怖い?
そこにあったのは行き止まりで、一面の壁。
絶望した。自分の予想が外れた。確かにここから気配がする。ここのからの気配が一番強い。いや、この気配すらも罠かもしれない。最悪だ。これじゃあただの怪しい子供にしか見えない。もし試されていたのだとすれば私は失敗したことになる。試されていない場合はもっとダメだ。やはり、人の言うことは聞いた方が良い。自分の考えなど、信じるものではない。
…今考えられる有効な言い訳もない。
私は最後の希望を期待して、先ほどからずっと黙っているノネの方を向く。
「え?」
ノネの顔を見た時、意外にもその表情は、私を怪しんでいるものではなく、頬をぷくーっと膨らませて不満たらたらの顔だった。幼児のような表情でただ黙っている。
状況がわからない。ノネは何に怒っているんだろうか。そしてなんで黙っているのだろう。
私は何をするべきかわからずただその場に佇んだ。
そのまま一分ほど経った時、急にノネの表情が変わり、何かを思いついたような表情になった後、その場でビシッと壁の方を指差した。
壁の方を見たが特に変化はなく、普通の、コンクリートの壁だ。何をすれば良いのか分からず、もう一度ノネの方に振り返る。ノネは壁を指差しながら、再び怒った顔になっていた。
うーん、壁を調べろということだろうか?
何かしなければ、と試しに壁に触れてみた。
ん?なんだこの触感。コンクリート、じゃない?
その時、パッとコンクリートの壁が消えた。ように見えた。コンクリートのようだった壁は一瞬にして液晶画面に切り替わり、そこには「パンパカパーン!わーい!だーいせーいかーい!おめでとー!ぱちぱちぱち!」という文字列が流れていた。
あまりの胡散臭さに呆然としていると、画面が横にスライドし、道が現れた。後ろからノネに背中を押されたらしく、私は呆然としたままその現れた道を歩き出した。
「ふふーん、やっぱノウはすごいね!さすが私の弟子!」
「ノネ、どういうこと?これ。わけがわからないよ。」
「あー、えっとね、説明するの面倒くさいからソラから聞いて。」
そう言いながら私の手を引き、道の先に見えるドアを目指して歩き出した。
私は何が起きたのか、なんでノネが上機嫌なのかもよくわからずノネが開いたドアから部屋に入る。
「あ、ソラさん。」
その部屋にはソラさんがいて、心無しか、どこか不機嫌そうだった。
「ね?言ったとおりになったでしょ?ノウはすごいって言ったじゃん。」
ノネがソラさんに向けてニヤニヤしながら言った。
「あーはいはい。僕の想像よりノウはすごかったみたいだ。負けたよ。残念なことに。」
その言葉にノウはふふんと胸を張っていた。
「あの、どういうこと?二人で喋られても、分からないよ。」
二人でやり取りされても私の頭の中はハテナしか浮かばないわけで、説明が必要なのだ。どうにかしてくれ。
「ああ、そうだね。ごめん。ちょっとノネは部屋の外で待っていてくれるかい?ノウと二人で話がしたい。」
「えー?なんでよ!私はノウの師匠なのに!」
「いや、でもこれノウのテストだから。ノネがいたら本音を言って話せないかもしれないだろう?」
「うー、分かった。でもノウの師匠は私だからね。変なこと吹き込まないでよ!」
「はいはい。」
そんなやりとりをした後、ノネは部屋から出た。
部屋に残ったのは私とソラさんだけ。なんだろう、すごく嫌だ。でも何故なのか分からない。
「ふー。えーっと、そうだなあ、とりあえず今起きたことの全容を説明するよ。」
「あ、はい。」
ソラさんは部屋にあった回転椅子に座り、ぐるぐると回りながら説明をし出した。
「まず、今の出来事はすべてテストだ。君を試すためのね。ちなみに結果は、合格。つまり君はうちの組織に入れるということだ。それで、いくつか君に質問をしたい。今からする質問は直接テストには関係しないから。正直に答えてくれれば良いよ。それが終わったら全て話そう。まあ、質問する最中にほとんど理解できると思うけど。じゃ、質問して良いかい?」
質問、別に問題ない。正直に、答えれば、良い…
「…。」
え?
「…あ。」
声が、出ない。話が、できない。なんで?どういうこと?
わからなかった。自分のことが。何故喋れない?喉の調子が悪いわけでも、口を閉ざされているわけでもないのに、なぜか、言葉が出てこない。ただ、はい、と言うだけで良いのに。質問に答えれば良いだけなのに。
私はただ口を開いて固まっている状態。相手からすれば、はい、とも言えない阿呆な子供に見えるだろうか。
…相手って誰だ?私が話すべき相手。
ソラさん?だよね?なんでだ?ソラさんとだけ話せないということ?おかしいにも程がある。ノネとは普通に喋れた。ソラさんとも、会った時は普通に会話できていたはず。
なんで?なんで今だけ話せないの?
言葉を発することができず固まる私を見て、ソラさんは不思議そうな顔をしている。当たり前だ。でも、私ですら今の自分の状況がわからないのだ。
どうすれば、いいの?
「大丈夫?質問、良い?」
「え…あ……」
頭がいたい。お腹が痛い。殴られた時とは違う痛み。なんだ?これは?
「あー、なるほどね。君、僕が怖いのか。ちょっと待ってて。」
そう言うと、ソラさんはドアを開けて外にいたノネを連れ戻した。
「もう終わったの?早いね。」
「いや、まだなんだけど、やっぱノネがいた方がノウが話しやすいみたいだからさ。」
「何それ。じゃあ最初からずっと私が部屋にいてもよかったじゃん!」
ノネは文句を言ってげしっとソラさんの足を蹴る。
「まあまあ、とりあえずノウと話したいから、そばに居てあげて。」
「あ…ノネ。」
ノネが私の隣に立ち、そして座った。
「ノウ、今僕と話せる?」
「あ、はい。」
先ほどと違い、言葉がするりと出てきた。
「やっぱりか。」
「どういうこと?」
やっぱり、と言われてもなんのことか分からない。
「ノウ、君は僕のことが怖いね?昨日会ったばかりだし、慣れてないのも当然だ。」
「そう、なのかな?でも、今は話せる。なんで?」
「多分、ノネがいるからだね。ノネは君と同年代だし、僕よりも長く一緒にいる。だから、安心できるんじゃないかな?」
そういうことか。ノネといるとソラさんとも普通に話せて体の痛みもないのはそれが理由か。
「確かに、そうかも。」
「ならよかった。そのまま質問に答えてくれればいいよ。」
「はい。」
ソラさんと普通に話ができていることに少し安心した。あんなに焦ったのはあれが初めてかもしれない。とにかく、これ以上変なことはしたくない。質問に答えなければ。




