第2話 疑問
突然だが、幽霊と言う存在を信じるだろうか?
よくTVでそういったものをやっているが、俺は信じていない。
何故なら今まで一度もこの目で見た事が無いからだ。
そんな不確かなものを信じられるか?答えはノーだ。
幽霊なんて人が生み出した想像や幻想に過ぎないと、俺は今日この瞬間まで思っていた。
――午後六時程。俺は家への帰路についていた。
今まで俺は警察に事情を話していた。
刹那の親御さん、家が近い学校の奴等に先生などが、あの後暫くして駆けつけて来た。
俺は半分放心状態になりながら、警察に今日の出来事をそのまま話した。
刹那は猫を庇って車に跳ねられた事。轢いた車はそのまま去って行った事。俺は車の特徴を思い出しながら話した。だが、今の俺には轢き逃げ何かどうでも良かった。確かに轢き逃げに対する怒りはある。だが、それ以上に悲しみが強い。それだけの事だ。
“刹那が死んだ”
そんな文字が、言葉が、事実が、俺の脳内をグルグルと駆け回る。
まるで世界から色が抜け落ちたように、俺の目に映る景色は白黒だ。
俺はハイライトが消えた目で、フラフラと家へと向かった。
アパートに着くと鍵を開けて、靴を脱ぎ、鞄を投げ捨て、電気を付ける。
「あ、お帰り~」
――は?
俺は1人暮らしだ。なのに今声が……空き巣?
……でも鍵は閉まってた。
俺は弱冠戸惑いつつも顔を上げる。
「は?」
今度は口に出してしまった。
それもその筈だ。
何故なら目の前には、肩まで伸びたブラウンの髪に目を細めて笑う少女。刹那の姿が目に入ったからだ。
俺の目から脳に“刹那がいる”と言う信号が送られる。
だが俺の思考はその事実についていけずにいた。
何故刹那が居る?
刹那は死んだんだ。
なのに何故俺の家に居る?
俺は次々と湧き出る疑問に頭を悩ませる。
だが、そんな俺を尻目に俺の口は勝手に動く。
「刹那……なのか……?」
「……うん、そうだよ。私」
見れば分かる。もう何年も一緒なのだ。
だが確認せずにはいられなかった。
何故なら刹那は死んだ筈だからだ。
遺体は確かに回収された。
もう刹那は居ない。もう会えない。
だが刹那は目の前に居る。
偽者なんかじゃない。根拠は無かったが、絶対の自信を持って言える事だった。
俺の目からは再び涙が溢れる。
「刹那!」
気が付くと俺は刹那に駆け寄っていた。
だが、俺が刹那に触れようとした時、スカッと言う擬音が聞こえるように俺は刹那の身体をすり抜けた。
「は?」
俺の部屋はあまり広く無いので、そのまま俺は眼前の机にダイブする。俺が机に叩きつけられる音が部屋に響く。
「痛ってぇ……」
「大丈夫?未来?」
刹那が心配そうに駆け寄って来る。
――いや、違う。
俺の目には刹那が浮いているように見える。
つまり浮き寄って来る。
さらによく見ると、刹那の身体が薄い気がする。
は?
俺がこんなにも“は?”を連呼するのは今日が初めてだろう。
あまりにも理解し難い事が起こり過ぎて、俺の脳はオーバーヒート寸前だ。そんな俺に鞭を打つように、刹那は眩しい笑顔で言う。
「えへへ、私幽霊になっちゃった!」
――は?
お疲れ様でした。
それでは次回も、のんびりしていってね。




