<1-2> 「異世界で待遇の良い奴隷になりました (前編)」
最新の本文修正日は2015年6月11日です。
異世界で野垂れ死にに、なりそうであった俺ですが、神様はご褒美をくれました。
俺の顔を覗き込んだその顔は赤茶虎の猫顔であった。どうやら神様は「モフモフ天国」に招待してくれたようです。
しかし、可愛い猫娘じゃなく俺の顔を覗いた黒い影は猫顔の彼でした‥‥‥。猫顔の彼でした。大事なので二回言いました。
後で解った事ですが、やはり彼でした。
決して邪な事を考えた訳じゃないが神様は見抜いていたようで、そんな俺に意地悪なご褒美も与えてくれたようです。
俺の大事な3日の休暇を奪った挙句、荒野に放置。その荒野で倒れた俺を介抱してくれたのは可愛い猫娘じゃなかった。
いや、別にその事は良かったですが‥‥‥。贅沢は言いません。
更にオマケとして俺の首と手に枷と足枷を取り付けたご褒美をくれました。そんな状態でどこかに運ばれる俺であった。
ようやく何処かに着いたのか動きが止まった感じで俺は目を覚ます。
暫くしてから頭がボヤケて意識がハッキリしない俺の枷の鎖を誰かが取外す。鎖を取り外したかと思うと、数人掛かりで枷を嵌められた俺を仰向けのまま抱え、足の方から何処に降ろすようだ。
聞いた事がない言葉を合図に男達と1匹は俺を抱えて、荷台の様な所から降ろした。
そう、明るい場所に出たこの時に彼の胸をチラ見して確認したのだ。その彼の胸は何もなく、唯の赤茶色い毛がフサフサして革のチョッキを身に着けていただけであった。
いやいや、まだ望みはあるかも。もしかしたら発展途上なのかもしれないし、それに別な意味であの胸はモフり甲斐がある。
しかし、普通の異世界召喚っていったら可愛い獣っ娘や女の子とキャッハウフフ状態のはずなのに?
‥‥‥。世の中、そんなに甘くないという事であろうか?
そんな危機的な状況かも知れないのに俺はボヤケた頭でそんなことを考えていた。
首を地面の方に下げ抱えられながら移動している状況で周囲を見回す。荷馬車っぽい感じの馬車から男達が降りて、テントみたいな物を組み立てている。
チラッと別の方を見ると猫男とは違う獣系が通り過ぎて行く。
周囲の景色が流れ行く状況を眺めていると、急に動いていた景色が止まってしまう。今度は首を持ち上げ足の方の景色を見る。
どうやら目的の場所に到着したようだ。男達がテントの入り口のシートを捲り上げ俺を運び入れる。
そのまま足の方から降ろされて立たされると、両脇の男に首と手に取付けられた枷を持たれたまま椅子に座らされる。
テントの中は八畳間ぐらいの広さで、天井にはランプの様な物が釣り下がっている。その八畳間の空間の中央には長方形のテーブルが置いてある。俺はなぜかテーブル中央ではなくテーブル中央より右端の椅子に座らされる。
正面には中学生が着ている学生服の上着の様で色が赤い。その赤い上着を着た男とその隣にも同じ服装の女性のような人物が見えた。
はっきり分からないのは、実際まだ頭が痛く重いし体もだるいせいなのかも知れない。そのおかげで、あまり思考が働かない。今はハッキリ言って横になりたい。
すると、正面の男が横を向き、その彼が何かを話し始める。
「・・・・・・・・」
一体何を言ったのか分からないが、その言葉に頷くような声がする。すると、何処からか来たのか分からないが二人の後方を横切り、白い服を着た幼さが残る中学生ぐらいの女の子がトコトコと歩いて来る。
そして、正面の彼が座っている椅子の足であろうそれに自分の足が躓いたのか転びそうになる。
そこで正面の彼がその彼女を支えて何か一言、何を話していたか意味は解らない。
その様子に俺は、ついにドジッ娘と知り合うフラグが立ったと、ぼやけた頭で考える。そのぼやけた頭で考えていたら、その彼女はそのまま俺の横を通りすぎる。どうやら俺の後ろに回ったようだ。
そして、後ろ際でなにやらブツブツ言う声がしてくる。その声と後に誰かの手が俺の後頭部に当てられたかと思うと、後頭部がじんわりと温かくなるような感じがしてくる。
ああ、彼女は医者? だから、彼女は白服を着ていたのかと一人納得していると、徐々に頭痛と気だるさが感じられなくなる。
そのおかげで先程よりは幾分マシになって、頭の思考が戻ってくる。思考が戻ってくると俺は前に座っている人物の様子を窺う。
正面に座っているのはカイゼル髭と逆三角形の顎鬚を生やした男で、髪は茶色の長髪、瞳はグレーのラテン系の感じの人物である。何処かで見たような人物であったが今は思い出せない。
服装を良く見ると、赤色の学生服のような上着にはボタンが着いて無ないが詰襟は付いていた。ハッキリいって男はどうでもいい。
男の隣の彼女は金髪の長髪で後ろに縛ってある三つ網の髪がちらちら揺れるのを頭を動かす度に見える。
彼女をよく見ると瞳はエメラルドグリーンといった白人系のお嬢様風な感じな人物である。
え~と、その。なんていっていいのか、彼女は胸が重たいのかテーブルの上に胸を乗せていた。俺の視線に気が付いたのか、ちょっと睨まれる。
俺がそうやって彼らを見ていると、彼らも同じように俺を品定めするように見ていた。
一通り観察が終わったのか、徐にラテン系の彼が何か色々と話しかけてくる。たぶん挨拶を色々な言語でしていると思うのだが解らない。
そして、最後に「オハヨ、ゴジャイマス」と聞えてきて、その俺の反応に彼はもう一度同じ言葉を話す。
その言葉に俺はそろそろ夕方だろうと思っていたので「何言ってんだこのラテン系は?」と、思いつつ。俺は思わず言ってしまう。
「今は多分夕方だからこんにちわか、こんばんわですよ?」
等と、早口で言い放ってしまう‥‥‥。もっと他に言うことがあるだろうと、言放ってから後悔する。しかし、俺の言葉に彼は答えてくれず。
次に彼は机の上に置いてあった木箱を開け、中から首輪? チョカーのような物を取り出す。
何で出来ているか解らないがその首輪には綺麗な赤い宝石が嵌めてあり、文様か魔法陣の様な物が首輪のベルトに描かれている。
それをテーブル越しに後ろにいるであろう医者の彼女に手渡した。視界に白衣の腕が見えたから間違いないだろう。
そして、ラテン系の彼が何かメモを見ながら何か話そうとしている。
「カセ、ハズス、テモ、アバレル、ナ、イデネ」
また、片言の日本語で話しかけてきた。どうやら彼は単語集を見て会話をしてきたようだ。
俺は素直に頭を縦に数回細かく振り「はい」と、短く答える。楽になるなら枷なんてないほうが良い。
俺が彼の言葉を理解したと解ったのか、ラテン系の彼が何か話し、横に立っていた男達が俺の枷をはずし始める。
枷は結構頑丈に出来ているらしく、数分後ガチャと音と共に首と手が自由になる。しかし、足の枷はまだ残っている。
俺は足の方を指差しこれも取ってくれと身振り手振りでやってみたが、ラテン系の彼は首を横に振るだけであった。
この人は、俺を用心しているようである。俺は人畜無害の小心者なのにな? と、頭かきながら彼を見る。
突然、後ろの誰かが俺の腕を下げさせ、さっきの首輪らしき物を俺に取付けようと首輪を廻してくる。
それを防ごうとすると両脇の男達に両方の手首と肩を抑えられ、その状態で首輪を取付けられる。
俺は内心「ペット? 奴隷にされるのか俺?」と考え、ブルブル震えてしまう。
その震える俺の状態を見て、ラテン系の彼の横にいるお嬢様風の彼女が「ブッ」と吹き出し、横の彼もニヤニヤして見ていただけであった。
そうして、初めて首輪をする為に体を抑えられた猫のような状態の俺は、また何かされた様である。再び彼女の声がブツブツと後ろから聞こえてくる。
すると、今度は頭の中に何かが入ってくる感じで、少しモワッとして意識が飛びそうになったので耐え抜く努力をしてみる。
しかし、結局意識は飛んでしまう。5分ぐらい経っただろうか、それぐらいの空白を感じたと思う。
その俺の様子を見ていたラテン系の男が俺の様子を見て、話しかけてくる。
「それは、あなたが、話す。ヒノモトの人が、話す言葉と、我らの言葉を、訳する、翻訳首輪です」
ゆっくりだが確かにそう聞えた。
しかし、話す時の口の動きがや、タイミングが何か目茶苦茶で、口をあけて声を発するタイミングがおかしい。なんというか日本語を話している口元が目茶苦茶であった。
それに「ヒノモト」ってなんだ?
「にほん」じゃないのか?
‥‥‥。分からない。
「まだ、翻訳首輪に、なれて、居ないよう、なので。食事、してから、質問、します」
すると、彼は俺の後ろの誰かに合図をしたようだ。それと同時に俺を抑えている男達は手を離す。
ちょっと待ったが何か良い匂いがしてきて、先程の「猫男?」が、俺の右横を通り木製のお盆を運んでくる。お盆には木製の食器におかゆみたいなものが入っている物と木製のスプーン、木製のコップに水を入れてた物が乗っかっていた。
!? 猫がお盆を運んでいる‥‥‥。
唖然としていると俺の前にお盆が置かれる。あっ、猫が少年の声で喋った。
「熱いよ、ゆっくり、ゆっくり、たべる」
そんな事を話して、手でスプーンですくう仕草をする。やはり猫ちゃんは男のようである。
ここで俺はガッカリしない。もしかしたらボーイッシュかもしれないじゃないか‥‥‥。大人しく、まずは水をゆっくりだが飲み干す。
次にお粥かと思っていた物は麦みたいに粒に茶色いスジがあり、それに芋が溶け込んでいたスープであった。
熱かったのでゆっくり冷ましながら食べているとコップに水を注ぐ猫君。そして、また離れる。
思わず、猫君の姿に見とれてしまう‥‥‥。さすが異世界、何でもありだ。
そうやってご飯を食べている俺の周りの人間は俺を観察している。ラテン系の彼は細い筆で木の板に何か書いている。
へっ? 木の板? 周りには紙がない。木の板が数枚と薄い茶色の多分皮製品。あれが多分羊皮紙ってやつか?
そして、木の板には何やら俺の似顔絵らしきものと特徴らしき文字を器用に描いている。
その筆を日本酒を入れる徳利の縦を潰したような墨入れ? それを使い器用に筆に墨を付けては小筆を整え描いている。
変な外人である、「羽ペン使えよ!」と、心の中で突っ込みを入れる。俺はスープをスプーンですくい、口に運びながらそんな光景を眺めていた。
気が付くと木の皿が空になり、まだ食べたりないがろくに物を食べなかった数日を思い出しお代りを止めてしまう。
確か、空腹で急激にものを食べると吐く。そんな映画を見た記憶がある。折角、久々のまともな飯にありついて戻すのは勿体無い。
食器をお盆ごと猫君に渡そうとしたが、水が入っているコップだけ手に取りお盆を猫君に手渡す。
彼はお代りをして来たのかと思い何か言ってくる。
「体、弱って、いる、ごはん、たくさん、だめ、だめ」
「違うよ、さげていいよ。おいしかったよ、ありがとう」
そう言うと納得したのかお盆を持って居なくなってしまう猫君。
そこで俺は彼が後ろを向いた時、彼の紺色の短パンのお尻から長めの尻尾が出ていて、ぴんと起っていたのは見逃さなかった。
「猫君合格!」と、訳のわからないこと考える。
やがて、人心地が付くと正面の彼が自己紹介をし始める。
「私はジョルジョネ大尉。そして、横にいるのが私の部下のアミュネス少尉、その隣の白衣が医務長のミリクナ。そこの隅の方であなたの所持品を見ているのが工作長のガルボルテです」
自己紹介している人をそれぞれ見ながら聞いていると、確かに机の上に俺のリュックと洗濯物や携帯電話、腕時計、十得ナイフなど、置いてあった。
最後に紹介された人はこっちを見ずに必至にコンビニ袋を広げると眺めていた。
そんな状態に色々とこっちが聞こうとすると彼の方が先に話し出す。
「色々とご質問が御ありでしょうが、こちらの質問を先に答えてもらいます。それで、多分まだ口の動きと聞える声の音に時の差があると思うので私の口元を見ずに話をしましょう」
まあ、理不尽だが仕様がない。諦めて手に先程のコップ引き寄せ両手で握りながらジョルジョネさんの手元を見て頷いた。
「では、どうやってこの王国にきましたか?」
さて、困った。本当の事を話して良いのか悪いのか。万が一、本当の事を話した途端、魔女裁判みたいな事になっても困る。そんな返答に困っている俺に彼自身で納得するようなことを話してくれる。
「多分、騙されてこの国につれてこられて、隙を見て逃げた所で行き倒れになったのでしょう?
‥‥‥。それで何処から来ましたか? たぶん、ヒノモトの言葉は解る様なのですが?」
あれ? 何かがおかしい。「ヒノモト」って多分昔の日本の呼び方だよな? この世界にもあるのか? と、色々と混乱してしまう。
すると、とんでもない事を聞いてしまう。
「四百年ほど昔、この王国にヒノモトのムサシノ国っていう所から勇者が来ましてね、色々な物をを伝えてくれたそうです。その翻訳首輪もその勇者が話していたヒノモトの言葉を基にしています」
その話を聞いて、俺は適当に話を濁すように答えて向うの出方をみる。
「そうですか、たぶん同じ国です」
「ではあなたも『イアイ』が使えるのですね? 勇者は『イアイ』の使い手でした。その腕の傷は修練で? 修練でついた傷ですか?」
おいおい、その輝いた瞳は腐ってるのか? この俺の太鼓腹をみろ、たるんだ二の腕を見ろと突っ込みたい。
それに腕の傷は3本線だったり、4本線だったり、ついでに噛み跡もあるが近所の「猛猫」とスキンシップを企んだ結果であるのだが‥‥‥。
それに「イアイ」って居合? 剣術の? いやいや、剣道さえやったことなどない‥‥‥。猫ジャラシ道ならあるが!
「いや、『イアイ』は出来ませんし、剣術も出来ません。それにこの傷は近所の『猛獣』を手懐ける時に付いた物でたいした事ありません」
あれ、「猛猫」って言ったはずが『猛獣』に変換され言葉になってしまった。それに居合や剣術をしないと話した時、明らかにガッカリしていたのを見逃さない。
しかし、『猛獣』に変換されて話した結果大変なことになりそうな予感がしたので慌て言い訳を話そうとするとジョルジョネさんが突っ込みを入れてくる。
「それは凄い。貴方の住む近くに『猛獣』がいるのですね。それに『猛獣」を手懐けるとは、驚きました」
「いやいや、さっきの食事を運んだ彼みたいなもので、そんなに凄くないですよ?」
「えっ? 貴方の国にも土猫族がいるのですか?!」
「いや~、そうでなく、このぐらいでして。ちょっと『コミュニケーション』しよかと」
「へぇっ? 『コミニ、ケーション』?」
「ああ、仲良くなろうかとしまして」
その途端、明らかにガッカリされたし、隣のアミュネス少尉に失笑されてしまう。
それに何となく誤解を解こうとして会話すると、何か翻訳がおかしい。一般的な「和製英語」が通じない。
考えて話しているつもりなのだが言葉にすると何かが違うし、時々向うの言葉も知らない言葉が「カタカナ」で聞えてくる。
そういえば「400年前」って言っていたような。所謂、現代日本の和製英語は通じないのかな?
そうすると言葉を選んで考えなければ誤解が広がってしまうかも。最悪、険悪になったら困る。そんな悩んだ俺に関係なく次々に質問をぶつけてくるジョルジョネさん。
「では、氏名と年齢、生業をお願いします」
それにしても、生業てなんだ? 職業? なのかな? それに今頃、名前聞くのかよ。
「アサガ、リョウジです。歳は二十五で『ケンセツ』現場の現場監督してます。」
「アサガ、リョウジさんですか。家名があるとは、貴族か身分の高い人なのですね~‥‥‥。二十五歳ですか! ‥‥‥。『ケンセツ』現場の現場監督?」
「いや、そんな貴族じゃないし何処にでもいるような庶民です。それに『ケンセツ』とは家などを作る事です。私は、そこで『オフィ・・・』じゃなく‥‥‥。商人の貸し事務所を作る現場の監督でして。ああ、監督っていても下っ端でしてそんなに偉く無いです。」
「ほう、監督ですか? 私と同じですね~」
やはり、考えている事と言葉に出てくることが少しおかしいようだ。それに昔風の日本語にして考えると話が通じるようだ。
それにしても二十五歳と言ってアミュネス少尉が小さい声で「私と同じ」と言って驚いた顔をしたが、道顔ですいません‥‥‥。「大きなお世話だ!」と、心の中で叫ぶ。
名前はどうなるかと思っていたがやはり「カタカナ」になって声に出た。
でもジョルジョネさん。大尉って言ってたし、頭がますます混乱するが、それ所じゃない気がする。頭の中で混乱する俺を余所に、更に追い詰めるような言葉を聴く事になる。
「それで、大変話しにくいのですが、この王国にも法律がありまして~。『道路上などで行き倒れている人を助けると、助けたられた人が必ずお礼を助けた人にする』と、いう法律でして。
そのお礼が所持金の5割か王国金貨1枚でしてね~。払えますか?
嗚呼、所持金の5割は王国の硬貨でのお支払いでお願いします」
そういう落ちか‥‥‥。お金は日本円が少しある。
給料日後だったけどATMから降ろしてない‥‥‥。ああ、ATM使えないのか~~。
後編につづく