6月8日 世田優斗
いよいよ世田のみとなった那奈のガサ入れ。今日のために準備を進めてきた。
世田優斗。八代北中学校出身で那奈の幼なじみだそうだ。メガネをかけ、ずっと本を読んでいるので根暗なイメージがついている。男子も女子も彼と話している場面は、あまり見ない。世田と幼なじみである那奈も、学校で世田と話している場面は見たことがない。
那奈が、世田と本当に仲が良いのか少し疑問だ。世田のガサ入れは、昼休みに行う。まもなく、昼休みになろうとしていた。しかし、他の生徒がいて、世田と1対1になることは、難しかった。だが、世田は、一人で休み時間を過ごすことが多いと思い、彼の様子を見ていた。
チャイムが鳴ると、予想通り、世田は、教室を出ていった。世田のあとを追うと、一つ上の階にある教室にいった。他の教室に移動したのだった。世田が移動した教室は、次の数学IIの授業があるところだった。
世田にバレないように教室についたものの、どうやって入るか悩んでいた。世田は、お弁当を食べずに、持ってきた本を読んでいた。
私は、思い切って、教室に入っていった。教室の後ろの方にいた世田は、私に気づいていなかった。少し大きめの声で、話しかけた。
私 「何してるの?」
私の方に気づいて、めんどくさそうに返答した。
世田「本読んでるだけ」
世田の返答を聞きながら、席に近づいた。
私 「何の本読んでるの?」
世田「言ってもわかんないよ」
世田の話し方にムッとしてしまった。
私 「じゃあ、言ってみなよ」
世田「『最後の夢まで』」
私 「しらんわー」
世田「だから言ってるじゃん」
私 「いいじゃん、ちょっとぐらい」
世田「もういいよ。知らないのわかってるし」
イラっとした私は、声量が上がった。
私 「そんな言い方するから、誰も話さないんだよ」
世田「いいよ、もともと誰とも話す気がないから」
私 「そんなんじゃ、那奈悲しむよ」
世田「僕は、アイツと関係ないよ」
那奈の話を出すと、明らかに機嫌が悪くなっていた。
私 「そんなこと言ってー」
世田「アイツが何言ってるか知らないけど、僕は一人で生きてるんだから」
私 「何よ、それ」
世田「もう、いいだろ。本読ませてくれよ」
少し強い口調で話した。
私 「いいじゃん。ちょっとぐらい話してもさ」
世田「何がしたいの?」
私 「何がしたいとかじゃなくて、一緒にお話しようって言ってるだけじゃん」
世田「僕は、新谷さんと話すことは何もないよ」
私 「そういう話し方するから、誰とも話さなくなるんじゃん」
世田「僕はそれでいいの。誰とも関わりたくないの」
世田には、自分の世界があった。それを誰にも邪魔されたくないのだろう。
私 「そんなんじゃ、那奈が心配するじゃない」
世田「知らないよ、アイツがどう思おうが。もう帰ってよ」
私 「じゃあ、那奈のこと、どこまで知ってるか教えてくれたら帰るよ」
世田「なんだよ、それ。僕は、何も知らないよ」
私 「知ってること、全て言わないとずっとここにいるよ」
私も負けずに、世田と交渉した。
世田「何も知らないって」
私 「ふーん。じゃあ、ずっとここにいるね」
世田「だから、何も知らないって」
私 「那奈は、今どこにいるの?」
呆れた世田は、口を開いた。
世田「病院にいるんじゃないの?」
私の予想が的中しており、少し驚いた。
私 「知ってるじゃん」
世田「本人が言わないでって言ってるから。もう、いいでしょ」
私 「他は?」
世田「他?」
私 「知ってること、全部言って」
世田「うーん。今は、戻れないけど、夏休み以降に戻ってくるんじゃない?」
私 「何の病気なの?」
世田「それは、知らない。そんなこと聞いてどうすんの?」
世田が少しイラついた様子で私に問い始めた。
私 「いや、別に‥‥」
世田「なんでも、人のプライベートに突っ込むと、友だちいなくなるよ」
私 「うるさいな」
世田「アイツのことなら、あんまり詮索しない方がいいよ」
私 「でも‥‥」
世田「これからも、友だちでいたいんでしょ?」
私 「うん‥‥」
世田「そのくらいにしといたら。もう、俺、図書館に本返しに行くから」
那奈の話をする世田は、とてもカッコよかった。
私 「わかった‥‥。」
世田「アイツのことは、僕がなんとかするから」
私 「‥‥。ありがとう」
世田「うん」
世田は、机に置いていた本をもって、教室から出ていった。私がこれまでしてきた行動は、間違っていたのだろうか。
世田の話を聞いて、自分の行動をふりかえってみていた。私は、結局、那奈が何をしていたかだけしか興味がなかったのかと思ってしまっていた。
自分の行動より、ずっと那奈が戻ってくるのを待っていた世田の方が正しかった。自分が嫌になって、私も教室を後にした。