7話「そのことは友達だから」
遊園地。様々な遊具や設備によって訪れる人々に娯楽を提供する奇怪なる土地。初めて訪れたそこは正しく“戦場”であった…。
「――じゃあいくよ!じゃん、ぽん、けん!」
……負けた…。
「私とヅッキーとカナミンが負けね!楽しみだね!」
カナミさん絶望的な顔してんだけど…。ていうかなんでソラさんはノリノリなんだよ!怪しいと思ったんだよなぁ…。こういう勝負事めっちゃ弱いのに、『じゃんけん負けたら絶叫マシン乗ろーぜ!』とか言い出して…。自分が乗りたいだけかよ!私たちを巻き込まないでくれよぉ…!
「ほら二人とも乗るよ!」
「はぁーい…。」
数秒か、あるいは数時間後――。
搭乗中の記憶がほぼありません。一瞬だったような、永遠だったような、時間感覚を失うほどに恐ろしい体験でした。もうこれには乗らなくていいかな。多分一回で一生分換算だと思う。それに…。
「ぎもぢわるい…うぅ…。」
めちゃくちゃ酔う…!絶叫より酔いが勝つ…!…あ、ヤバい朝ごはんが…いや出ない!絶対出さないぞ私は…!
「ソラ。ポテト食べる?」
おお、さすが。ソラさんは酔ってないのか。
「トイッチふざけんな…?その服汚すぞ…?今食べたらガチで朝ごはん出るぞ…?」
お前も酔ってるんかい。
しかし慣れてそうなソラさんも“これ”ということは、カナミさんは…?
「カナミちゃんは酔ってないの?」
「うん。私は平気だよ。“酔い”よりも怖かった…。」
「大丈夫?レモンティー買ってきたからこれ飲んで、少し私と休もうね。」
「うん…。ごめんね…?わざわざ…。」
「カナミちゃん。こういう時は『ありがとう』だよ?」
「……コトハちゃん、ありがとう…。」
「どういたしまして。」
ほぇー…。なるほど。こうすればいいのか。…やっぱり私いらないんじゃ…?
「ヅキ。ソラ。ちょっといい?耳貸して。」
「なんでしょう。」
「なに?」
“小声で耳打ち”?一体どんな重大案件なんですかトイトさん…?
「“もっかい乗ったらチキン奢る”。」
「乗るか!」
「食えるか!」
少しの休憩の後、次はどうするかを話し合います。
「絶叫はまだいいけどさ。酔わないやつがいいよ私。」
「と、ヅッキーは仰っておりますがどうでしょうトイッチさん。」
「コーヒーカップがいいと思う。」
「私の声はもみ消されたみたいだね。」
なんだかんだで話し合いの末、おばけ屋敷に決まりました。
『おばけ』か…。正直、私は信じてない。いや吸血鬼も広義では『おばけ』だろって話なんだけど、実在してるんだよそれは。“実在していない”か、“実在がはっきりしていない”か。そういうものだからこそ『おばけ』足り得るのかなーと私は思うわけです。未知への恐怖と好奇心は人を突き動かす原動力になるって話。まぁここのおばけ屋敷は“びっくりホラー”らしいからそんな深く考えるものでもないんだけどね。
さて、そんなおばけ屋敷の注意書きに『一度に入れるのは3人まで』と書かれております。
「トイトさんとソラさんは二人で入って。絶対驚かそうとしてくるでしょ。」
「ソンナコトシナイッテー。ネー?トイッチ。」
「ソウダゼー。シナイゼー。」
「少しは隠す努力してよ…。」
というわけで。私とコトハさん、カナミさんの3人が先。トイトさんとソラさんの2人が後。と、分かれて入ることになりました。
「チヅキちゃん…手、握っててもいい…?」
「いいよ!」
「私もいいかな?ヅキちゃん。」
「もちろんいいよ!」
なんか間に挟まれてるけどこれはチャンス…!たまには私だってかっこいいところあるんだぞとアピールする絶好の機会…!私だってクールでスマートで頼りがいがあって、勉強も運動もダメダメだけどふいに見せるかっこいいところがかっこいい感じなんだっていうアレをアレする感じにアレしてるアレでア――。
20分後――。
「ごわがっだよぉ…!」
「よしよし頑張ったね~。大丈夫だよ~。もう怖くないよ~。」
私は二度と入らないと強く心に誓いました。
しばらくして後続組も出てきたので、切り替えて感想を聞いてみましょう。
「二人ともどうだった?怖かった?」
「普通。」
「楽しかった!『わぁ。』って感じ!」
全然怖がってないじゃん…。やっぱこの二人に恐怖の感情はないのかもしれない。
「で、ヅキ。カナミいないけど、リタイア?」
「そうなんだよね…。カナミさん、最初の脅かしポイントでダウンしちゃって…。」
それも立ったまま…。コトハさんが付き添ったから、私一人で頑張ったんだよぉ…。
「ヅキ未満が存在したとは。」
「いるよ一人くらい!」
続きまして。おばけ屋敷の次は、アトラクションを全制覇したいソラさんの要望で『ジェットコースターコンプするぞ!』に決まりました。が、やはり遊園地の花形は人気なようで…。
「結構並びそうだね…。仕方ない。手分けしてコンプしよう!」
「え?なに“手分け”って。」
「じゃ、ヅッキーとトイッチは『デスクラウンオメガジャイアントアルファエンジェルデスクラウンコースター』お願い!」
「いや『お願い!』じゃないよ絶対イヤだよ。“デス”って2回言ってんだもん。“デスクラウン”って2回言ってんだもん。」
大体“手分け”って、コンプリートしたいのあなたでしょうよ。手分けしてもあなた乗ってないじゃん。
「カナミンとトキノコは優しめの『ほんわかコースター』とか、そういうの巡ってきて!」
え、なにそれ。私もそっちがいい。
「一旦お別れだね。ヅキちゃん頑張って!」
「チヅキちゃん頑張って…!」
なんで私乗ること決定されてんの?なんで私なら大丈夫だと思われてんの?私いつの間にそんな頼りにされてたの?知らなかったんだけど。そしてなぜかあんまり嬉しくないんだけど。
「ヅキ行くよ。早く並ばないと閉園時間が来る。」
「ヤダぁ!イヤだぁ!」
ノリノリで私を引っ張るなぁ…!
「じゃあ『じゃんけんして負けたら乗る』ね。」
「え、いや…。」
「じゃん、ぽん、けん。“ぐー”。」
「“ちょき”。あ…。」
負けた……。
搭乗――。
「ぅぅぁぁああーー!!」
デス――。
そして完――。
してないから!
してたら大問題すぎるでしょ!一瞬“エンジェル”は見えた気もするけど!
と、まぁ適度にからかわれつつ、そろそろ閉園時間です。最後は観覧車に乗って締めにしましょう。
「どうする?この観覧車4人までだから、ヅキが余る。」
「なんで4:1?3:2でいいでしょ…。ていうか私を余らせるの決まってるんかい。」
なわけでして。
「んじゃ、ぐっぱで決めよーぜ。いくよ!」
「ぐー、っぱーで、わー、っしょ――!」
「――カナミさん、高いところ平気なの?」
「うん。チヅキちゃんは?」
「落ちないって分かってたら平気かな。」
「分からなかったら?」
「かなり怖いかも…。」
私とカナミさんでペアになりました。後続組です。一周するまでトークで場を繋がなくては…。
「今日はどうですか…?楽しめましたか…?」
「え、うん。すごく楽しかったよ?」
「よかったぁ…。私今日、誘ったくせに全然話したりできてなかったよね…。ごめん…!」
「そんなことないよ。みんなのやりとり面白くて大好きだから、楽しかったよ。」
小ボケツートップの相手してたのが逆によかったのか…。…あの二人は分かっててやってたのかな…。
「チヅキちゃんとは確かにあんまり話せなかったけど、コトハちゃんとはちょっと話して――…。」
「…?どんな話してたの?」
カナミさんは私から目を逸らして言った。
「…チヅキちゃん、私が吸血鬼だってこと、みんなに言った…?」
「いや、言ってないよ。」
「そっか…。」
「…もしかして、コトハさんにバレてた…?」
「そういうことじゃないよ…!ごめんね。紛らわしい話し方して…。」
違うならよかった…?
「…チヅキちゃんは『恋バナ』って、したことある…?」
「え…?いや、ない…かな…?多分ないと思う。」
スイさんとのあれこれは『恋バナ』ではないよね…?
「コトハちゃんとそれしてたんだ…。恋人がどうとか、気になる子がどうとか、誰かを好きになったり、好きになられたり、そういう話…。」
コトハさんも恋バナするのかぁ…!聞きたくないぃ…。でも聞かないと話が進まないぃ…。
「それで、チヅキちゃんのことが好きなのかって聞かれて…。」
「…なんて答えたの…?」
「……“好きになりたくない。”って…。」
マジかぁ…。はっきり伝えられると結構キツイかも…。今まで“好き好き”言われてたし…。…いや待て。“なりたくない”ってどういうことだ…?“好きじゃない”じゃない…?のか…?
「あの…“なりたくない”とは…?」
「私、チヅキちゃんとはずっと友達でいたい…。なのに私…友達相手に『血を吸いたい。』とか…。そんな感情持つなんておかしいんだよ…。」
「おかしく――…ないよ…。全然…そんなことないと思う…よ…?」
「……チヅキちゃんはそう思うよね…。…だってチヅキちゃん…私に吸血されたがってるんだから…。」
私はカナミさんに言われて、何も言い返せなかった。頭が回らなくて、声が出てくれなかった。“そっち”のカナミさんじゃない、“いつも”のカナミさん。それは間違いない。でもやっぱりどっちも同じ人で、記憶もそのまま。片方の言動はもう片方のものでもあるから。
だから驚くことじゃなかったんだ。ただ。じゅくじゅくと熱されていく噛み場所がどうしようもなく鬱陶しくて、それで体が固まってしまった。
「吸血鬼に生まれてなければ、ずっと友達でいられたのかな…。ねぇ、チヅキちゃんはどう思う…?」
何もできない私は、席を立って私の頬に手を触れる彼女を見ているだけで。
「私が最後まで吸い切ったら、もう、そんな目で見ないでいてくれる…?」
その日、西日射し込むゴンドラの中で最後に見てしまった光景は、誰よりも優しい女の子の暖かくて淋しそうな瞳だった。
週が明け、数日経った。あの日気を失った私はトイトさんが家まで送ってくれたらしい。お礼とお詫びでパンを奢らされた。詳しいことを聞こうとしたら『一週間分。』とかほざいてきたから結局よくは分かってないんだけど、私は“いつも”のカナミさんに血を吸われたってことなんだよね?つまり、これで一応“吸血特訓”は終わりであると。
「――手伝うよ私。半分持つ。」
「ごめ――…ありがとう、チヅキちゃん。」
「どういたしまして。やっぱ『ありがとう』の方が言われて嬉しいよ。」
「私、頑張って言うね…!」
「そうしてくれるといいな。」
カナミさんは最初に血を吸われる前と同じ感じで接してくる。私も頭の中のもやもやは完全に晴れてなくなったし、私たちはなんてことない普通の友達に戻ったんだと思う。
カナミさんはそうなるために吸ってくれたんだから、私はカナミさんのために全部忘れなきゃいけない。そんなの分かってる。だけどどうしても、最後のあの顔が忘れられないんだ。どうしても、忘れたくないんだよ。
放課後――。
「――カノカノぉ~。なんでこなかったんだよぉ~。」
まだ言ってる…。ソラさん、カノンさんも遊びに誘ってたみたいなんだけど、『絶対来る!』と思ったら来なかったらしいんだよね。
「ウザい。」
「ヒドい!」
あ、カノンさん帰っちゃった…。ソラさんが振り回されてるの珍しいな。
「ソラさん。」
「ヅッキーぃ…!カノカノがぁ…!」
「おー…。よしよし…。」
私に対するコトハさんの気持ちってこんな感じ…?…私とソラさんじゃ愛嬌が全然違うか…。
「ソラさん、なんでそんなに『来る!』と思ってたの?」
「え?だって、カノカノとカナミン、お互いのことめっちゃ大好きじゃん。」
「そうなの!?」
「そうだぜ?てかヅッキーは知ってると思ってた。驚き。」
言われてみれば思い当たる節がどんどん湧いてくるような…。マジか…。
「カノカノは好き嫌いがはっきりしてるからさ。私には“誰が好きで誰が嫌いか”は分かるんだよ。カナミンも分かりやすい方だし。」
私には分かりやすくないんだけど…。まぁ、ソラさんとじゃ人のこと見てきた時間が違い過ぎるし…?これから頑張ればいいんだよ!これからだよこれから!
「お互い相手に嫌われてると思ってるけどさ。仲良くなりたいとも思ってるワケじゃん?いい機会だったんだけどな…。…カノカノ…アイツ、マジで私以外と付き合う気ないんか…。それだけはダメだって言ってんのに…。わからず屋なんはいいけどさ、私の気持ちも少しは――あ、ごめんヅッキー。なんの話だっけ?カロリー爆弾の特大盛りパフェ食べに行こーって話だっけ?」
「それだ!!」
「え、それなの?」
カナミさんとカノンさんをくっつければいいんだ!
私はもう“吸血鬼としてのカナミさん”には頼りにされない。私じゃカナミさんは助けられない。なら助けられる人を探せばいいんだよ。それなら私にもできることはまだあるはず。こう…『裏で動く』というか?なんかいい感じに事が進むように、頑張ってなんとかする!いける!頑張る!
「ソラさん、一緒に頑張ろう!」
「……なにを??パフェをシェアしよーってこと?どゆこと??」
名付けて『ベストフレンド大作戦』!うむ。いい感じのネーミングだ。
私、カナミさんのことは大好きだから、絶対幸せになって欲しいもん!絶対笑ってて欲しいもん!やるぞチヅキ!まずは作戦会議だ!
「ほらソラさん。せーのっ、おー!」
「おー!……??」
「??」




