2ー048 ~ 飛行形態
川小屋へ帰還。
まだ少し夕食には早いので、皆はそれぞれ洗濯やら装備の手入れやらをしてる。
俺は川魚を採ったり、リンちゃんの手伝いをしたりした。
というのは、肉類とか捌いた覚えがないのに鶏肉っぽいものや豚肉っぽいものがブロック状態でポーチに入ってるって気付いたんだよね。
いまさら?、かも知れないけど、知覚してない内容物は無いのと同じなんだよ。
だからリストを用意しておいたり、集中して何が入っているかを探ったりしなくちゃいけない。
それをこないだのピッツァの時にやったってわけ。
あの時のリストはあくまで追加分だったからね。
それで集中して探ったところ、でるわでるわ、忘れてたようなものも含めて結構な量の魔物の死体がずらーっとあることがわかってしまった。
トカゲ類は新拠点にもってって渡さないとなので夕食後にでもささっと行って来ようと思う。あまり貯めすぎると向こうも大変だろうし。
少々貯めすぎてしまった気もするが、まぁあっちで文句言われたら素直に謝ろう。
で、ブロック肉なんだが、リンちゃんがこうしてヒマを見つけては捌いたり処理してくれてたってわけ。
なのでお手伝いをしたんだ。
俺のポーチとリンちゃんのリュックサック、ってほど見かけは大きいわけじゃない。むしろファッション重視みたいな可愛い見掛けなんだけどね、ピンクだし、それが繋がってるって前に言ったっけね。
だから俺が入れた角イノシシや角ニワトリが、いつの間にかリンちゃんの方で取り出して捌いて、またリンちゃんの方で入れてて、俺がそうと知らずに取り出して食事のときに使ってたりしてたわけ。
面白いのが、俺が入れたものを、リンちゃんが森の家に移動して、あっちで取り出したり、燻製や羊皮紙など、あと、モモさんが作ったお菓子なんかを補充してくれてたりして、それを俺がポーチから取り出せること。
え?、繋がってんだから当たり前だろ、って?、そりゃそうなんだけどさ…。
そういうわけで、川原のところが時々生臭かったのはそういうことだったんだなと。
風向きは、だいたい川のほうに向かって吹くことが多いので、洗濯ものが生臭くなったりしないタイミングでやるそうだ。
終わったあとも、土魔法で作ったでっかい台ごと川のほうで分解して流してたらしいし、骨や内臓なんかは前に、ほら、森の家んとこで燻製作ったときにあったやつ、樽みたいなサイズでガガガガガガって音する機械?、に入れて肥料にしちゃうのでゴミもほとんど出ない。実にリサイクルだね。
皮とかそういやどうしてるんだろう?、まぁどっかに持ってって利用したりしてるのかもしれないか。それならそれでいいや。俺つかわないし。
夕食後、新拠点に行った。
オルダインさんたちは居なかった。
何でもティルラとホーラードへの報告隊を編成したりするので、旧第一防衛拠点のほうに話し合いに行ったんだそうだ。
特に用事があったわけじゃないので、屠殺場じゃないけど倒した魔物とかを処理してくれる場所に行って、どっさり並べたら、やっぱり文句いわれちゃったよ。
多すぎるってさ。
最近、新拠点のほうで倒して処理する魔物の数はかなり少ないらしくて、それで俺がもっていく動物型の魔物は喜ばれたんだけどね。
ここんとこトカゲが増えてばかりだから、露骨にイヤな表情されたよ。
でも皮があまり傷ついてないから、高く売れそうだとわかってくれたらしく、機嫌は直ったみたいだったけど…、何か複雑。
だって俺これ全部寄付するんだぜ?、あんたら皮剥いだら丸儲けじゃん?、感謝されこそすれ文句言われるのは何だかおかしくね?
でもまぁ、多すぎるといわれるのはわかってたし、そこは素直に謝っておいた。
ああ、トカゲ肉も食べれなくはないので――俺はイヤだけどね――それなりに需要はあるんだってさ。
だったら尚のこと、文句とかイヤな顔とかするんじゃねーよ…。
って思ったら、最近解体数が減ってたんで、業者が減ってたんだそうな。
それで手の空いてる兵士さん――のほうが多いからね、今は――が駆り出されて手伝わされるのでイヤな顔になったんだとさ。
気持ちはわからなくはないから、許してやろう。
それはそうと、前から気になってたんだけど、角サイの肉も食べるらしい。
まぁ、元の世界のサイと、なんとなくフォルムは似てるけど、たぶん生物学的には違う動物だから、聞いたときは俺も『え!?、サイって食べれるの?』って思ったけど、こっちの世界のは結構高級肉らしい。
異世界だもんなぁ、考えてみりゃ動物園で見たサイって角あったもんな。
でも牙なんて無かったし、爪もごつくないというか偶蹄目だったっけ?、だから蹄じゃん、肉食獣みたいな爪が前足にあるわけがない。
でも共通点もある。皮が非常に硬いところ。
だからこっちの世界では、サイって同じ名前で呼んでるけど違う生物で、皮は鎧などに使うし肉も食べる、爪や牙も素材として結構高級品だ。
そりゃそうだろう、角イノシシより倒すの大変だよ?、あれ。
しかも魔物だったら襲ってくるの確定なんだからさ。危険なんだよ。リスクが高いということは、値段が上がるってことだ。
角イノシシだって角ニワトリだって、似てるけど違う生物だもんな、そういうもんだって思うしかない。
とにかくポーチに入ってたトカゲは全部放出した。
角イノシシと角ニワトリは俺たちも食べるので全部は出してないけど、角サルなんかは全部提供した。
いや、サルってだけでなんか食べる気が起きないんだからしょうがないだろ。
なんか好きなひとは結構いるらしくて、数をメモってた兵士さんがその類のようで、『うわーこれ好きなんですよ、本当にいいんですか?』って喜んでたよ。びっくりした。
そう思ったら、動物型の魔物って全部食用ってことか…、皮も衣類や羊皮紙になるし、骨もなんか使うんだそうで、すごいというか逞しいというか、ね。
あ、羊皮紙だけど、いろんな皮が加工されて使われてるんだそうだ。
羊皮紙っていうから羊だけかと思ってたよ…、道理で品質がばらばらなわけだね。
数が多くて並べるのに時間がかかったのもあって、帰りはもう日が沈んで暗くなってしまってた。
魔力感知がパッシブで、目で見なくても地形とかわかるからいいけど、そういうのがなかったら月と星だけで方角やらみて飛ばないといけなかったところだ。
夜間飛行ってやつだね。
と言うほど高度をとって飛ぶわけじゃないので、そんな大したもんじゃない。
距離もそれほどあるわけでもないからね。
だから結構すぐ戻れる。
いや楽になったもんだなぁ…。飛び方がいまいち格好悪いのを除けばだけど。
●○●○●○●
夜だからって着地してから走る距離を短くして、500mぐらい手前で降りたつもりが、勢いがつきすぎてたせいで、だいぶ行き過ぎて着地して走ったんだけど、ちょうど夜の訓練やってたところだったようで、メルさんに飛行魔法(笑)がバレた。
夜の飛行だと速度の加減ができなくてさ、昼間よりスピードがでてたっぽい。
しょうがない、夜に飛ぶの初めてだったんだし。
「タケル殿、一体どんな速度で走ってるんですか?、コツとかあったら教えてもらえないでしょうか?」
と訊かれてしまっては、仕方が無い。
- それがその、実は途中は飛んでるんです。
「は?」
そりゃそう言われるよね…。
「え?、タケルさん空飛べるんですか!?」
「え!?、マジで?、すごい!、ねね、一緒に飛べたりする?」
聞こえてた2人が走り寄ってきちゃったよ。
でも今日、ダンジョンで一緒に飛んだよね?
- えっと、ほら、今日、中央東8のダンジョン3層で、一緒に飛んだじゃないですか。
「え!?」
「あれって飛んだの?」
「わ、私はあのときのことはよく覚えてないのですが…」
まぁそうだろうね。
- ほら、結界で包んで風魔法で押した、って言ったじゃないですか。
「あ、あー…」
「それって飛ぶって言うの…?」
首を傾げられてしまった。
まぁわからんでもない。
実際やってみれば実感してもらえるだろうか?
- んじゃまぁ飛んでみます?
「うん!、やるやる!」
「でもちょっと怖いような…」
「わ、私も飛べるんですか!?」
んー、たぶん想像してるのと違うって言われるんだろうなー…。
- こんな感じなんですが…、どうですか?
さらっと結界で包んで、ふわっと浮かせて風魔法でゆっくり移動してみた。
「わ!?、浮いてる!、けど浮いてない!」
「え!?、確かに飛んではいますけど…」
「立ってますよね?、結界ですかこれ、下が見えるのは怖いですね」
とか言いながら、なぜみんな寄ってきて俺の腕や裾を掴むんだろう?
既に結界の上を歩いてこっちに来てる時点でもう飛んでるのに。
- 何で寄って来るんです?
「なんとなく…?」
「不安な気がして…」
「同じく」
川小屋の上空をひと回りして着地。
- 今のでもっと速度を出して飛ぶんですが…、どうでした?
「ん~~、何か思ってたのと違う!、かっこよくない!、優雅さが足りない!」
ネリさんが言うのに頷くサクラさんとメルさん。
うん、そうだろうね。俺もそう思う。
でも『優雅さ』って何だよw
- 直線的に移動するには便利なんですよ…。
「そうかもしれないけど!、飛行魔法ってきっとあんなのじゃないよ?」
また頷くほか2名。
- そう言われても…、どんなのならいいんです?
「んー、こういう感じで、手を前にして飛ぶとか?」
- イメージとしては分かりますけど、実際にそうやって飛ぶとして、前を見ると首が疲れませんか?
「えー…、タケルさんロマンがないー…」
いやそんな事を言われてもだね。
- ロマンて……。
「例えば箒とか杖に跨って飛ぶのはどうでしょう?」
魔女か!w、英国魔法使いか!
- いや僕は杖使ってませんし…、箒…を持ち歩けと?
掃除夫?w
あ、でもメイド服のリンちゃんなら箒持ってるのはアリかもしれな…い…わけないだろ!、幾らなんでも外でまで持ち歩くのは無理があるだろう。
アパートとかの管理人さんだって建物の前以外で箒もってたらただの変な人だよ?、レが並ぶおじさんぐらいだよそんな人!
「じゃあその腰の剣で……ぷーっ!、あははは、剣に跨って飛ぶ!?、あはははいたひひひひ酷いひひひ…」
ムカついたんでデコピンしてやった。
- だいたい棒に座って飛ぶって、股が痛くなりませんか?、不安定だし。考えてみてくださいよ、鉄棒の上に跨って座れます?、動くんですよ?、くるんって逆さになりませんか?
「……言われてみれば痛そうですね…。魔女とかどうやってるんでしょう?」
知らんがな…、魔女のひとに訊いてくれ。
「くるんってはははは、タケルさんがくるんってははははひたい!っひひひどい!っひひははは…」
何を想像して笑ってるかだいたいわかったので、頭つかんでもう一度デコピンしてやった。
「背中に翼を生やすのはどうでしょう?」
メルさんまで…、一体俺をどうしたいんだ?
- 一応訊きますけど、どうやって生やすんです?
「それは…、魔法で?」
また無茶な…。
- 仮に生やせたとして、飛び終わったあとはどうするんです?
「そ、そのまま暮らせば……済みませんでした…」
- はい。
うん。わかってくれたならいい。
だいたい背中に翼なんて生えてたら邪魔だろう。
服だってでっかい穴あけないとだし、着るのも脱ぐのも面倒だろう。
仰向けに寝れないし、洗うのだって手が届かないから大変そうだ。
かゆくなったらどうするんだよ、孫の手で届くのか?、いやそういう問題じゃないか。
「あ、あの、結界や障壁の形が自由にできるのなら、それを翼にすれば…、だめでしょうか…?」
遠慮がちに上目遣いで無茶を言わないで欲しい。
そんな細かい魔力制御をするぐらいなら、他に回した方がいいに決まってる。
「それはいいですね、光る翼で飛ぶタケルさん…、ああ、最初の日のように、はっ!、い、いえ別に…」
サクラさんは一体何を想像したのか…、何となく想像つくけど触れないでおこう。
障壁を翼の形にして光らせるとか、どんだけ自己顕示欲の塊なんだよそれ…、恥ずかしいなんてもんじゃないぞ?
- 初級の障壁でもいいので、自分で形を翼にしてみてくださいよ、ただ包み込むより余程大変だってことがわかるはずです。
ということで他に代案もないようですので、現状維持で。
「「えー…」」
何だよ、不満そうだなぁ…。メルさん以外。
「空中で敵に遭ったらどうするんです?」
- たとえば?
「うーん…、ドラゴンとか?」
俺を殺す気満々か。サクラさんの想像上の俺は何と戦うんだよ?
そんなのと戦いたくないぞ?、一目散に逃げるって。
逃げ切れればだけども。
- そんなの居たら大惨事ですね…。できれば遭いたくないですよ。
「飛竜のことでしょうか?、伝説の類ですね…、タケル殿が伝説の戦いを…、ほぁぁ……」
ぱぁっと顔をあげてきらきらした目で言うメルさん。
ほんのり頬を染め手をあて、そこだけみれば可愛いお嬢さまだ。
黒い鎧姿じゃなければな。
しかもまた俺が戦うの前提だし、『ほぁぁ』じゃねーよ、この戦闘王女が…っ!
索敵魔法で周囲を感知しながら飛ぶんだから、そんな大物が居たら近寄らないって…。
だいたい空中で戦闘とか、下がえらいことになるじゃないか。
そんなの相手にするなら、地面の上で対処したいかな。
石弾じゃなくても光魔法でレーザーみたいなの撃つとかさ。
こっちが地面にいるのなら、撃ち落したとしても障壁を張りやすいと思う。
何にせよ攻撃も防御もやりようはあるだろう。
飛んだままだと制御しながらなので、攻撃に集中できないし、防御だって困る。
一応は結界で包んでるわけだから、多少は何とかなるかもしれないけれど、土魔法で重力操作をした結界・障壁を維持しながら移動で風魔法使ってるんだから、強力な攻撃をしようとするとかなり厳しいものがある。
結界が壊れたら落ちるしさ。
俺そんな処理能力高くないよ?
だいたいそんなでっかいフラグ立てて欲しくないから話を変えよう。
- それはそうと、明日はどうします?、もう1日様子みますか?
「中央東8ですか、いつまでに攻略すればいいんですか?」
- 特に期限はありませんね。強いて挙げればハムラーデル防衛隊が大岩のところに拠点を作って駐屯するときには攻略済みにしたいですね。彼らの安全のことを考えると。
「あー、そうですね、なら余裕はあるんですね」
ん?、何かやりたいことでもあるのかな。
- 何か用事でも?
「私が報告書を書いているのはご存知だと思いますが、それに今日のことを追加して、オルダイン団長たちと今後のことを話し合いたいのですよ」
- なるほど。
忘れてたけどサクラさんってティルラ第一国境防衛隊の担当勇者だったもんな。
ということはネリさんもかな?、と思いつつちらっとネリさんを見た。
「あたしは特になーし!、あいたっ!」
「なーし、じゃない!、もう!」
「だって第二防衛隊だった星輝団はもう無いし、金狼団に吸収されちゃったじゃないですかー、だったらサクラさんと報告先がおんなじなんですよー?、だったらあたしはもう報告しなくてもいいじゃないですかー…」
叩かれた後頭部に手をやり、口を尖らせてそんなことを言うネリさん。
わからんでもない。
でも報告先が同じだからといって報告しないってのはどうなんだろうか?
ってかネリさんそういえばずっとここに居座ってて帰ってないですよね?
「合併吸収されたからといって、地域担当勇者の報告義務が無くなるわけではないのだから、ネリもちゃんと報告しなさい!」
ほら言われた。サクラさんの口調もぶれぶれだ。
こういうのがネリさんが知ってるサクラさんの口調なのかな?
俺からすると違和感がめっちゃあるんだが。
「えー、だって報告書なんて書いてないもんー」
「じゃあ私と同行して報告なさい。今晩あれば少しぐらい書けるだろう?」
「えー、ずーっと帰ってないのにー…」
「一体いつから帰ってないんだ?」
「星輝団が捕まってから…」
ほう、帰ってないという自覚はあったのか…?。
むしろ故意犯だな。うん。
「呆れた…、ならばそれから私が帰還するまでのことを書きなさい」
「えーー!、そんなの覚えてないよーいたっ!」
「ネリもだいぶ勇者の自覚がでてきたと思っていたのに、どうして…、タケルさんのせいなのか!?」
「え!?、た、タケルさんは関係ないんじゃ…?」
そうだそうだ、こっちに振らないで欲しい。
「一体どれだけ甘やかされていた?、昔のネリにすっかり戻っているではないか…」
「それを言うならサクラさんだって、いたっ!、もーサクラさん厳しすぎー」
溜息をつくサクラさん。
まぁ、気持ちはわかる。ビシビシやってほしい。
「口頭でいいから報告なさい。とにかく付いて来る事。いいね?」
「はーい…」
それで明日は朝から走っていくそうだ。
ネリさんが『スパイダー』で送って欲しいとか言ってまた叩かれてたけど。
今のところ、リンちゃんだけが運転手なんだよね、送っていくように頼んでも良かったんだけどさ、叩かれてたし。
え?、俺?、やだよ、前のより出力上がってんだよ?、『スパイダー』。
そんな高級スポーツカーみたいなの、運転したかねーよ、怖ぇじゃん。