ言葉を間違えてしまったらしく、セシルに更なる勘違いを爆走させる結果になってしまった。
一体何から説明をすれば良いのだろうか?
すっかりと僕は困り果てながらも、しかしこのままにも出来ないので、セシルがきちんと理解するまで時間かけて事情を語って聞かせることにした。
旅の途中でエキドナが蛇からあの姿になった事。子どもが出来たら責任を取る覚悟でアティと男女の仲になっていた事。
そして、実際に子どもが出来て家庭を大事にすべき状況になったので、セシルとは迷宮には行けない事――等々全て話し終える頃には、すっかり夜中になっていた。




