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こっちもそっちもあっちもどっちもにっちもさっちもいかないけれどもわっちは元気です!  作者: スマイロハ
どっち編

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28話「どっちに」

 雲の上の彼女ではない、すぐそばの女の子として、コトハさんは話し始めた。


「前から噂だけは知ってて、でも会ったことはなくて…。高校受験のとき、偶然ヅキちゃんにぶつかっちゃって、はじめてちゃんと顔を見て、『こんなに綺麗な子がいるんだ』って思ったのは覚えてる…。でも、そのあとすぐ、ヅキちゃんが、車に…。」


 彼女はやっぱりあの時、あの場にいた。


「ごめん。トラウマ刺激するようなこと…。」

「ちがっ――!…ちがう。ちょっとだけだよ…。そんなにじゃなかったから…。大丈夫…。」

「…ありがと。話さえぎっちゃったね。続けて。」

「うん…。」


 彼女はまた、自分の言葉を整理しながらゆっくり話を続けて行く。


「それで…。入学式にいなかったからもう会えないんだって思ってたら…。」

「“次の日登校してきた”?」

「うん…。」

「驚かなかった…?」

「驚いた…けど…。…そんなこと、私にはどうでもよかったから…。」


 それから少しの間の沈黙を終えて、私は(うな)る心臓を押し殺して彼女に結論を問う。


「それ…私のこと…見た目しか好きじゃないってことなんだよね…?」

「好き…!好きなんだよ…?本当に…。大好きだよ…。」


 段々と声が落ちる彼女から、私は気付けば目を逸らしかけていた。

 今までずっと、彼女の視線は私に向けられているのに、なぜか私は彼女に見られている気がしていなかったのかもしれない。その考えが浮かんでくるだけで、目を逸らしたくなる。


「優しくて…面白くて…頑張り屋さんで…頭もよくて…尊敬してて…。…だけど、そんなのどうでもいいって思うくらい……見た目が好き…なの…かも……。」


 酷く怯えて震えた声で、彼女はそう言った。

 その姿が見ていられなくて、私は思わず彼女を抱き締めてしまう。


「わがまま言ったらだめって分かってるのに…。独り占めしたい…。私だけのものにしたい…。ずっと目の前にいてほしい…。どこにもいかないで、誰のものにもならないで、私だけ…。…そんなこと考えてるから…内見(なかみ)はどうでもよくて穢してもいいって思ってるから…だから、吸血鬼の力でむりやり手に入れようと……。」


 彼女の瞳から零れる大粒の涙が私の寝間着に浸み込んで行く度、私は私でもっと強くと奥歯を噛み締めるのだ。

 つられて泣いては、私がいる意味がないから。


「やっぱり私…みんなと違って、悪い吸血鬼なんだ…。綺麗な恋なんかじゃない…。見るにたえない…執着の……。」


 彼女が出した結論はそれだった。

 友達でいたい訳でも、恋人になりたい訳でもなく、不純な想いで歪んだ好意を抱く自分は“良くない”のだと。

 自覚した時には既に戻れない場所まで進んでしまっていた。だからせめて、綺麗じゃない自分とは…。


「…もう…いい…。」


 彼女に押されて私は抱き締めていた腕を()く。


「もう、私はいいから…。ほかの…カナミちゃんとか…スイちゃんとか…。みんなのこと、考えてあげて…?…『恋人』…なんだから…。」


 目の下を腫らした顔で彼女はそう言った。


「ヤだ。」


 私のその返しに、彼女は目を見開いて私を見る。


「…なに…それ…。じゃあ、私だけのものになるの…!?」

「それはごめん。コトハさんだけのものにはなれない。」

「そうでしょ…!?抱えられる数は決まってるの…!どれかを捨てる気がないなら欲しがらないで…!ヅキちゃんにはほかに大切な人がいるんだから…!」

「私は誰のものでもないよ。私は私のもの。どう使うかも、どれだけ抱えられるかも、全部私が決める。」


 そう言い切ってから、彼女は私に返す言葉を失っていた。


「コトハさんよく聞いて。私は見るにたえない執着のおかげで高校生活を楽しめてる。こんな話ができる人なんて一生手に入らないんだと思ってた。それをコトハさんが変えてくれた。確かに、これは恋じゃないのかもしれない。全然綺麗なんかじゃないのかもしれない。でも、この真っ暗闇の夜空を照らす点々の光が、私を進ませてくれる。その中にはコトハさんもいるんだよ。ひとつでも手放したら私は二度と歩けない。だから――。」


 彼女がどう思ってるかは関係ない。私がそうしたいからそうする。

 私が彼女を、コトハさんをそう想っていたいから。


「好きです。私と恋人になってくれませんか?」


 提案ではない初めての告白はこの台詞だった。



 コトハさんはしばらく面を食らったように黙り込んでいたが。


「……だめだよ…。好きじゃない人と恋人になるなんて…。」


 と、そう言って断る。

 だから私はコトハさんの頬に両手をあてた。


「好きだよ。…証明しても、いい…?」

「…本当にいいの…?」

「どうして?」

「だって、私は悪い吸血鬼で…。」


 責任感の強いコトハさんは、自分が私と付き合って迷惑をかけるのを恐れているのだろう。

 だけど――。


「関係ないよ。好きなんだもん。」


 コトハさんは少しの間考え、そして。


「……よろしく…お願いします…。」


 と、今度は私を受け入れてくれた。



 私はあてたままの両手でコトハさんの頬を引き寄せる。


「本当にするの…?」

「うん。…嫌じゃないならだけど…。」

「そんなことないよ…!すごく嬉しい…!ただ…容姿に自信がないって言ったらうそになっちゃうけど…ヅキちゃんに比べたら私は綺麗じゃないから…釣り合わないんじゃ…。」

「コトハさんはすっごく綺麗だよ?」

「な…――!?…ほっぺただよね…!?どっちにするつもりなの…!?」

「どっちって、私は口のつもりで……ほっぺたにしようか…?」

「口…!…が、いいです…。」

「そう?じゃあ…。目、閉じて…?」


 ゆっくりと顔を近付けて行く。


 影が、重なるように、ゆっくりと。

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