2ー047 ~ トカゲのゾンビ
あれから散々だった。
ゴキゲン過ぎるウィノアさんまで出てきて、そんで石英ガラス像のことがバレてしまい、でも等身大はもう今日は無理、って言ったら、そんな大きさのはあっても邪魔だけど、小さい像なら作ってほしい、と迫られ、結局また河原で熱い思いをしながら作ることになった。
俺だったら、溶けてしまう氷像や雪像ならともかく、ずっと残るような素材で作られるなんて、恥ずかしくてものっそい抵抗があるんだが、皆は平気なのか?
メルさんは王族だから、肖像画を描かせたりする文化で育ったかもしれないので、それはいいんだけどさ。
サクラさんとネリさんは何なの?、もしかして勇者としてやっていくうちにあちこちで肖像画なり石像なり作られたとかで慣れた?、いやいやそんなことは…、まぁいいか。
それぞれ、サクラさんは氷像にしたものの小型版、居合いの構えで袴姿のものをご所望で、ネリさんは上を指差して腰に手をあてて、脚を『々』みたいにしたポーズをご所望。
ってこれどっかで見たようなポーズなんだが…、いいのか?
メルさんは、勇ましい格好で、とまた抽象的な注文で、最初に思ったナポレオンの突撃ポーズ?、って言うんだっけ?、知らないけど教科書にあるような絵柄あるやん?、あっちは斜め上方向を指差してるんだけど、ネリさんは『サンダースピア』を持たせてみた。
そんで馬が前足を上げてて、ナポレオンはこっちむいてるやつ。
マント付きのほうがカッコイイよな、だからちょっと想像を補佐するために、鎧を着てもらって、布を羽織ってマントのイメージにしてもらった。
馬はイメージ的にはあるので、ってかあのポーズ自体は教科書とかで有名だし、何とかなった。
土台から支えが必要じゃないかなと思ったので、馬の胴体下には太い柱で支えるようにしたけど、文句は出なかったので問題ない。
しかしどれも細い部分がペキとか折れたりしそうで怖いな、デザインミスったかな…?
折れてもまぁ、元通りはちょっと難しいけど、くっつけるのはできるかもしれないからいいか…。
え?、リンちゃんだけが無いって?、ああうん、リンちゃんのは作らなくていいってさ。
やっぱり残るの恥ずかしいよね?、自分の像を部屋に飾るとかちょっと…。
俺は自分が写ってる写真すら、部屋に飾ったりしたくない方だったし…。
そういえば観光地とかで、勝手に写真撮って売りつけてくる外国人居たよね?、あれ断るとすごいイヤミ言われたりしたんだが、運が悪かったのかな…?
海外では下手すると囲まれて脅されたりすることもあるらしいけどさ、ああいうのみんなどうしてるんだろうね?、隙を見せるなってことか?
また話がそれてしまった。
偶然だけど、サクラさんのはほんのりピンクに、ネリさんのはほんのり黄色に、メルさんのはほんのり緑色になったので、そりゃもう3人の喜びようったら輪をかけたようになってて、俺は大変疲れたので、風呂に入りなおしてさっさと眠ったよ。
ああ、作った時間がもう遅かったので、あたりは暗くてね。色がほんのりついてるのを知ったのは、小屋のリビングに入って明るい所で見てからなんだ。
だから、『輪をかけた喜びよう』ってわけ。
そのとき俺は湯船にいて、頼んでないけどウィノアさんがマッサージしてくれてた。
半分眠ってたからな。まぁおかげで疲れはとれたよ。
何かいい夢見た気もするし。
●○●○●○●
翌日。
いつものように朝の訓練をしたあと、朝食を食べ、まだゴキゲンが続いている連中と一緒に、中央東8と、その南の収束地らしき場所の処理に向かった。
リンちゃんもなんかゴキゲンだったんだけど、なんだろう。
皆の雰囲気にひっぱられたとか?、まぁ、機嫌が悪いよりはいい。
それで『スパイダー』の車内で3人に精霊さん産の水筒、軽金属製のやつね、あれを渡したんだけどさ、うん、反応は微妙だった。
非常用だから、って説明したのに、『皮の水筒よりはよさそうですね』なんて言う程度で、全然嬉しそうじゃないんだよね。
あ、もしかして、別行動前提みたいに受け取られたのかな…、ってか今だって俺が頼んで一緒に行動してるわけじゃないですよね?、いやもちろんそんな事は言えないけどさ。
今は、ティルラ国境防衛任務の続きでもあるので、一緒に行動するのはわかるし、ダンジョン内部の分岐路や広い部分の調査探索などで、リンちゃんと2人だけだったら面倒だなって思えるような箇所なんかを手伝ってもらったりできるので、正直助かってる部分も無いわけじゃ無い。
だから今のところはむしろ一緒に行動してもらえるのは歓迎な部分もあるので、別行動前提っていうよりは、万が一はぐれてしまった場合のことを考えて、なんだけどね…。
それにこういうサバイバルグッズって、嬉しくない?、俺だけ?
え?、お前水魔法で出せるんだから水筒不要じゃね?、って?
そうなんだけどそれはそれ、これはこれじゃないか。
あ…、そういえばもうみんな初級の水魔法使えるんじゃん。
だから反応が微妙だったのか…?
そんでネリさんが『タケル水入れてください!』って言ったんで軽くデコピンしてやったんだけど、『いたひひひ、ひどいひひひ』ってデコを抑えながら笑いながら、涙目で『レモン水入れてください…』って言い直してさ、樹脂製のものならともかく、金属製の水筒に酸やアルカリってダメだよね?
そう言って断って、一応注意はしておいたんだけど、どうだったかちょっと自信がない。
あ、メルさんだけは、『金属製の水筒とは素晴らしいです、継ぎ目が見当たらないのですがどうやって作ったんでしょう?』と、布カバーを一部めくって興味津々だった。
渡しちゃマズかったかな…?、俺もそんなの継ぎ目がない製造方法なんて知らないし。
そして、まず収束地らしき場所を先に調査した。
ダンジョン化していた。でも2部屋と通路しかなく、1層のみ。
そしてジャイアントリザードが十数匹と卵だけ。
「まるでトカゲの巣でしたね…」
そうサクラさんが言うのも頷ける。
大岩のダンジョン2層、中央東7のダンジョンの1~3層には動物型の魔物は居た。
だけどもう外で動物型を見かけないんだよね。
中央川の南ではね。
大型の亀は中央東7には居たが、1~3層でたった1匹しか居なかった。
索敵魔法で調べてるけど、大型の亀が地上に居ないんだよね…。
どういうことなのか、考えてもさっぱりわからん。
とにかくやることは同じなんだから順番にやっていくしかないのだ。
そして中央東8だ。
ここも4層が存在した。ダンジョンの位置的にみてもそれぐらいの規模は予想していたことだけども。
それでまだ4層に入ってないので最下層かどうかはわからない。
今までの例からわかるように、どういうわけか層を跨いでは魔力感知できないんだよね。あのもやもやの境界は魔力が通りにくいのかもしれないね。
試したわけじゃないけど何となく。
で、このダンジョンだけど、動物型が全く居なかった。大型の亀もいない。
全てジャイアントリザードだった。
1・2層はほとんど角あり、角なしは1・2層のボスのように最奥の部屋に1匹ずつ居た。
3層からは各部屋に1・2匹で角なしを従えているような感じだ。
そんで角ありよりも角なしの方が1周りぐらいでかい。
以前に最下層で見かけた角なしは、ぱっと見では気付かない程度のサイズ差だったと思う。中ボス的なのは居たけども、それは頭1つ分程度大きいな、って程度だった。
でも今回、中央東8の角なしジャイアントリザードは、肩から上が角ありのものよりも抜きん出て大きいんだ。ひと目ででかいとわかるサイズ差。
そうなるとはっきりと狙いやすいので、石弾で真っ先に倒してる。
警告音を出されたら厄介だもんね。
そして今までと違い3層は、例の、巣のような構造になっていた。
中央に大きい部屋があり、周囲に隣接する小部屋が10個もあった。
それぞれ2匹ずつが中に待機していて、そこには卵がいくつかある。
さらには、その構造が小部屋を間に挟んでもうひとつあったのだ。
もちろんそこまで到達するまでに小部屋がいくつかあって、巡回してる小隊3・4匹もいたりして、それなりに先に倒したからこそのさっきの情報なわけだが…、大量のトカゲにサクラさんのテンション――この場合はモチベーションというのが適切なんだけど――はダダ下がりで、それでもちゃんと戦ってはくれるので、それはいいんだけどね…。
この3層の構造上、分岐に俺が進んでいる間に本筋を進んでもらう、というやり方ができないのだ。
まず、小部屋が隣接している部屋を『巣部屋』と呼ぶことにすると、その最初の『巣部屋』に行くまでに分岐がない。
分岐は最初の『巣部屋』にあって、中央が本筋、左右にそれぞれ分岐、となってる。
だからその『巣部屋』をまずどうにかしないと、別行動ができないのでサクラさんたちにあまり出番がない。小部屋の調査ぐらいなんだよね。
そして、最初の『巣部屋』からほんの100mほどの通路で小部屋があり、その奥にまたほんの100mで2つ目の『巣部屋』に繋がっているんだ。
真っ直ぐの通路じゃないから見通しができるわけじゃないが、たった100m程度では、戦闘中に警告音を出されると連絡されちゃうんだよ。
なんせ『巣部屋』にはトカゲが多いからね。できるだけ早く処理しようにも、隣接している小部屋にいるものは狙いにくいのでどうしても処理が遅れてしまうんだ。
現に連絡され、いわゆる『リンク』状態となってしまった。
位置をソナー魔法ではっきり認識をして、そこに石弾を同時に狙いをつけ、それぞれ異なるカーブを風魔法補助で描いて、というのも考えたんだが、試しに死体に向けてやってみると、全然ダメだった。
カーブさせると速度も威力もガタ落ちなんだよね。
いつもスパスパ撃ち抜いてるけれど、あれは直線だからであって、曲げて当てる場合は結構硬いジャイアントリザードのしかも頭部なんて撃ち抜けない。
首や心臓などの部分ですら、ダメじゃないかな?、首のところなら何とかなりそうだけど、角度や姿勢によっては狙えないし。
なので曲げて当てても倒せないってわけ。
まぁ、異なるカーブを描いて同時に処理ってのにも正直自信がない。
2・3個ぐらいならともかく、今回で言うと少なくとも10部屋に2・3匹なので最低20匹をそれで狙うことになる。
どう考えても、俺の処理能力を超えてるね。うん。
そして2つある分岐の先にも小部屋があり、そこからまた『巣部屋』につながっていたわけで、『巣部屋』が合計4つもあったってわけ。
で、それらが警告音でリンクすると、そりゃもう全部がぞろぞろと最初の『巣部屋』にやって来ることになる。
そんな3方向と隣接10部屋からぞろぞろ来るやつを――通路から一歩踏み出して先制攻撃したんだけどね――同時に相手なんてできないから、通路に引き下がりながらスパスパとリンちゃんと俺とで撃って倒してた。
ところが出てくるやつらの速度が結構あるので、結構近くまで寄ってきてしまうのが居た。
盾役なんていないけど、近接職という自覚がある者が3人いる。
でも3人が前に出てしまうと、さらに後ろから来るトカゲを撃つのに邪魔になるんだよね。
広い場所ならいいけど、通路側へ引っ込もうとしているので、射線がとりづらいんだ。
実際、メルさんが中央で左右にサクラさんとネリさんがさっと出てくれて、防御陣形になり、俺とリンちゃんはその後ろで敵を撃ってたんだけど、やっぱり撃ち辛かった。
中途半端に攻撃を当てると、姿勢が崩れたやつが反撃で尻尾攻撃をしてくる。
そしてさらに後ろにいたやつがそれを飛び越えて、襲い掛かってくるんだよ。
ジャイアントリザードって言うぐらいなので、普通のやつでも2mぐらいはある、横幅もそれなりにあるわけで、そんなのが飛び掛ってくるんだから重量的にもサイズ的にも邪魔になる。
ぶった切ったりしても邪魔だし足場も悪くなるわけだ。
もちろん即死させられなかったら割り込まれることになるんだから厄介になる。
それでフォーメーションが崩れたりすると、そのままずるずる乱戦状態になってしまうかもしれない。
それでも何とかなるぐらいの力量はみんな持ってるだろうし、致命的なことにはならないとは思っているけれど、だからといってそうなるのを容認するわけには行かない。
仕方がないので、きれいに倒すのを諦め、声をかけて俺が前に出て、無差別に石弾を数百発ばら撒いてなんとか通路側に引っ込むことができた。
あと2・3人、勇者か達人級がいるなら『巣部屋』に踏みとどまって俺とリンちゃんの周囲を守る形で対処できたと思うんだけど、さすがに3人ではそんなフォーメーションは敵の数が多すぎて厳しいと判断したわけ。
土魔法で1匹ずつ通れるように通路を狭めて、出てきたやつをスパッと撃ち抜いて倒す安全策でやりながら、打ち合わせだ。
- すみません、手際が悪くなってしまいました。
「警告音はどれが出したんですか?、『カッカッカッカ』って響いて聞こえたんですが、どれが出しているのかわかりませんでした」
「奥の小部屋に居た2体が出したようです。通路が直線じゃなく曲がっているので目視はできないかと」
おお、メルさん、もうそういうのが感知できるようになったんだ。
いや、それを喜んでいる場合じゃない。
- いつものように地図に焼いておきながら、トカゲの数も知っていたのに甘く考えていました、本当に申し訳ないです。
「ま、まぁ、みんな無事だったんだし。時間はかかるけれど今の方法で倒しきることだってできるんだから」
珍しくネリさんが慰めてくれてる
「あのままずるずると乱戦や混戦になるのかと心配しました。ここに退却できてよかったと思います」
サクラさんも。
メルさんは少し不満そうな様子が…。
- メルさんは、暴れ足りませんでしたか?
「そ、それはどういう意味でしょうか?、タケル殿は一体私を何だと思ってるのですか!?、確かにその、試したい技があったのは否定しませんが、いくら私でも傷つきますよ!?」
おおぅ、迫ってきた、場の雰囲気を和ませようと振った相手が悪かった。
まさか図星だったとか?、いやいやここでそれを言ったらダメだろう。
素直に謝ろう。
- あ、ごめんなさい、でもメルさん魔力感知がかなり上達したんですね、警告音を出した2体の位置がわかるなんて。
「はい、以前はわからなかったことが今ならわかります。
それどころか戦闘中でも周囲の状況がはっきりわかるようになりました。
そのおかげで間合いもとりやすくなり、敵の影に隠れて来る敵の位置もわかり、とても戦いやすくなりましたね。
目に頼らずに気配で察知するのはできていたつもりでしたが、こうも段違いに察知できるように上達できたのは、リン様やタケル殿の御指導のおかげです」
そう言って右手を胸にあて、誇らしく微笑んで敬意を表すメルさん。
- メルさんが日々研鑽してる成果ですって。それはそうと、ここからどうしましょうね?
言いながらまた1匹、隙間を抜けて来ようとしたジャイアントリザードを撃ち抜いた。
「あと何匹いるんですか?」
- 今のでだいたい60ぐらい倒したはずなんですけどね、それが、きれいに倒したはずの個体が、また動き出してるような…
「「「え!?」」」
まぁそりゃ驚くだろうね。
俺だって薄っすらと感知できてなければ驚くし。
- 少し正面のところを狭くしたのでわかりにくくなってるんですが、4層から『生』の角を大量に運び込んでるやつがいるんです。
そいつが、きれいに倒した個体に角をいくつか取り付けていて、それが動き出してるんですが…。
「それってトカゲのゾンビってこと?」
- そうですね、そう考えていいでしょう。
「あの…『ゾンビ』とは何でしょうか?」
由来とかよくわからないけど、ブードゥー教の何とかだっけ?、まぁそんなの説明しても伝わらないし俺もよく知らないので、何らかの魔法や魔術で死体が動くようになった、アンデッドと言われる魔物のことです、と説明したら伝わったようだ。
「アンデッド、確か王城の図書室にある物語にでてきたような…」
「あるんだ?」
「骸骨が剣や盾を持って襲ってくる物語でした。小さいころに読んで、夜眠れなかった覚えがあります」
「そんなの小さいときに読んだらちびっちゃいそう」
「ち、ちびってません!」
仮にも王女様に何てことを言うんだよキミは…。
「まぁまぁ、メル様、落ち着いてください。ネリも余計なことを言わない」
「ごめんなさーい」
今日のメルさんは弄られキャラだなぁ…。
- ゾンビなんて感知したことなかったんですが、魔力的にもかなり違いますね、これは。
動きも精彩を欠いていますし。
「とにかく、それが何であれ、倒したはずのものがまた動き出したなら数が増えるってことですよね?」
- それでも限度はあるはずなので、やりかた次第では突破できそうです。
「どうやるんですか?」
- もうどうせさっき無差別に石弾をばらまいたので、死体回収はしなくてもいいかなと。
「ああ、皮ですか…」
ここまでに倒したのはポーチに収納していってたからね。
でも俺のお金になるわけじゃない。
だって防衛隊の騎士団にもってって、今更お金を受け取れないじゃないか。
- それに結果的には埋めてしまいますし、水分を抜いて粉砕しておけばダンジョンごと埋めてももう復活しないでしょう
「恐ろしいことを考えるんですね…」
干からびていくトカゲの死体の山でも想像したんだろうか…?、渋面になったサクラさんを見ながら、俺も想像してしまったので複雑な気分。
- 言わないでくださいよ…。
で、当面は、そこの隙間から、中を焼き尽くす…、のはまずいので、逆に温度を下げましょうか。
「この槍で広範囲雷撃をするというのはダメでしょうか?」
- 雷撃はいい方法だと思うんですが、雷魔法だと発火してしまう恐れがありますし、こういう空間だと地面や壁などに雷撃が逃げるんですよ。撃ち漏らしのことと、発火してしまう可能性のことを考えると、低温にして凍らせるほうがいいと判断しました。
「なるほど、わかりました」
もしかしてかなりできるようになったから、試してみたかったのかな?
さっきも『試したい技がある』って言ってたし。
敵が密集しているとかなり有効なんだけどねー、でもここは洞窟なので、酸素をごっそりと減らす燃焼系や発火するような攻撃はやっぱり避けておきたい。
- んじゃ早速。
少し隙間のほうに近づき、向こう側からこっちに近づいてくるやつを一匹撃ち抜く。
結界を張って、見えている向こう側に魔法の作用点を…と、低温にして風魔法で吹きつけるように…、なかなか大変だなこれ。
「あ、トカゲが奥に逃げていくようですよ?」
逃げるやつはゾンビじゃないトカゲだな。逃げないやつはゾンビだ。
逃げ遅れたトカゲと、ばらけてる死体とゾンビとが凍っていく。
あれを砕かないとなんだけど、どうやって砕こうか…?
- リンちゃん、ちょっと手が放せないから、凍ってるトカゲを粉砕したいんだけどお願いしていいかな?
「はい、タケルさま。でも目の前の結界が…」
- ん、結界の向こう側から魔法の始点設定できない?
「そんな器用なことができるのはタケルさまぐらいですよ?」
- それだと結界を解除しても、向こうの部屋の中に魔法を発動させられないってこと?
「他人が張った結界がなくて見えている場所なら可能です」
ああ、俺が張ったからか。なるほど。
俺だとリンちゃんが張った結界や障壁を越えて作用点を設置できるもんな。
何でだろう?、あまり考えたことなかったけど。
- あ、そうだよね?、でも結界を解くと、超低温の空気がこっちに来るかも…
「いえ、それは少しの間なら大丈夫かと」
- ん?、ああそっか、あっちを冷やしたから気圧が下がってるのか。
んじゃタイミングを合わせて、部屋の中心から衝撃波ってできる?
「はい、では練ります」
小声でものっそい早口の詠唱を開始するリンちゃん。たぶん精霊語だろうね。
- 発動準備ができたら秒読みしてくれるかな?
リンちゃんが詠唱しながら頷く。
「何か大変ですね」
「ネリ、今は黙って見守るものよ」
- 本当は僕ができればいいんですが、結界と低温の維持と気流操作だけで、他のことをするのが厳しいんですよ。
「タケル様が恐ろしく高度な魔力制御をしていることは見ていてもわかります、なのにそれだけ話す余裕があるんですから…」
メルさんは俺が何か魔法を使うときって、いつもこうして真剣な眼差しで見てるんだよね…、勉強熱心っていうかなんというか。
- それが、実はあまり余裕はないですね。
「タケルさま、秒読み開始します、5・4・3・2・1・今!、EYF{HS%HR”{_=D@)Y!!」
リンちゃんから魔力がぶわっと膨らんだ!
解除した瞬間、気圧差で急激にこっちから向こう側へごぉっと強風が流れた!
結界の向こう側、『巣部屋』の中心部に魔法が収束し発動!、
急いでこちら側に障壁を張り、結界を張り直した!
と同時に何かが爆ぜた!
うぉ、地揺れがひどい!、障壁と結界のおかげで直接の音は聞こえないけど、ダンジョンの壁を伝ってきた音もひどい!
あ、『巣部屋』の天井が崩れて…、リンちゃんどんだけ魔力篭めたのさ…。
リンちゃんを見るとやっちゃったかもthprってやってた。可愛いけど…。
やりすぎちゃったのね…。
あ、やば、こっち側も崩れそう。
といってもまだ揺れてて歩けない。
リンちゃんに転送を…、だめかペンダント配ってない。
しょうがない、障壁チューブにして内側でみんなを結界で包んでなんちゃって飛行魔法(笑)を発動!
急いで3層入り口まで戻ろう。
「え!?、地震!?、な、何なのー!?」
「えええええ、ひゃーー!}
「はわわ~っ!」
驚き方も三者三様だなー、リンちゃんは俺にしがみついてたけど。
メルさんは『はわわ~っ!』って言いながら俺にしがみついてきたよ。
リンちゃんとメルさんに挟まれて、っていうかメルさんはしがみつくときには身体強化をOFFにして欲しかった。
やば!って思ってすぐ強化が間に合ってよかったよ…、腰から下が粉砕するところだった…。
リンちゃんはメイド服だからしがみ付かれても柔らかいからいいんだけどさ、メルさんは全身鎧だからしがみ付かれても硬いだけで柔らかさのかけらもない。
全然うれしくないね。
背中んとこに兜の庇が刺さって痛いし。
- ここまで来ればさすがに崩れてこないね。皆大丈夫?
「びっくりしました、何だったんですか?」
サクラさんが隣にいたネリさんにしがみつかれたまま、尋ねた。
- こちら側の通路までが崩れてきたので、急いで障壁を張って、皆を結界で包み、その結界ごと風魔法で押したんです。
何分切羽詰っていましたので、説明するヒマがありませんでした、すみません。
「い、いえ、助けてくださってありがとうございます、ほら、ネリ、もう大丈夫だって」
「ほぇ?、いまの地震は?」
- それはリンちゃんの衝撃波魔法で『巣部屋』の天井が崩れて起きた地揺れですね。
「はー、良かった、大きな地震なんて久々だからすごく怖かったよぉ…」
「ネリは大きな地震の経験があるのね…」
「うん…」
「私は無いから、怖かったけどそれほどでも…」
- えっと、自然災害じゃなく、人災なので…。
「あっ、そうでしたね」
- 言ってみれば家の前の道路に重いトラックが通ったようなもんです。
「その例えはどうかと思うけど、自然災害じゃないってことはわかったわ」
- はい。で、メルさん?、メルさん?、大丈夫ですか?
メルさんはまだ俺にしがみついたままだった。
リンちゃんはとっくに離れてるけど、しょうがないなーみたいな目で見てる。
「はっ!、た、タケ、様、そ、その、は、はず、かしなが、そ、」
- 落ち着きましょう、一度深呼吸を。
「は、はい、ふぅー…、すー…、ふぅー…、すー…」
おかしいなぁ、今までだって俺がダンジョンを埋めるときに後ろに居たよね?
あのときだって多少は地揺れになってたはずなんだけどなー。
やっぱり規模が大きかったからかな?
- 落ち着きました?
「はい、ありがとうございます。あ、足に力が入りません…」
- んじゃそのままで構いません。これからどうするか、ですが2通りありますね。
ひとつは、2層に戻ってそこでいつものように小屋を作ってしばらく待機して、それから3層を掘り進んで攻略の続きをする。
もうひとつは、今日のところは中断して川小屋まで戻って、日を改めて出直す。
僕としては後者でいいかなと思っています。
どうでしょうか?
「はい、タケルさんの言うように日を改めるほうがいいですね」
- メルさんは?
「情けないところをお見せしてしまって恐縮です。出直してもらえると助かります」
- わかりました。では今日は戻りましょうか。
そう言ってメルさんをひょいっと抱き上げて2層に移動した。
「え!?、わ、ありがとうございます…」
そんな赤くなる要素がどこにあるんだろう…?
だってアナタほぼ全身鎧じゃないですか。
抱き上げてお姫様抱っこしても俺にとっては全然嬉しくないよ?、硬いだけ。
「あっ!、メルさんいいな、いいなー」
キミは普通に歩いてるじゃないか。
メルさんは地面が大きく揺れるなんて、知識としてすらあるかどうかってところなんだから、脚に力が入らなくなってもおかしくないんだよ。
- こういうとき冷やかすようなことを言わないの。
「はーい」
さっきあれだけビビってたのに、もう平気なのか…。
立ち直り早いなぁ…。
20180816:この時点では4層が最下層だと確かめてはいないので訂正。





