その12 爺ちゃんと四次元力
第三者視点です。
ここはイケメンスイッチの中。
石で出来たような巨大な神殿風の内装だ。
V(荒川武威)は目の前の、自分とよく似た白髪の祖父である武玄と修練を重ねていた。
少し離れた場所には、巨大な六本腕の女性シャンバラが玉座に頬杖をしながら眠っている。
2人はそんなことはお構いなしで修練を続けていた。
型稽古のようなものを二人で一通り行った後、白髪の武玄は満足げに頷く。
「なんでえ、荒神流は一人前じゃねえか。俺がいなくなってからもそれなりにやってたんだな。これなら安心したぜ。すぐに真荒神流を始められそうだ。」
そんな武玄に、Vはまじめな顔で練習後の礼をすると聞いてみた。
「爺ちゃん、荒神流と真荒神流は何がちがうんだ?」
「そうよのお、荒神流は意識の集中と関節の稼動範囲がすべてだ。
だが真荒神流は体内のエネルギーと外のエネルギーを利用して、自分を神通力そのものにして戦う感じだな。」
「訳がわからないな・・・ま、やってみるしかないってことかな。」
「わかんねえか?。だがたしかにやってみるしか無ええかもな。技は荒神流と同じだが中身や現象がかなり違うんだ。だから、おめえの荒神流をこれから改造するぞ。おめえの常識を捨てて俺の言葉を丸々信じろ。いいな。」
「Ok爺ちゃん、イケメンスイッチの中で疑う非常識なんてないから安心して教えてくれ。」
「かっかっか、そりゃちげえ無えな。ここで非常識なんて確かに無えや。じゃあ教えてやらあ。最初の改造のツボは感覚さ。俺達は動いたものに反応する『反射』か相手の動きから次を予測する『読み』で攻防するわけさ。『読み』をさらに積極的に利用すると『誘い込み』っていう罠になるし、相手の読みを裏切ることで反射を遅らせて攻撃を当てる『反応できない攻撃』とかを行うじゃねえか。だがこれじゃあ不十分さ。シャンバラ様がなぜ人の運命を操れると思うよ。そりゃあシャンバラ様は時間を無視して知覚できるから、先に布石を置けるのさ。」
「おお、なんか面白いな。つまりシャンバラさんに出会うことで、今の時間軸を無視した感覚を持てる事に開眼したわけだな。」
「おめえ察しが良いじゃねえか。だいたいなんでイケメンスイッチで人が爆発すると思うよ。ありゃあ結局のところ運命の結末なわけさ。神秘の力といったってえ理屈はあらあな。俺はその理屈を根気よくシャンバラ様に聞いたのさ。そしたら驚くじゃねえか。あの爆発は何万という偶然が重なって起きる自然現象だってえ話だ。その何万ってえいう偶然を束ばねて運命を操るのがシャンバラ様の5次元力っていいうものらしいぜ。」
「すげえ、爺ちゃんすげえよ。いまかなり感動したよ。イケメンスイッチにそんな理屈が有ったなんて・・・。じゃあその5次元力ってなんなんだ?。」
「おう、そこがツボさね。俺達の力は今を立体的に影響を与える3次元力さ。これは道に書いた線(二次元)とかならジャンプして飛び越えられる力さ。で4次元力ちゅうのはどんなに立体的な壁だろうと。その壁が存在しない時間まで行って通れば、それが4次元力さ。」
「ほお、なるほど。で5次元力は?。」
「わかんねえ」
「え?」
「わかんねえよ。つまり世界の始まりから世界の終わりまで存在する大きな壁を越える力だ。立体的に時間を移動して動いて避けるようなものらしいが、ぜんぜん分からねえ。だから俺は5次元力を手に入れることはあきらめたよ。」
「ああ、まあ3次元の俺達が二つも上の次元を理解するのは無理だよね。」
「そういう事でえ。だから俺は4次元力を荒神流に取り入れたのさ。4次元力だけでも3次元では無敵になるって寸法さ。」
「なるほど・・・。で爺ちゃん、具体的には何をすれば良いだ?。」
「理屈は簡単だ。じっさい過去の達人の中には4次元力に手が届いた連中が沢山居る。だからコレはおめえにすぐ出来るはずだ。大事なのは予想するんではなく、相手が動く前に未来の時間を『知覚』することだ。相手の攻撃が来る時間を避ければどんな早い攻撃でも当たらねえし、相手にパンチが当たってから殴ればどんなユックリで大振りな攻撃でも当たるしかねえ。わかるか?。」
「イメージは分かるけど・・・・それってESPに近いよな、俺にできるかな・・・。」
「け、ESPたって自然の法則の上に起きる産物だ。突き詰めりゃあ不思議はねえ。そんな小せえ事で身構えるな。」
「そうか・・・そうだな。芽衣みたいな可愛い女の子にできて俺に出来ない理屈はないよな」。
「そうよ。それにこりゃあ突き詰めるとスゲえんだぞ。知覚ができたら次は物理的な攻撃力にも応用できんのよ。考えて見ろ。パンチを撃つ0.5秒前に衝撃が届いたらヤベエだろ。それに撃ってから数秒遅れてそこに衝撃がきたら時間差爆弾みてえで恐ろしい攻撃よ。どうでえ4次元力は。」
「凄い!爺ちゃん、まじ凄いよ。4次元力さえあればソコソコの実力者なら無敵じゃん。」
「そうよすげえだろ。鉄砲の弾だって恐れる必要がなくなるぜ。弾が飛んでくる時にそこに居なけりゃ良いんだからよ。それに俺は物理的な4次元力はせいぜい0.5秒程度しか時間差を作れなかったが、それだって恐ろしい時間差よ。4次元力の知覚と組み合わせりゃあ、向こうの攻撃は絶対あたらねえしこっちの攻撃は絶対あたるんだからよ。」
「やべ、興奮しすぎてすこし鼻血が出そう、凄いよ爺ちゃん。俺はワクワクしてきたぞ。」
「さすが俺の孫だぜ、この凄さに鼻血がでやがるか。4次元力を少し使う程度だったらシャンバラ様の力は要らねえ。人間の力だけで可能だ。これだけだって十分に荒神流が10倍は強くなるだろ。」
「おう、すげえパワーアップだよ。。」
「じゃあ試して見るか」
言うなり、武玄は大降りにパンチを打ってきた。
Vがそれを受けようとしたとき。
どごん!
「ぐはっ!」
衝撃がVの顔面を捉えた。
そして次の瞬間、武玄の拳が振りぬかれる。
0.5秒、衝撃だけが先に届いたのだ。
Vは急いで反撃した。
Vのパンチは武玄の顔面を捉えた・・はずだった。
しかしまるで何も無いかのように拳がすり抜け、それから武玄は顔を動かす。
武玄は4次元力を使い、0.5秒遅く相手の攻撃を避けたのだ。
さらに武玄は普通にワンツーパンチの連打を打ってきた。
Vは素早く左右に避ける。
しかし2発目を避けたとき、またVの顔面を衝撃が襲う。
どご!
「ぐわあ!。」
これは最初の一発目が0.5秒遅くきたのだ。それなのに最初の一発目のパンチが通った空間にVが移動したので時間差の衝撃が襲ってきたのだ。
思わずなすすべも無く倒れるV。
それを見下ろし武玄は言う。
「どうでえ、味わって見ると恐ろしいだろう、4次元力ってやつあよ。0.5秒だって俺なら5回は攻撃できるから、相手にとっちゃ致命的なんだ。」
「いてて、マジ凄いな。これは4次元力を知らない人間だったら、死ぬしかないな。」
二人が会話で盛り上がっているとき、通信機がピーピーと鳴る。
武玄はニヤニヤしながら
「おうおう、また可愛い俺の孫からラブコールかよ。隅に置けねえな。」
などというので、Vは「うっせえ」とと言いながらスイッチを入れた。
「あ、どうしたのさ友美ちゃん。なんかあったのか?」
すると友美が妙に早口で話してきた。
『Vさん、急いでイケメンスイッチの外を見れますか?ちょっと興味深い戦いが見れますので出来たら急いで見てください。』
Vは急いで、シャンバラが出しっ放しにしていた外を見るモニタの傍に行き画面をつける。
すると・・・眼下でロボットと兵士が戦う姿が目に飛び込んできた。
武玄も興味深そうに画面を見る。
「これが、友美の言っていた美メン教団のロボット人間か。ペルシアの華部隊はボロボロにやらているな。玄太君はこれを一人で10体以上倒したんだろ。今戦っているペルシアの華の部隊は雑魚部隊なの?」
『いいえ、Vさんが居ない私を守るために新しい護衛隊候補を各国の支部がつれてきたんですが、今戦っているのはその護衛隊候補の人たちです。』
「なんだよ、ロボットにボロボロにやらてるじゃん。これじゃあ護衛になれないな。護衛は玄太君でいいんじゃないの?玄太君は今は人類最強候補だぞ。」
『玄太は嫌ですよ。気持ち悪いんですもの。』
少し離れた場所から『豚太なんか嫌だよ』と言っている芽衣の声もマイクに入ってくる。
すると、さらに友美のマイクの後ろから聞きなれない声の女性が『私にも話をさせて!少しでいいから!。』というのが聞こえた。
そして少ししてその聞きなれない女性がマイク越しに話しかけてきた。
『あ、あの武威さん。私はあなたに助けてもらった早川莉奈だけどわかる?。そっちでも元気そうなのね、安心したわ』
早川莉奈とは、前にVが風俗店に遊びにい行った時に風俗嬢で、源氏名は「りな」。その正体はイケメン爆滅団の殺し屋だった女だ。
Vに捕獲された後、夏子にはかなり酷い拷問をされていて恨んでいるはずである。
「ああ莉奈ちゃんか。元気にしている?・・・っていうか友美ちゃんと一緒にいるの?何かあったの?。」
『ええ、この娘たちがヤバかったから私が狙撃で助けてあげたのよ。武威さんも私に感謝してよね。』
「そ、そうなんだ、ありがとう。君はもう普通の生活をしていると思っていたけど、危険な世界にもどってしまったんだね、ごめんな。」
『なんで武威さんが謝るのよ。武威さんは私を逃がして職まで用意してくれたんじゃやない。なのにまたコッチにもどったのは私。謝るのは私のほうよ。でもこの小娘ちゃんたちを守ったんだから許してくれるわよね。』
「そうか、ありがとう。俺がそっちにいけないから、今は本当に感謝しているよ、本当にありがとう。」
『ふふ、ならよかった。恩返しできたみたいでちょっと嬉しいわ。早く帰ってきてよね、そしたらまたサービスしてあげるから。』
そこで友美が「うぎゃああ」と叫んだ声が聞こえた後、なにかゴソゴソとマイクを奪うような雑音が入り、再び友美の声がした。
『はあ、はあ・・・Vさん、あの人は毒婦ですよ、毒婦。サービスとか訳わからないですよね。ね!ね!』
「え、まあ、えーっと、うんそうだね。うん、まあそうかもね。でも助けてもらったんだから毒婦はないでしょ。あとで謝っておきなよ。」
慌ててそこまで言うと、Vは一呼吸入れて話を続ける。
「あとずっとロボット人間を見ているけど完成度が高いな?友美ちゃんたちはさ、ちゃんとアレの製造元とか調べて手を打ってる?
世界中でもアレだけの技術はそう多くないから国持所長に鹵獲したロボットを持っていって相談してみるといいよ。製造元を特定してもらえるんじゃないかな?。敵をつぶすにはまずは補給からだ。怖い兵器は生産される前に叩くの基本なんだよ。もう手を打った?。」
『あああ、全然考えてませんでした!すぐに手を打つように夏子さんにお願いします。っていうかこの教団は迎え撃つことばっかり考えていて、生産元を叩くことを考えている人が居なかったってどういう事なんですか!ペルシアの華は無能集団です。』
「ははは、無茶言うなよ。きっと権力争いに忙しくってそういう事は考えなかったんだろ。それに大きな組織ほど「誰かがやってる」と考えがちだ。しっかりひとつのチームに責任もたせて任せるか、上がしっかり指示するかしないとな。友美ちゃんも上層部の人間なんだから失敗は組織運営側である自分のミスと考えなさい。」
『ううう、はーい分かりました。次からは金子にいったん丸投げして、どう処理の指示を出したか後から確認します。』
「うん、友美ちゃんは賢いな。それでいいよ。」
そこで、Vの通信機がピーピー言い出した。
「あ、いけね。熱が発生しだして電池の超効率が落ち始めた。電池の消費を抑えるためにいったん通信をきるよ。また後でね。」
『あ、はいイケメンスイッチはもうしばらくロボット人間のアーマーノイドの戦いに向けていますから良かったら見ていてください。』
「ああ、興味深いから見させてもらうよ、ありがとう」
そういうとVは通信機のスイッチを切った。
このピーピーは電池切れの音ではない。電池や回路内の温度が-100度以上になった時に鳴る音だ。
温度が低いほど回路の抵抗は少なくなり電池内のロスも小さくなる。
そのように通信機の電池は温度さえ上げなければ、待ちうけ込みで3~5年は使用できるほどの高効率なものを使用している。
だが回路内の温度が上がり、効率が下がれば電池のモチも悪くなる。
Vはこのイケメンスイッチの中に何年いるかわからないので、いまは通信機の電池の効率が下がる温度を超えないように使用しているのだ。
だから一回の通信はだいたい10分程度しかしない。
次の通信は一時間以上先だ。
Vは通信機をはずすと、今目の前の画面に映る戦いに目を向ける。
アーマーノイドは、飛び込みの初速が20km以上出ているように見える。あれじゃ常人は避けられないし、銃では当てられないかもしれない。
しかも胴体にかなり弾丸を食らって動いている奴も居る。
少しくらい優秀な兵士だろうと、人間を殺す訓練しかしていない連中には厳しい相手だろうと考えた。
すると横で見ていた武玄は言った。
「なかなか厄介な事になってるようだな。しかもあのアーマーノイドって奴は曲者だぜ。あれだけ動きが早くて急所が少ねえと銃で殺すのは難しそうだ。腕のいい武道家の方が愛称が良いんじゃねえかな。大黒玄太はその意味で言ったらあのアーマーノイドの天敵かもしれねえぞ。」
「俺もそう思うよ、だから友美には今、玄太君に頼るように言っておいた。」
「おいおい、なんか友美はかなり嫌がってたじゃねえか。だったらお前の兄の荒川武義か、妹の麻美を紹介してやったほうがよかたんじゃねえか?。」
「兄ちゃんには多分無理だよ。あの人は他人の為に命をかけたり出来ない。麻美は連絡さえつけば一番頼りになるけど今も世界中回っていて連絡がつかないから諦めた。玄太君は優しくて義理に厚い男だからな。麻美が居ない今はこういうギリギリの戦いでは一番信用できるよ。」
「そうか・・・そうかもな。」
そして二人は、友美がイケメンスイッチに見せている戦いを腕を組んで見守った。
お読みくださり、ありがとうございます。
荒川武威マメ知識:兄と妹が居る。




