第17話 波瀬、かわいいとこあんじゃん②
……のが、結果的に色々うまくいって、「鳴海さん」から「鳴海ちゃん」に大出世した私である。
競泳場前廊下。涼木さんに頼まれた物を探して、私は掃除用具ロッカーを漁る。
掃除開始からすでに三十分ほど経過していたけど、昨日美容室の予約時間を変更させてもらったので、今日は午後七時まではフリーだ。
掃除が終わった後は一時間くらい空くだろうし、涼木さんを誘って、どこかカフェにでも寄ってゆっくり小説トークとかしてみるのはどうだろうか。
せっかくできた友達なわけだし、趣味も合うし。涼木さんとはもっと仲よくなりたいし、互いに既読の作品があったら感想とか言い合いたいし。
そうだ、やっぱりプールに戻ったら涼木さんをお茶に誘おう。
誘ってもし今日がダメだったら、来週以降で各々予定合わせればいいわけだし。
なんてことを考えながら、用具ロッカーからプールネットを取り出していると。
「……ねぇ鳴海、ウチにも鳴海のおすすめ小説教えてよ」
背後から唐突にかけられる、ちょっと物憂げな声。
振り返ると、そこにはいたのはなんだか拗ねたような態度の波瀬だった。
「……波瀬?」
いつもはふざけ倒してしかいない女友達の見たことない表情に、私は息を呑む。
ウチにも鳴海のおすすめ小説教えてよ?
え、なにゆえに?
波瀬って、小説とか全然読まないクチだったはずじゃ? さっき私と涼木さんが喋ってるときも、「小説トークとかついていけねぇ」って退屈そうにしてたし。
私が黙っていると、いてもたってもいられなくなったのか、波瀬は若干ほっぺを赤くして話しだす。
「ウチ、さっき鳴海と涼木が盛り上がってるところに入っていけなくて……その、ちょっとだけ、ほ、ほんのちょっとだけ、寂しいなぁとか思っちゃって……。だから、鳴海との共通点が欲しいなぁとか思ってみたりしたんだけど……」
言いながら唇を尖らせ、もじもじと指遊びをしだす波瀬。
「そ、それに、ウチが先に友達になったはずの鳴海が、涼木に取られそうになってるの、なんかモヤモヤするし……」
「え? 私が? 涼木さんに取られる?」
私が首を傾げると、何やら独りごちるようにぶつぶつ呟いていた波瀬が急にハッと顔色を変える。それからみるみるうちに顔色が赤くなっていって……。
「ちょっ、今のなし! 聞こえてないと思ってたのに! 別にウチ、鳴海なんかに独占欲とか湧いてないし、親友にはなりたいとは思ってるけど、別にあんたのことで悶々とするほど執心してるわけじゃないから!」
……とかなんとか、聞いてもいないのに勝手に自爆してくれてるけど、この子。
私はフィクションとかによく登場するような鈍感系なんちゃらではないので、波瀬の自爆発言に思わずニヤついてしまう。
この子、私に妬いてくれてるぞ。
「ちょっと! なにニヤニヤしてんの! ムカつくからやめて!」
「いやぁ、波瀬って結構遊んでるイメージあるから、人間関係は上書き保存なサバサバタイプなのかと思ってたけど、案外かわいいとこあるんだなぁって」
「そういうのいいから! ほら、さっさと鳴海のおすすめ小説教える!」
耳や首元まで真っ赤にした波瀬に怒られながら、私は先程涼木さんと話した際に参照した「私的お気に入りリスト」をメッセージに貼り付けて波瀬に送る。
いまだ不機嫌そうな顔をしている波瀬がリストにざっと目を通すと、
「……で、鳴海的に特におすすめの作品はどれ? 鳴海の好み色々知りたいし……って、さっきから何なのそのニヤニヤ顔! 別に嫉妬なんてしてないってば!」
特におすすめとか聞いてくるあたり、波瀬は割と真剣に、私が涼木さんに取られるのではないかと危惧しているらしい。
いや本当、波瀬にこんなかわいいところがあるなんて知らなかった。
奉仕活動ができるギャルに、ツンデレ属性も備わっていたとは。
属性マシマシすぎて、インフレ一歩手前じゃないか。




