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こっちもそっちもあっちもどっちもにっちもさっちもいかないけれどもわっちは元気です!  作者: スマイロハ
どっち編

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27話「努力する」

 ファーストキスの相手を自分で選ぶことになったワケだけど、そもそも私は“はじめて”に固執する感覚がピンとこない。

 回数とか時間の話なら理解できるんだけど、最初とか最後とかのなにが気になるのやら…。多分まだ私の知らない理由があるんだろうな。

 でもそれは考えたって仕方がない。私が今考えなきゃいけないことは1つ。『誰にするか』だ。

 ただ…私1人で決めるのは難しいので…。


「――で、私にって?」

「一緒に考えてもらおうかな~…って…。…ダメ…?」


 トイトさんに相談しようと思って家までやってきました。

 ソラさんは今病院行ってるらしくて、他4人には聞けないので。


「…メロンパン。」

「買ってきてます!」


 なんだかんだで素直に付き合ってくれるの優しい。


 ということで、買ってきたパンを貪るトイトさんに話を聞いてもらいます。


「今の候補は?」

「カナミさんかな。スイさんとカノンさんは“いい”って言ってたからで、コトハさんは友達だから。」

「友達って、マジで思ってんの?」

「恋人じゃないなら友達でしょ。」

「…ヅキがお願いしたら付き合ってくれんじゃない?」

「それはなんか違うじゃん。上手く言えないけど…。」


 『断らない』と『OKしてくれる』は全然違うものだと私は思うから。


「そんなに悩むなら私が――やっぱ無理。想像したら吐きそう。」


 そう言いながら2個目のパンを手に取らないでよ。


「今の決め方ならカナミは断ると思う。」

「なに急に。なんで?」

「“芯がしっかりしてるタイプだから”。なーなーで選ばれんのは絶対納得しない。」

「なるほど。じゃあスイさんは?」

「金持ちだから媚び売っとけば将来安泰。」

「いやそれはさすがに…。」


 不健全すぎるでしょ…。


「こんくらいてきとーに考えていい。ヅキが深く考えるべきなのはその(あと)のこと。『選ばなかった子たちにどう接するか』の(ほう)だから。」


 そう言いながら2個目のパンをトイトさんは完食した。

 そして3個目へ手を伸ばす。


「…お腹()いてるならなんか作ろうか?」

「私を脅すとはいい度胸だな。」

「どんだけ私の料理嫌いなのさ…。あれから、カノンさんとコトハさんに習ってちゃんと勉強したから簡単なものなら普通に作れるよ。」

「パンは?」

「焼けるよ。」

「美味しく?」

「…焼けるよ!」


 私が食べた感じ美味しくはなかったけど。


「パン焼けるようになったら食べてやろう。」


 先は長そうだな…。


「それで結局誰にすんの?」

「さぁ…どうしよう…。誰を選ぶべきなのか…。」


 誰を選んでも間違いとかではないのは分かる。

 ただその代わり正解もないんだ。

 こういう選択問題は、私には解けない気がする。


「メリットで考えるのが嫌ならデメリットで考えれば?」

「なにそれ。そんなのないよ?」

「未来の話。その人を選んだ時のことじゃなく、その人を選ばなかった時のことを考えて決めればって。」


 3個目のパンを食べ終わったと同時にいい加減家を追い出されたので、ここからはちゃんと自分と向き合いましょうか…。



 トイトさんと別れた私はなんとなくそこら辺をうろうろしながら“デメリット”を考えていた。


 スイさんは強い人だし、『こだわりはない』とか『負けは負け』って言って断ってたから選ばれなくても大丈夫そう。『紅梅寺(こうばいじ)スイはそんな細かいことには縛られない』んだろうし。

 カナミさんも私よりずっと強い人で、トイトさんの言う通り、『選んでほしい』とは言ってたけど私がちゃんと考えて決めたことかどうかが重要。なあなあで決めたら怒る。

 カノンさんは…そもそも『無理』って言って断ってたし。

 コトハさんは…。


(…コトハさんか…。)


 私は彼女のことをかなり知っているつもりでいる。今の彼女を形作った経緯もある程度は。

 でも、ずっと踏み込めずにいることが1つだけある。

 彼女を選択肢に入れるなら、そのこととはケリをつけなきゃいけない。

 どうなるか分からない結果次第。もしかしたら諦めざるを得ないかもしれない。


(もしかしたら、コトハさんにはひとりになってもらうしかないのかも…。)


 それでも、話さない道はないんだ。


 私はなんとなくで歩くのをやめ、駅に向かって歩き始めた。



 夜。相変わらずコトハさんの家に居させてもらっている私は、家事やら(なに)やらの仕事を終わらせてあとは寝るだけになったところで、コトハさんをベッドに座らせて話しかける。


「今日、私たちだけなんだよね?」

「うん。ふたりとも泊まりだから。」


 コトハさんのお母さんは仕事で、妹さんはキャンプで、それぞれ帰ってくるのは明日になる。

 聞き渋っていたことと向き合うにはいいタイミングだ。


「私もいい加減慣れてきたし、コトハさんに聞きたいことがある。」

「なに?なんでも聞いていいよ。」


 なんでもかんでも包み込むようなその人に、私もいい加減、甘えてはいられない。


 私は彼女の目を見て、そして言い切る。


「私の(なに)が好きだったから話しかけてくれたの?」


 じっと目を見ていれば私でも気付ける。

 一瞬、私の問いを聞いて彼女は動揺を見せた。


「えっと…どういう意味かな…?」


 彼女は質問の意味を理解したくないようだった。


 私はただ彼女の本音を確認したい。

 しかし彼女自身、自分の本音を自覚していないんだと思う。

 それは怖いからとかじゃなく、経験がないからそうなってしまうんだ。


 私は彼女が求める通り、質問の仕方を変える。


「コトハさんは、本当は私のこと好きじゃないんじゃない?」


 それを聞いた彼女は咄嗟に(なに)か言おうとするが言葉は出てこず目を伏せた。


 この人は多分、ミヅキと同じタイプだ。私を自分の人生の一部にしている。『居て当たり前』『居ない状態なんて考えられない』そういうものに。

 ミヅキは私のことを(なに)も知らない。盲目的な尊敬をするだけで、私が尊敬されるような人間じゃないことを考えようとしていない。いや、考える必要がないんだろうな。幼い頃に刷り込まれた像が眩しくて、他の部分を映さないからそれが全てだと思い込んでる。

 コトハさんも、私の“(なに)か”は好きなんだろうけど、それが強すぎて他の部分には関心がないんだと思う。だから“(なに)か”を除けば、私のことなんて好きでも嫌いでもないんだ。

 2人とも、私とはずっと一緒にいられないのに、私がいなくなった後のことを考えようともしていないのが困る。私は私が居なくなった(あと)もみんなには幸せで居てほしい。そりゃもちろん、私が生きてる内は幸せにするつもりでいるよ。でも、ミヅキもそうだけど、私が人生の幸福を奪っているような気がするから。そうじゃないって言うなら、そうじゃないことを証明してほしいんだ。その点、ミヅキは頑張れる子だと思ってるし、だから私は家を出た。

 ただ、社交性があるミヅキと違って、コトハさんの世界は私と同じくらい小さいから、私の基準を信用するならそんなことは無理。私に拒絶されたら彼女はひとりになると思う。

 だから盲目的な好意でも、それ以外で幸せになれないなら、私はコトハさんのそれを受け入れるつもりでいる。あとはその答えだけ。



 時計の音だけがコチコチとする部屋の中、彼女はずっと考え込んでいた。

 そしてやっと、顔を俯かせたままぼそっと言葉を落とす。


「……一目惚れ…なのかも…。」

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