SECOND SCORE 0:グローリア・オブ・キサンド Ⅱ
紅茶か酒の準備を(N回目)
それではどうぞ!!
ロレンは遺書にこう書いていた。
「腕を振れなくなって武人としての存在意義がなくなった。だからこそ、もう何もかもに疲れた。それだけだ。」・・・と。
だが、それに意義を唱えた人物が一人いた。マージ・ブリスツの隊長、スクリード・アレイン中佐。ロレンが輸送(搬送)された時の光景を覚えていた人物だ。
「あれは自分の腕と足を切り落とされた際に、激昂していた。『あのあばずれを切り刻んでやる』などと癇癪を立てていた。・・・到底自殺するような奴だったとは言い難い。」
もう用済みになった基地の野戦病院の一室、容態が落ち着いていた彼はなんとも言い難い表情で、聞き込みに来ていた憲兵に対しこう付け加えた。
「ロレンが士官学校に居た頃、剣の腕は良かったけれども性格が終わっていた。かなりのサディストで傲慢きちで、そして執念深い。ある日、ロレンのことを裏で陰口を言っていた奴がいて、そいつは在学中には何もされなかったが・・・」
「されなかったが?」
「軍に入ってすぐ、自殺したんだ。」
憲兵は、拍子抜けな表情でこう答えた。
「どう最善を尽くしても、本人にとっては意味のないことだってある筈だ。いくら体制を改善している最中とはいえ、戦争前の極度の緊張下でメンタルが崩壊してしまう、なんてこともある訳で・・・。」だが、スクリードは否定した。
「ならば首を吊って自殺とか、色々まともな方法はあるはずだ。あいつは、トイレの個室で、自分の腹をナイフでグチャグチャに掻き回しながら死んだ。腸の欠片が周囲に散乱して、それはもう見ていられなかったさ・・・。指紋はあいつのものしか無かった。・・・ロレンが殺した、という証拠はない。だが、そう信じざるを得ない。」
「なぜ、そこまで詳細に・・・?」その憲兵は青ざめながら言った。
「哨戒に当たっていたのが俺だったからさ。そして、あいつは俺の親友だった。」
互いに黙り込んでしまい、話にならなかった。しかし、その静寂をかき消すかのようにスクリードは続けた。
「ロレンがあそこまでやられて、あれだけ血を頭に上らせているんだ。そのまま諦めて死ぬような奴ではないことは確かだ。」
「十分な懸念材料にはなりうるが・・・それで片付ける訳にもいかないな。とはいえ、時間を取らせて悪かったな。もし捜査に進展が見られたら教えるからな・・・。」そう言って立ち去ろうとした時、スクリードはとある重大な事実を思い出した。
「傷口は『綺麗な断面』だったか?」スクリードは記憶の底から蘇らせるかのような、確信の無い声で言った。
「綺麗な・・・断面・・・?」
「そうだ、時間経過で少し劣化しているかもしれないが、どの剣でもあれほどの綺麗な断面を作り出すことは不可能だ。骨も砕けることが無く、皮膚も残ってくっつくことも無い程、右腕の断面は綺麗だったが・・・思い出した。本当に、綺麗な断面だったと言えるのか?もしそうでなければ・・・」
その憲兵は、その言葉を聞くまでもなく走り出した。
「ロレン少佐、いや今は大佐が無くなられたことを本土にどう言うのだろうか・・・」死体輸送班として戦後処理を任されていた一般兵の一人が死体袋を手押し車で運んでいる際に、憲兵に押しとどめられた。
「どけっ!!」
「お待ちください、いくら何でもそれは・・・!」その一般兵は憲兵に対し抗議したが、死体袋にあった「ロレン少佐」の名前を確認すると死体を劣化させないよう、ばっと開いた。
腕の断面は、骨は少し砕け、皮膚も一部断面からはみ出ていた・・・。
「潜入ご苦労、大佐。」薄暗い天幕の中で、蒼いローブにに赤の逆三角形のペンダントを身に着けた、顔色の悪いやつれた男が言った。
「やめてくれ、『管理官』。せめて本当の職で言って欲しい。」そう返した男は、包帯で巻かれたままの患部を見つめながら言った。
「そう言うな。見せなさい。治してあげよう。」すると、ローブを身に着けた男は杖を手に取り患部周りの皮膚を伸ばし、収束させた。痛みはなく、むしろ引っ張られたことで血が止まった。
「さあ、片足は・・・これはもはや『焼け焦げている』かのようだな・・・。」ローブの男は興味深くその患部を見て言った。
「早くしてくれよ。空気に触れているだけでヒリヒリしている。」
「焦りは禁物だ、『清律官』よ。義足や義手の用意はある。早く仕事に戻れると良いが・・・。」
「問題ない、当分クルバノフとジルカンとの間で戦争も起こらないだろう。時間だけはある。」
「どうかね、リハビリも兼ねてキサンドの孤児院にでも顔を見せに来るというのは。」
そして、包帯を再び巻いて、その男はぶっきら棒にこう答えた。
「あの小父さんの説教を聞かされるのはごめんだ。」
「ははは、そうきたか。」そしてローブの男は去って行った。
その男、ロレン・フェリスはどこかで生き永らえている・・・。
「アルミナの様子はどうだ?」キースは、他の村の住人に話を聞きに来た。
戦禍の跡がまだ消えない村で、第二中隊は村の駐屯基地に戻っていた。
「どうもこうも、一向に出向きもしない。ずっと一人で籠っている。」
「参ったわねえ、全く。」アータルタはアルミナの家がある方面を向いて言った。その声色は、同情に似た、それか師の訃報を聞いた時の気持ちだった。
マクラーナは死に、シーディアは意識不明、そしてカールとレベッカ、リンやバーバラはアークへシス軍本部からの指令を受け取るべく空に上がらなければならなかった。
「・・・カールとレベッカ、リンにバーバラ、あいつらも結構アルミナと話していたが・・・空の上での任務が決まったっていう報を聞いたっきりだからなあ・・・。でももしかしたらあいつなら・・・。」キースは頭を抱えていた。このままアルミナを精神的にダメにしてしまったら、彼女の両親であるマクラーナやベーリングに会わせる顔が無い。
「・・・で、アルミナに話を付ければ良い訳か・・・。」カールは、暗い顔をしていたキースからその頼みごとをされて、渋々受けた。
隣のベッドでは、レベッカがチューブを腕の血管に繋げられてまだ眠っている。二人共戦闘が終わった直後、まるでショートしたかのように頭の温度が上昇し、気づいたときはベッドの上だったのだ。
「動けるなら、でいいが・・・。」クリプトンはカールを気遣ったが、カールはそれを静止した。
「いや、いい。良いんだ。」
「そうか・・・。」
そして、カールはキースやアータルタたちを連れて、アルミナの家の前に来ていた。
「居るのか?」カールは言ったが、反応は無い。
「・・・最後に、話をしようと思って。」やはり。
カールは、ドアの前にあぐらをかいて座り込んだ。
「・・・・・・丁度お前と同じ頃だった。」話を急に変えだした。
「カール、一体何を・・・?」キースは言ったが、カールは続けた。
「お前と同じ頃、両親は爆撃で死んで、僕のせいで妹分だった従妹は目が覚めなくなった。今も元気だったら、お前くらいの年齢になっていただろうさ。」そして、カールは、息を吸って大声で言った。
「そして叔母に言った、『僕が死ねばよかった』と!!あいつがっ、ドロシーが目覚めなくなってしまったのは全部、全部僕のせいだった、だが叔母は『仕方のなかったこと』だと言った!何度、何度罪悪感で吐きそうになったことか!!」
「か、カール・・・。」アータルタは絶句した。想像を超えた悲惨さだった。
そして、少しトーンを落として、言った。
「今のお前は、そんな気分だ、昔の僕さ・・・。何も助けることもできなかった、後悔だけの出来損ないだ!」怒りに似た笑った表情は、カールの表情をより不気味に感じさせた。
「カールっ・・・!!」クリプトンは我慢がならなかった。これ以上言うならば殴り倒そうか、と思ったほどだったが、その考えはすぐに撤回した。
「違う!!!」玄関のドアを内側からたたき割る音がした。目の周りにクマができ、涙の跡がくっきりと残っていた状態のアルミナだった。
「違わない!・・・そうさ、その目さ。叔母に会った後の僕の目とそっくりさ・・・。」
「違う、違う・・・違う!!!」そう言いながら殴りかかろうとするアルミナを見て、いつぞやの出来事を思い出した。
「そして、僕は今でも変わっていないんだ・・・。」アルミナは、殴るのを止めた。
「マクラーナさんから、伝言に近い言葉を聞いたことある。」続けてカールは言った。
「伝言・・・?」アルミナは意外なことを言われ、拍子抜けしているように見えた。
「アルミナには『敵』はいない・・・だ。それは、アルミナが戦争を、人殺しを知らない・・・いや、知る必要も無いことから言ったことだ。僕は、そういうのに絶対に巻き込ませない、そう決めた、そう約束したのさ。」
涙をこらえるためにずっと目の間にシワを作りながらも、口元は動揺を隠せずにいた。
「かあ・・・さん・・・母さんが・・・そんなことを・・・。」
「だのに、いざ肝心な時に守れず、お前を巻き込んで・・・。だから、ずっと今でも同じ目なのさ・・・。」
そして、カールは最後にこう付け加えた。
「シーディアのようなソルジャーになるって言ったな。・・・そう、なれるといい。」そして、アルミナの前から立ち去ろうとした。
アルミナは、もう涙なんて出ないものだと思っていた、なのに、なのに、目の前がぼやけて、目が熱く、頭も熱い何かで満たされていった。
「粗治療だな、カール・・・。」クリプトンに言われたカールだったが、顔を見合わせることは無かった。
「本当に、これで良かったなんてことは思わない。だから、恨まれても構わない。」カールは、自分が涙を流していることを悟られたくなかった。そして、走ってアルミナの家を後にした。
その後、カールたちはまた再び空へと上がるのだった。
「全く、このタイミングで攻めるなんて事してくれなくてもいいのにノクタリスの連中・・・。」カール・レベッカ・バーバラ・リンは、ロメロが船長として働いている輸送船の中で、「ウェンディエゴ」と「スターピアサー」の計八機の機体をコロニー《チェルカトーレ》へと向けて行った。
フレデリック外務相と、「帰らなければならないのなら辞めてやる」とまで言ったレイアン科学技術相も一緒に。
「仕方ないでしょ、この情勢下であれだけ時間が稼げたというのも奇跡に近いはずよ。」レベッカがストローでコーヒーを飲みながら答えていた。
「だが、時間は足りない。たった二週間ちょっとだったけれど・・・。アルミナの件もある。戦闘が終わって、条約が結ばれて、暫定的な安定は得られた。けれども・・・」カールは窓から見える惑星「ネメシス」を見ながら言った。今までいた大地が、少し軌道から抜けただけでもう小さくなっている。
「分かるわ、その気持ち。私だって・・・。なんだか、『まだ終わっていない』っていう胸騒ぎが。」
そう言いながら暗い雰囲気になっている二人だったが、バーバラとリンが呼び掛けた。
「なんかコール大尉から、『黒猫は足元を舐める』とか何とかの暗号を送り付けられてきたのですが・・・。」バーバラはこの文章の比喩自体は何のことかさっぱりだったが、大方予想できた。
「あの大尉、皆は花とか送っていましたが、餞別と称して黒ビールを堂々と送ろうとしたのがばれてオグラ中佐に病室で怒られているそうで・・・。何でも『花では腹は満たせない』とかなんとか・・・。」
一同は失笑した。
カールは気前よく手を振りながら言った。
「さらば、コール!さらば、キース!さらば、アルミナ!・・・そして、さらば、ネメシス!黒ビールをありがと・・・はっ!!」
後ろの人と、目が合った。フレデリック外務相本人だった。
「成程・・・軍人がいとも簡単に法を犯すとは、シビリアンコントロールがなっていないな、後で防衛相に相談しなくては・・・」
「あー!スンマセン!スンマセン!」
「なら、司法取引と行こうか。一本で許す。」一同は大笑いした。
次の任務は、二年前、カールとレベッカが辛酸を飲んだ戦い「リンガード宙域戦線」があったポイント付近。しばらくノクタリスの軍艦と遭遇する回数が増えている宙域である。
彼らはまだ知らない。かの「リンガード宙域戦線」とひけを取らない戦闘が行われることを。いや、知る必要も無いのかもしれない。なぜなら、彼らは「今」を生きているのだから・・・。
もしかしたら・・・試験勉強の息抜きで時々、間話を書くかもしれないけれど・・・
お楽しみに!
第二章・第二次リンガード宙域遭遇戦編/キサンド皇国編
二七年三月公開!




