26話「独占欲求」
スイさんとソラさんの一騎打ち。私にはもう何がどうなってるのか分からないくらい一瞬で終わった。
開始の合図とともに距離を詰めるソラさんに、スイさんはなぜか何の抵抗もせずに押し倒され、そのまま地面に背中をつけたのだ。
「――どういうこと…!?何で…!?」
「…単純な力比べならソラは紅梅寺に勝てる。でも技術じゃ敵わんから、一瞬、紅梅寺が“躊躇った”…いや、ソラがガチだったから“躊躇わざるをえなかった”…。」
「…は?…ガチって、結局何?」
「…知らん。」
絶対嘘じゃん。また私だけ誤魔化される…。
「さぁヅッキー勝ったよ!ポイント集計!」
「…え?あぁ、うん。ちょっと待ってて。」
スイさんだって本気だったはずなのに、何でソラさんに勝ちを譲った?のか謎だけど、とりあえず結果発表に移ろう。
というわけで。
「全試合の集計が終わりましたので、順位を発表いたします!」
どぅるどぅるどぅるどぅる…。
「3位!5ポイントでカナミ選手!頑張りましたが、残念な結果でしたね。」
「やっぱり負けちゃったけど、楽しかったからよかったかな。」
どぅるどぅるどぅるどぅる…。
「2位!6ポイントでスイ選手!あと一歩届かずといったところでした。」
「終わってから言うのもズルいのだけれど、ファーストキスにはあまりこだわりはないのよね。あとはチヅキ君に任せるわ。」
どぅるどぅるどぅるどぅる…。
「1位!7ポイントでソラ選手!おめでとうございます!」
「ありがとうございます…!この日のために努力してきた一日一日が報われました…!」
突発開催なのにいつ一日一日があったんだろう。
「振り返ってみますと、2回戦の『駄作映画台詞ゲーム』で、ソラ選手が2位を取ったことが決め手だったように思えます。何か対策などはしていたのでしょうか?」
「そうですね。スイ選手はカナミ選手とあまり深い付き合いがないんです。私はカナミ選手とプライベートで何回も映画を見に行ったことがあるので、問題を作成したのはチヅキさんということもあって、答えられる問題が多かったですね。」
なるほど。さすが、ソラさんはスイさんの弱いところをよく知ってる。
「さぁヅッキー行くよ!」
「…どこに?」
「カノカノのトコに決まってんじゃん!カノカノの全てを奪ってもらうんだから!」
「え?でも今バイト中でしょ?それに遊んだ分の片付けもしないとだし…。」
黙々と片付け作業を始めるトイトさんたちを横目に、私はそう答えた。
「行ってきたら?ヅキちゃん。片付けは私もいるから。」
「いや、でも、コトハさん…。」
「…まだ、ちゅーする勇気、ない?」
「そういうワケじゃ…ないと思うけど…。」
大体、カノンさんは断るんだろうし…。行ったところで…。
「トキノコもこう言ってんだし、行くぞ!」
ソラさんは有無を言わさず、私を引っ張ってカノンさんのところへ連れて行ってしまった。
「――するワケないでしょ。」
勝利報告をしたソラさんは、カノンさんのその一言に膝をつく。
「なんで!?ヅッキーの血吸ってたじゃん!」
「それとこれとは話が違う。キスは無理。マジで無理。」
「…じゃあキスしないでいいからひとば――。」
「殴るよ?」
ほらやっぱりこうなった。
「ねぇなんで~??な~ん~で~??」
「アンタには絶対教えない。」
ソラさんはカノンさんに抱きついてダルが――…スキンシップをし始める。
諦めなよソラさん…。
「ねぇカノンさん。ソラさん、テンション高すぎない?大丈夫かな。」
「…ソラはアタシが見ておくから、チヅキはしたいことして。」
「“したいこと”って何?」
「キスの相手、決めんとなんでしょ?」
あ、そっか。
どうしよっかな…。
てなことなので、2位のスイさんに通話をかけてみます。
『やめておくわ。負けは負けだもの。』
「そう?じゃあ、カナミさんいる?代わってくれない?」
断られたので、そのまま3位のカナミさんに。
『うーん…。…私じゃなくて、チヅキちゃんに決めてほしい…。』
「…カナミさんがいいって言ったら、カナミさんになるの?」
『そうだけど…。本当にそれでいいのかは、ちゃんと考えてほしい。“その上で”なら、私は受け入れるよ。…ほんとは私を選んでほしいけどね。』
“私に決めてほしい”…か…。
またスイさんに戻してもらって、私は相談してみる。
スイさんならほしい答えを持ってるかもしれない。
『――“誰を選ぶべきか”なんて、聞かないわよね?』
「やっぱダメか…。」
『私一人なら構わないわ。だけれどチヅキ君。私たちを競わせておいて、それは、都合が良すぎるのよ。』
「それは悪かったよ。でも…。」
1人を決めるなんて私には…。…『みんな大切な1人』じゃ、何でダメなんだ…。
『…トロッコ問題は知ってるでしょう?複数人と同時に関係を持つということはそういうこと。重くとも、軽くとも、いつか、選ばなくてはならない時がくる。』
「…それが“今だ”って言いたいの…?」
『良い機会じゃない。どういう結果に終わろうと、私はチヅキ君を愛しているわ。』
それだけ言って、スイさんはすぐに通話を切った。
複数人いれば必ず1位が生まれて最下位が生まれる。1人なら考えなくていいそれも、…4人いれば考えなくちゃいけない。そしてその決定権は今、私が握っている。
いっそ投げ捨ててしまいたいと考えても、この手は未練がましく離してくれないのだ。
これでみんなとの関係がなくなるワケじゃないんだ。
いい加減覚悟を決めろチヅキ。こんな選択肢、これから無数に提示されるんだから。
これは、なんてことない1回目にすぎないんだから。




