第16話 波瀬、かわいいとこあんじゃん①
プールサイドがあらかた掃除し終わって、さて次はプール内部のほうへ移ろうかという話が出始めた頃。
「鳴海ちゃん、プールネット持ってきてくれる? 競泳場前廊下の用具ロッカーに入ってるから」
「了解。すぐ持って来るから待ってて」
なんと私、鳴海愛結――学内カースト最上位に君臨する正統派美少女、涼木さんと打ち解けることに成功いたしました。
互いの身の上話をしているうちに、涼木さんの趣味が小説を読むことだと判明。
暗黒時代の不登校期間、自室に引き籠もって朝から晩まで小説を読み腐っていた私はすぐさま涼木さんの読書トークに食いついた。
「そうそう、だからラノベジャンルだからといって舐めてかかると痛い目を見るの! やっぱり小説ってジャンルとかレーベルじゃ割り切れない! 純文学もエンタメ小説もどちらも平等に愛してあげないと、自分が心の底から面白いと思える作品とは出会えないの!」
語る私に「読者家怖ぇ……」と若干引き気味の波瀬と。
「そこまで言う鳴海さんがどういう作品を面白いと思うのか、気になるね」とちょっと興味深そうに私を見つめる涼木さん。
「ねぇ、鳴海さんのおすすめ作品教えてよ。感想とか色々共有したいし、せっかくだから連絡先も交換しとこうよ」
え、こんなトントン拍子で人と連絡先交換とかしていいの?
怒濤の展開にドギマギしていると、「ダメかな?」と涼木さんは首を傾げる。
「いえいえ光栄です! 私の連絡先でよければいくらでも交換いたしますので、すぐにでも――」
私が慌てふためいてワタワタとスマホを取り出そうとすると――。
「敬語」
「へ?」
「鳴海さん、さっきから微妙にタメと敬語混ざってて、話しててなんか距離感じちゃうな。私たちもう友達なんだから、そういうの遠慮しなくていいじゃん?」
ととと友達! 私、涼木さんと、友達!
涼木さんが発する陽キャ特有の金ピカオーラに焦がされて、思わず私の意識がふわふわと大気圏ぐらいまで飛んでいっちゃう。
私、涼木さんに友達って認められたよ……。高校デビュー狙って受験期は鬼キツかったけど、頑張って勉強してこの高校に進学してよかったよ、ママ……。
ふるふると感涙に咽びながら涼木さんとアカウントを交換する。
その傍らで、スマホのメモ帳に保存している「私的お気に入りリスト」を参照して涼木さんに色々教えていると。
ふと、涼木さんが。
「それにしてもこれだけの作品数読み切るなんて、相当な読書家さんなんだね」
「ま、まぁ。暗こ……中学のときから小説にハマって色々読み漁ってて……」
……言えない。かつて学校に行かず、ひと月に二○○冊ペースで小説を読み腐っていた暗黒時代があっただなんてこと、涼木さんには絶対言えない。
私は一人、暗黒時代のボロが出ないようにアセアセと作品紹介に徹した――




