プロローグ
日野瀬神楽は、頭を抱えていた。べつに頭が痛いという訳ではない。
だからといって、この強い日射しで熱中症になり、今すぐ倒れるという状況でもない。
なら、何故かというとそれは彼の目の前の状況に対してだった。
いや、正確には目の前の状況があまりにも痛々しいため、それを頭痛のように感じているからかもしれない。
「私は、世界を救うために魔王ユイ。貴様を倒さなければいけない! 私には今までの冒険で失った仲間の為に勝たなければいけない!」
それを言っているのは、高校指定の制服に身を包んだキリッとした目をしている京華だった。
その言葉に対して、ソファーの上でどこからか用意してきた派手なドレスに身を包んだユイが答える。
「我に勝とうというのか、貴様には我を倒せない。我には闇の大軍勢がいる。そいつらに貴様、一人で勝てるわけがない」
アハハハッと明らかによくいる悪者を真似て、笑い声をあげる。
一般的には、ごっこ遊びと同じだが。彼女達には、その設定自体が本当だと思い込んでいる。
「おい、お前ら」
「貴様は、全戦全勝の神カグラじゃないか!」
「分かったよ……ああ、一回病院に連れていくしかないようだな」
「カグラ、貴様は勇者の味方をするのか、面白いそれでも我には絶対に勝てんがな!」
さため息を思いっきりつき、仕方ないとばかりに向き直る。
「お前ら、戦いの場所を変えよう。俺についてこい!」
「いいだろう、貴様らのやりやすい環境で戦ってやるぞ!」
二人は、神楽の後ろに着いていく。
「完璧に中二病ですね」
医者は、そう診断を下した。
時代は、変わっていた。前までは、若い者達でしか伝わらない言葉が今では、中二病として正式に病気として認識され、その治療方法もできている。
「えっと、先生。それじゃあ、あの二人はどうやったら治りますかね?」
「中二病というのは、いわば現実という退屈した彼女らの世界の妄想が現実とすり変わっている病気です。なら、話は簡単だよ」
肩をポンッと叩かれて、ゴクリと神楽は唾を飲む。
「つまりどうすれば?」
「現実を楽しいものだと感じさせてあげればいい。そうすれば、自然と現実か仮想」彼女達に分かるからね
にこっと笑顔を浮かべるが、神楽はため息をついた。
「まぁ、頑張って。それじゃあ、またなにかあったら」
「分かりました……」
「お大事に」
診察室を出ると待合室には、明らかに態度がでかい二人が一席分、離して座っている。
「来たか。カグラよ」
「カグラ、我は待ちくたびれだぞ。さぁ戦おうではないか! 戦を!」
「分かったよ……。とりあえず、家に戻るぞ……」
とてつもなく嫌そうな顔をして、病院から神楽を先頭に出ていった。
他にも長期連載を書いていますので、どうか気長に待っていただけたらと思います。